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【小説・ヴィーナス症候群】[926]火山シマウマ風鈴

代々木八幡の鬱蒼とした緑に囲まれた広壮な邸宅。
かつて海坂藩の外屋敷であったその場所は、いまやリゾート系アパレルブランド「Palma」の本社兼アトリエとして静かな時を刻んでいる。

軒先で揺れる風鈴が、チリンと涼やかな音を運んできた。

休憩時間、スタッフがやかんの麦茶を飲む。

「喉乾いてたんだよね」

生まれつき両腕の無い試着モデル――「トルソーさん」こと浜中悠里は、畳に腰を下ろし、縁側から吹き抜ける風に髪をなびかせていた。
そこへ、上品な白髪を纏い、端正な着物を召した代表がゆっくりと歩み寄ってくる。
その手には一枚の絵葉書が握られていた。

「ジュネーブの麗羅さんから暑中見舞いの絵葉書が来たの」
代表がそう言って、悠里の目線の高さへと絵葉書を差し出した。

烏丸小路麗羅。Palmaの上得意様だ。

彼女もまた、悠里と同じく生まれつき両腕の無い「ヴィーナス児」であり、現在はジュネーブに本拠を置く財団の理事として世界中を飛び回っている。(本編874

絵葉書に描かれていたのは、雄大なンゴロンゴロ火山のカルデラを背に、力強く群れるシマウマたちの姿だった。
だが、そこに添えられた麗羅の流麗な文字が伝える近況は、その平和な風景とは裏腹にあまりにも凄絶なものだった。
その地には違法な野生動物ブローカーが横行しており、富裕層向けにワシントン条約に違反した捕獲が相次いでいるという。
麗羅はいま、現地でその密猟組織からシマウマを奪還するプロジェクトに協力しているらしかった。
曰く、向こうもこちらも武装組織であり、はっきり言って戦争なのだ、と。

「……日本でも動物芸させてるような所のシマウマも、こんな方法で手に入れてるのかしらね」

絵葉書を見つめながら、代表がふと呟いた言葉に、悠里は静かに首を振った。
「調べないほうがいいよ」

チリン、と風鈴が小さく鳴った。

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