東大入試がAIに超えられた日に、見えなかった問い
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「AIが東大首席を超えた」という知らせは、あっという間に広まりました。
多くの人が「AIが人間の知性を超えた」と受け取りました。
でも——AIが超えたのは、どんな種類の能力だったのでしょうか。
AIは今、何ができるのか
まず、今のAIに何ができるかを整理してみます。
文章を読んで、内容を正確に要約できます。
見たことのない数学の問題を、筋道を立てて解けます。
「なぜそうなったのか」を論述形式で書けます。
共通しているのは——「言葉で考えて、言葉で表現する」ことです。
読む、推論する、論述する。これらを、人間のトップと同等かそれ以上のレベルで行えるようになりました。
東大入試が測っていたもの
東大の入試問題を、少し考えてみます。
数学——見たことのない問題に対して発想し、筋道を立てて論証する。
英語——文章を読み、要約し、自分の考えを英語で書く。
歴史——覚えた事実を並べるのではなく、なぜそうなったかを論述式で考察する。
どれも、「覚える」だけでは足りません。考え、組み立て、言葉にする。
東大入試は、単なる暗記ではなく、たしかに思考力を問う試験でした。
けれど——その思考は最終的に、「言葉にして、紙に書く」という形で問われていました。
AIが超えたのは、何か
2026年、AIは東大の入試問題を解き、合格者の最高得点を上回りました。
数学では満点に近い点数を出し、論述問題でも採点者が合格水準と判定する答案を書きました。
AIが超えたのは——「言葉で考えて、言葉で表現する能力」でした。
東大入試が問おうとしていた、まさにその能力です。
では——AIに超えられていない能力は、何でしょうか。
チェスの名人が持っていたのは、何だったか
1973年の実験を思い出してください。
チェスの名人が持っていたのは、「駒の位置を覚える記憶力」ではありませんでした。
数万局の経験から積み重なった「盤面を見た瞬間の感覚」でした。
「次の一手を論述してください」と問えば、名人は言葉で答えられます。
けれど、その言葉の裏には——言葉になる前の何かがあります。
哲学者ポランニーの言葉を借りれば——
「語れる以上のことを知っている」
測られなかった知識
ロンドンのタクシー運転手の海馬が物理的に変わるような、
「経験の中で身体に積み重なっていく知識」は——
論述の答案用紙の上に書き出せません。
「見え方が変わる」という変化は、問いに答えることとは少し違います。
AIが超えたのは、「言葉で表現できた部分」でした。
言葉になる前の部分は——まだどこにも問われていません。
「言葉で表現できる思考力」をAIが超えたとき——
チェスの名人の「言葉になる前の感覚」は、同じものでしょうか。
これからの時代に問われるのは、どちらでしょうか。
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