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六岡資生の嘘つきな秘書 ⑵

「総務の灘原さんより礼状が届いております」

 ある日の八柳からの報告のなかに、耳慣れない名前があって、資生は目を通していた書類から顔を上げる。こういうタイミングでなされる報告は、八柳的に聞き流して構わない類という意味だったが。

「灘原……。ああ、ボヌールの。お礼ってクッキーのかな?」

「はい。社長に対し、何をもって礼にさせて頂けばいいのかわからなかったそうで、まあ、それもそうでしょう。愚問です」

「あのね、俺だってそれなりに欲しいものはあるよ? まあ、いいや。それで?」

「礼状と共に秘書課で飲む用に紅茶のティーバッグをいただきました。イギリスの名門ブランドのもので日本国内に店舗はなく、都内ホテルのショップでのみ購入可能の商品でした。五千円相当です」

そのタイミングで鈴が顔を出し、
「灘原さん、センスがよくて正直びっくりしましたよ。すごく美味しい紅茶ですから、社長も飲んでみられたら?」

「ふーん。鈴が誉めるの珍しいね」

 資生は会話の方に集中するために、手にしていた書類をいったん置く。
 明るく見晴らしのいい社長室に、資生と鈴と八柳。いつものメンツだ。
 秘書課には他の重役付きの秘書も含め十人ほどいるが、部屋でざっくばらんに話をするのは直属の秘書であるこの二人との時だけだ。

「だって、すごくいい子なんですよ、仕事ぶりも。好きだわー。社長、秘書課にスカウトしません?」

「へえ、そこまで惚れ込んでるとは想定外だ」

「そう言えば、社長のユーチューブ観てるそうですよ、彼女。いいじゃないですか、愛社精神」

「それはありがたいな。八柳はどう思う?」

「なんと言うか、対外的に与えてる印象として、『デキる』感じがしません。隙のない風格も社長を支える秘書としての大事な要素ですから」

 八柳が眼鏡の奥の瞳を光らせるような眼差しで言う。

「まあね、八柳くんの言わんとすることはわかるわ。バリキャリ感はあまりないかもしれないけど、目立たない分、彼女の仕事は真面目で細やかよ。実際、あの日も彼女がかなりフォローしてくれてた」

「確かにパーティーのときも仕事ぶりは悪くなかったですが」

「普段の仕事も私は少しは知ってるし。社長、実際、深刻な人手不足なんです」

「わかったわかった」

 社長机に両手をついて直談判の構えを見せる鈴を無視して、資生はガラス窓の方を向き、腕を組んだ。

「灘原さん……。なんかさ、どこかで見たことある気がするんだけど、思い出せない」

 首を捻る資生に、心得たように八柳が、
「たとえば社内を一巡すれば、どこかで灘原さんを見かけることができますよ。ですので、社長も何かしらどこかでお見掛けになっているはずですので既視感はそれでは?」

「社内を一巡って、どういうこと?」

「総務のエースといいますか、いろんなところでいろんな雑事を任されています」

「灘原さんってば、キャラに似合わず、顔が広いのよー。それも秘書向きじゃない?」

「そこここでいいように使われているだけで、私はどちらかと言うとイライラしますが」

 資生は、肩をすくめた。

「口うるさいのと冷血漢とで、そうだなぁ、秘書に癒しが欲しいなぁ」

「口うるさいのが私か八柳君かどちらのことを指しているのかはあえて尋ねませんけど。灘原さん、癒しになると思いますよー?」

 その時、資生のスマホが鳴る。表示された名前に、短いため息をつく。

「もう一人、うるさいのから着信だ」

『ねぇ、どっちがいいと思う!?』

 ビデオ通話の画面いっぱいに二着のドレスが映し出される。
 その後ろから、整いすぎていると言っても過言ではない美しい顔が見え隠れしている。
 資生の幼馴染であり、表向きには婚約者となっている叶永遠子かのうとわこだ。

「いきなり何? 仕事中なんだけど」

『だからドレス! どっちがいいって聞いてるの。今度のパーティー用なのよ。資生のためにセッティングしたパーティーなんだから』

 今はオーストラリアにいるらしい永遠子が、今度、現地の高級キャンピングクラブの会員を招いてパーティーを開くことになっている。

「それは感謝してるけど、ドレスは永遠子とわこが好きなのを着ればいいでしょ。俺の意見なんかどうでもいいくせに」

「そんなんじゃモテないわよ。こっちの方が似合うくらい言わなきゃ。ホント、役に立たないんだから。もういいわ。じゃあね』

 引き留める間もなく通話が終わる。

「ったく永遠子のやつ、相変わらずだよ」

 姦しい一部始終を見守っていた鈴が、資生のため息が吐かれる前にすかさず口を開いた。

「社長。灘原さんにいただいた紅茶、お飲みになられてみては?」

「うん、そうだね。たまには紅茶もいいね。あ、八柳、もらった手紙も読むよ」

 八柳が資生に見咎められない程度に目を見開く。

「……何のことはない通り一遍の内容ですが」

 八柳のところで破棄されるはずだった封書は、計らずも資生の目に触れることになった。

「あ、いた」

 楚乃が社内を歩いていると前から資生と八柳が二人で歩いてきた。
 言葉を交わしたことはなくとも、会社ですれ違うくらいのことはこれまでもあった。
 ただ今は、明らかに資生は楚乃を見ていて、ましてや意味のある笑顔で楚乃に向かって近づいて来ている。

「お疲れ様、灘原さん」

 まさかの名前を呼ばれて、飛び上がるように二つ折れになって礼をする。

「えっ、はい! 私、ですか!? お、お疲れ様ですっ」

「えっと、それ、脚立……? どうするの?」

 楚乃が脚立を肩に担いでいるのをみとめて、不思議そうに言った。

「え、LEDの交換をするのに使いますが……」

「LEDって切れないんじゃないの?」

「切れることもたまにありまして」

「そういうのって管理会社がするんじゃないの?」

「そうなんですが、守衛さんもお忙しいですし、私もできるので。あの、なにか……」

 矢継ぎ早の質問に不安が増す。何か問題があるのだろうか。

「社長、手短にお願いします」

 強引に言葉を挟む八柳を「わかってる」と制して、
「制服のスカートで? 業務に差し支えない?」

「はい、あの、総務は作業着を上下支給していただいてます。今は私が履き替えるのを怠っているだけです。大変申し訳ありません」

「あ、ごめん。謝ることではないよ。そんなつもりで聞いたんじゃなくて、世間話のつもりなんだけど。脚立に登るのかって少し驚いただけ」

 おずおずと納得してみせたが、これが世間話ならばなおさら意味がわからない。
 資生が、他の社員の通行の邪魔にならないよう廊下の脇にずれたので、楚乃もそれに従った。自分が人を避ける必要などない身分なのに細やかな気遣いができるのだと尊敬する。
 つまり楚乃への話はまだ続くようだ。時間は大丈夫なんだろうか。

「ところで、灘原さん、就活の時、僕と面接一緒じゃなかった?」

「……はい、そうです」

 楚乃が肯定すると、「やっぱり!」と資生は破顔した。

「まさか、覚えててくださったとは」

 信じられないことで、楚乃は小さく震えた。

「覚えてた。ちょっとだけ忘れてたけどね。でも、パーティーの時からずっと引っかかっててやっと思い出したんだ」

「あっ! あの、その節は貴重なクッキーをいただきありがとうございました。私ってば、まずお礼を言わなければいけないところ、申し訳ありません!」

 再び二つ折れになると、資生は困ったように笑って、
「いやいや、それはもう礼状をもらってるんだし。こちらこそ、美味しい紅茶をありがとう。でもその手紙おかげで思い出したんだ」

「手紙に何かございましたか」

 楚乃は面接のグループディスカッションの時、書記役だった。資生はその時のホワイトボードの文字がとても印象的で覚えていたと言った。

「それで、今回の手紙も見事な達筆だったから。鈴、八柳もとても褒めていたよ。ね?」

 突然会話を振られた八柳が「ええ」と無表情で頷いた。その様子はけして手放しで褒めているようにはうかがえなかったが。

「板書も要約も的確だった。ほら、みんな自己主張強かったから大変だったのに。僕が発表する資料をまとめてくれたの覚えてる。当時から優秀だったんだね」

「そんな! 優秀なんかじゃなくて、いえ、一生懸命頑張らせてはもらってますが、優秀というわけでは……」

「うんうん。でも、他のところでも内定もらえたんじゃない?」

「……それは、おかげさまで」

 楚乃は低頭した。

「それでも、うちを選んで来てくれてありがとうございます」

「……あの、社長は、あの時……」

「うん?」

「その、サクラ就活生だったんですか? 最終面接にはおられなかったので」

「いや、サクラっていうか、僕もいずれうちに戻ることは決まってたから、将来の社員なわけだし、青田買いっていうと上からだけど潜入捜査くらいの意識はあったかもしれないけど、僕のこと気にしてくれてた?」

 再び会えて実は嬉しかったですなどという下心は言えるわけがない。

「いえ、あの、……はい。面接でとても優秀だったのにどうしてかなとは思いました。なので、新社長としてお見えになったとき、びっくりしました」

「こうして灘原さんとあの時のことを話せて嬉しいな。会社に尽力してくれていると聞いています。ありがとう」

 極上ともいえる資生の営業スマイルと営業トークに、楚乃はまんまとのぼせて、
「いえ、そんな! あの、私こそ、これからも精一杯、誠心誠意務めますので、末永く、ルートシックスでお世話になりたいと思っております! キャンプとかアウトドアにも詳しくなりたいと思います。あ、YouTube観てます!」

 楚乃は一気に言い切った。

「うん、鈴にきいた」

「あれ、社内向けには嘘くさいって評判よくないんだけどね。灘原さん、アウトドア、好きなんだ?」

「いえ、あまりしたことありません。でも、キャンプ飯とか、社長のレシピで作ったりしてます」

「アウトドアしないのに?」

「その、……家で食べます。家でも美味しいです」

「新しいな」

「社長」

 資生は顎に手をやってしばらく考えていたが、八柳にこれ見よがしに腕時計を見るしぐさをされて、
「あー、ごめん。灘原さん、また」

「いえ、私こそ申しわけありません。長々と話をしてしまって……」

 資生は申し訳なさそうに、先にあるエレベーターホールに向かって行った。

 資生に廊下で話しかけられた日から、楚乃の中で資生の存在がひどく近くなったことは確かだったが、だからと言ってその毎日に資生との接点が増えるということは全くなかった。
 たまに見かけることはあったが、それは、こうして知り合いになる以前と変わらないだけだ。

 ただ、寝る前の暇な時間に楚乃は、すでに投稿済みのルートシックスの動画を見直したりすることが多くなった。
 これまでは、ただのその他大勢の中の一視聴者だったのが、今は『知人が出演している』という立ち位置に変わって観れば、新しい発見があった。撮影時の背景や小物、今までは同じに見えていた公私の表情の違いに気づいたりもした。
 生身の資生を見て知った今だから、より魅力的な動画に見えた。

 もし、転属がかなうことがあれば広報に異動して、動画作成に関わってみたいとそんな野心まで芽生えはじめたある日、事務仕事を片付けていると内線が鳴った。
 秘書課からだった。

 エレベーターが到着階に着き、カーペットの色から違う静謐なフロアに降り立つ。

 楚乃がこの階に来ることはあまりない。重役周りの雑務は、秘書課で対応されることがほとんどだからだ。
 ガラス扉の向こうにある受付で鈴が待っていた。

「呼び出してごめんねぇ。社長がお呼びなの」

「えっ、社長が、ですか!?」

「まあ、話は直接聞いて。社長、灘原さんです」

 慌てて手櫛で髪を整えたが、手は変な汗でべたついていた。化粧直しもせずに来た。
 何の話があるというのか。社長室など初めて入る。

「……失礼します。灘原です」

 鈴の後をついて入ったそこは、まさにドラマで見るような社長室だった。
 何しろガラスの向こうの空が広くて、明るい。
 楚乃やその他ほとんどの社員が働く、雑然として忙しない階下とはまるで別世界だ。

「ごめんね、突然呼び立てたりして」

 資生は社長机ではなく、応接セットのソファから立ち上がった。
 八柳は傍に控えているのかと思ったが、今はその姿は見当たらない。

「あの、何か……?」

「あのさ、ボヌールのジャムクッキー。期間限定でアプリコットが出たんだ。食べてみない?」

 楚乃はまさかの内容に、一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに我に返る。

「えっと、あ、はい! ぜひ、食べてみたいです。アプリコット!」

「僕もまだ食べてないんだ。鈴、紅茶をお願いしていいかな? 灘原さんはどうぞ座って」

「え? 今ですか? ここに、クッキーのご用意が? あの、ここで私もいただくのですか? いえ、無理です。仕事中ですし! そんな私……」

「灘原さん、これも仕事のうちと思って。せっかくだから召し上がって。お茶をいれて参ります」

 そう言って鈴が笑顔で出ていく。

「いえ、でも……」

 楚乃は訳がわからず、おろおろと腰を下ろせずにいた。
 お茶出しなら平社員の楚乃がするべきだが、社長に出す紅茶をいれる自信もない。

「ともかく座ってくれないと僕が困る」

 楚乃も困るが、社長を困らせるのはこれもまた困る。

「……わかりました。では、失礼いたします」

 仕方なく、せめても深く頭を下げてから、沈むソファに腰掛けた。
 膝丈のスカートから膝が見えて気になって仕方ない。

 楚乃の恐縮ぶりを見て、資生は、
「ごめん。たかがクッキーに、こんな仰々しくしたくはなかったんだけど。灘原さんに話かける機会がなかなか見つけられなくて。この前みたいにばったり会えないかなって意味なく社内とウロついてみたりしたんだけど、目に見えてみんなが構えちゃうんだよね。かといって、総務に凸るのもみんな驚くだろうから」

資生はどうも努力をしてくれていたらしい。たしかに、総務に突然社長が現れたらびっくりして何事かと大騒ぎになるだろう。

「社長にはご不便をおかけして申し訳ありません。ご用でしたら、呼び出して下さればすぐ参りますので」

「うん、呼び出すのは簡単なんだけどね、それはちょっと権力を行使してるみたいで」

 社長がそれをして、何がいけないのかわからないでいると、
「スマホ、今持ってる? ちょっとメモして欲しいんだけど」

 楚乃は首を振った。

「メモ帳でしたらここにありますので、何かご指示等ございましたら仰っていただければ私の方で控えます」

 楚乃は制服のベストのポケットからみすぼらしい角が毛羽立ったボロボロのメモの、新しいページを見せて示した。

「貸して」

「えっ」

 資生は内ポケットから重厚なペンを出し、キャップを開けてさらさらと書き込む。
 楚乃が胸ポケットに指している百円のプラスチックのボールペンとはえらい差だ。

「実は、新規顧客に女性を取り込みたいんだ。誘われてアウトドアに参加する勢ではなく、生き抜くためのサバイバル術。災害時にも役立つような。灘原さんなら、ちょうどアウトドア初心者だし、意見を聞かせてほしいなって」

「私の意見でいいのであれば、それは喜んで協力させていただきますが」

「で、僕の裏垢、肩書にとらわれずにやってる。全然、キラキラしてないけど」

資生はメモ帳にアカウント@以下を書き込んだ。

「検索してみて」

「え?」

 ノックの音がして、鈴が入ってくる。
 ふんわりと湯気に乗って香りが漂ってくる。
 楚乃が礼にした紅茶を気に入って、秘書室に置くことにしたと資生が教えてくれた。

 *

 資生の趣味はソロキャンプだ。

 それは世間でブームになる前からで、もっとも家業に影響を受けていることは間違いないが、仕事は関係なく、多少の不便を工夫で補う野外の生活を本当に楽しく思っている。
 このテリトリーは、経営者や御曹司仲間のコミュニティとは分けたく、連れ立って行くとするなら思い浮かぶのはほんの数人しかいない。大学時代のワンゲル部の友人だ。

 資生のプライベートのSNSアカウントでは本名も顔も出していない。キャンプのあれこれをメインに発信してはいるが、ただのアウトドア好きの男性アカウントのフォロワーは多くない。結局のところ、それが肩書をとっぱらった六岡資生の素の姿であり、評価価値なのだと知っている。

 東京で暮らしていると、行動範囲はひどく限られている。

 狭いという意味ではなく、限定されているのだ。
 どこでも資生の行く先々には知人友人がいて、それは階級の外の人間に脅かされない安全地帯だ。
 一般的な店に行くこともあるが、そこでの資生は異質だと大学時代の友人に言われたことがあって、その時から『違い』に気づくようになった。
 自分は普通ではないということ。良くも悪くも、ある種の一握りの中にいるということ。
 そのことを息苦しいと思わないようにしている。
 ただ、息を吸いたくなったら、山へ行く。
 楽しくて好きで行っているはずだが、その実、避難所の役割も大きいのかもしれない。

 とはいえ、資生の立場ではそんな時間もなかなか取れないのが現実で、一人で暮らしている自宅マンションの部屋の一つをアウトドアルームにしていた。

 室内にはテントが張ってあって、椅子やテーブルもアウトドア用のもの。室内の照明はつけることはない。代わりにランタンやLEDと音でいかにも本物の薪が燃えているように見せる焚火のガジェットなどを明かりにして過ごす。

 アカウントIDを楚乃に渡したその夜、新しくフォローされた。

 資生は仕事のあとの会食を終えて、自宅に帰り、シャワーをして、もうすぐ日付も変わろうという頃からパエリアを作りはじめた。
 キャンプ飯の定番だ。本格的というよりは、アウトドア用に簡易にアレンジしたものだ。スキレットと冷凍の食材を使ってすぐにできる。

 資生は育ちによらず、自炊をする。
 それを得意に思ったことはないが、湯を沸かせない、もとい湯を沸かしたことのない友人も多い。

 出来上がるまでの間、少し仕事を片付けようとタブレットを見ていた。
 おそらく、資生はその間気づいていないふりをしていたがずっと待っていた。通知が鳴るのを。

 仕事に忠実な楚乃なら、即日、行動するはずだとその予想は的中した。

 タブレットを置き、代わりにスマホを手に取ってそのままソファに寝転がる。
 新着に表示されているのは、まごうことなきアカウント名だった。

「SONOってまんまだし」

 逸る気持ちでSONOのページに飛んでみて、思わず資生は眉をひそめた。
 どうやら映画のポスターの写真ばかりがずらりと並んでいて、そのどれにもコメントはついてない。ただ写真のみ。
 最新のものは昨日。
 投稿の日付をさかのぼるとどうやら一週間に一枚のペースであることがわかった。

 プロフィールにも何の記載もない。
 しかし、歴史はあるので、わざわざ今日、資生ためにアカウントを作ったということはなさそうだ。

「灘原さん、かなりの映画好きなのか?」

 ざっと過去の投稿も見てみたが、資生の知っている映画は三分の一もなかった。

「……きっかけ、ムズすぎだろ」

 ソファから起き上がり、『#家でキャンプ飯』とハッシュタグをつけて、出来上がったパエリアの写真を投稿する。

 しばらくすると、他のフォロワーに混じって、SONOから反応が来た。

 資生もSONOをフォローして、一番新しい投稿にいいねを送るとともに『映画好きなんですか』と短いコメントを送った。
 反応を待っている間に、資生はいつの間にか寝てしまっていた。


⑶へ


#創作大賞2026
#恋愛小説部門


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