六岡資生の嘘つきな秘書 ⑸
*
「本気で彼女が欲しい」
朝からなにやら思案気味だった資生から、おもむろに発せられた言葉に、鈴と八柳は無言で視線を交わした。
「えーっと、彼女って言うのは、灘原さんのことで、合ってます?」
「うん」
社長室のタイルカーペットはブルー色で、望める景色の晴れやかさと相まって清々しい。
資生はなんの苦労もなく育って来た甘ちゃんではあるが、またはそう育ってきたからこそなのか、人としての正しさと優しさに溢れるまごうことなき善人であると八柳は評している。
他者に悪意も敵意も持たないので人から嫌われることはないし、平和主義で他人を慮ることを常とする性分なので、自分勝手やわがままを通すこともほとんどない。
そんな資生に、八柳は最近は異変を感じていて、そしてその勘は正しかった。
「……それはどういう意味で?」
そわそわ浮足立っている鈴を傍目に、八柳は冷静に問い返す。
「正直、永遠子が三十まで結婚しないって言ってたことに初めて感謝した」
「えっ、そういう意味で? 社長、本当に!?」
鈴は好奇心がもう声色に出てしまっている。
「社長、そのポジションに一番重要なスペックは「出自」です。私は、社長が道を踏み外されるのを黙ってみているわけにはいきません」
「道を踏み外すって、そんなことはないよ」
「あります」
資生の顔から笑みが消えた。
「社長こそよくわかっていらっしゃるでしょう。あなた方のコミュニティことは」
「ああ、ひどく偏っている。基本的に外部者は排除される」
「そうです。彼女なら理解もあり、うまくできるとお考えかもしれませんが、違います。彼女が身につけているのは使役される側のマナーです。『本物』は知っていても、彼女自身は本物ではないし、一朝一夕でなれるものではありません。生まれと育ちで培われるものです」
「……あー、ほんと面倒だな。知ってはいたけど」
「ご面倒なりに、社長はこれまでそこで生きてこられて、これからもそこで生きていかれるんです。それが当然なんです」
資生と八柳、両者の会話が続かなくなり、重くなりかけた空気を、鈴の声が霧散させた。
「あー、社長。それはアレですね。初恋かもしれません」
「えー、初恋? まあ、確かにドラマみたいな熱烈な恋愛はしたことはないけど、さすがにそれはないよ」
「いえいえ、社長はこれまで変化のない交友関係で生きてこられたじゃないですか」
「うん、まあ、それはね」
幼稚園から大学まで、エスカレーター式ということもあるが、それ以外でも学友の顔ぶれはほとんど変わっていない。
学校以外でも社交の場で幼いころから顔がつながっている。
そこに常に永遠子もいた。親の世代であっても『どこそこの誰それ』で通じるし、そもそも知っている。
選ばれた者だけで構成される枠の中。そこからはみ出ることは許されないし、考えもしない。そこが自分たちにとって最適解だと知っているからだ。
関わるとして、一過性の表面的なもの。
特に異性に対しては、そらにそれが徹底される。婚姻に関わってくるからだ。
自分たちの暮らす領域にもしごく当然に、自分たち以外のあまたの人間が社会生活を営んでいるというのに、それ以外の人間はもはや認識はモブに近い。
自分たちか、それ以外か。
そんな特殊なコミュニティの中で資生は生きている。
「社長が、それ以外の人を『個』として初めて目に入れたみたいな状態なんですよ。同じ階級以外の女性に気を留めたのがきっと初めてで。あれです、ヘレンケラーの『ウォーターの奇跡』ですよ。あ、恋に恋してるとも言うかも」
「えー、そんな恋愛初心者みたいなの、なんかかっこ悪いなぁ」
「社長」
八柳は決意を改め、資生にずいと詰め寄る。
「第三者の意見ではありますが、お二人のこれまでを見てきて、永遠子様とは完全なる仮面というわけでもなく、そこそこ仲良し夫婦としてやっていけると思っております」
「そこそこ仲良し、確かにね」
「来年、永遠子さまも三十歳を迎えられますしね。年貢の納め時ですね、社長も」
肩をすくめた鈴を見て、資生は、頷きとも俯きともとれる仕草からパッと顔を上げた。
「うん、だから」
柔らかな革張りの椅子から立ち上がる。
「まずは秘書になってもらう」
「まずは……?」
鈴が部分だけを復唱して、八柳を見た。
八柳は自らの手の中にあるタブレットに視線を落とす。そこには、灘原楚乃の履歴書が表示されていた。
特別美人というわけではない。逆に、だからこそ困難だ。見かけに惑わされている方が資生を御しやすい。
しかしながら、資生が見かけで判断するような人格でもないこともまた八柳の誇りでもある。
八柳は眉間を抑えた。
「社長」
窓際に立つ正しい背中に向かって畳みかける。
「……『まずは』ではなく、『せめて、秘書』、にしてください。お願いします」
資生は、楚乃との接触を極力控えていた。
感触として、楚乃は秘書になることに無条件で快諾というふうではなく、断られる前に、どうにか外堀を埋めなければならないと考えたからだ。
もっとも、あの場で食いついてくるような人材では困ることも確かだ。
これまでも秘書候補になった人物は何人かいて、しかし、その度に八柳と鈴にダメ出しをされて採用を見送りになっている。
二人に強いている労働を思えば、資生としても増員したいのはやまやまなのだ。
二人が共に働きやすく職場の環境改善ができ、さらにその人が資生の好ましい人柄であれば喜ばしい。
それが、楚乃であれば思う。
楚乃とは、社内で見かけることはあっても、話をする機会はこれまで同様なく、毎週水曜日の映画鑑賞も資生は会食を理由に早速、キャンセルしてしまった。
起こせるアクションとしては、互いのインスタの投稿に反応したり、コメントを残すのが精いっぱいで、資生には焦りもある。
やりとりのなかで、秘書のスカウトの件については、楚乃から触れてくることはなかった。
さっさと断られるのも困りものだが、話自体をなかったことにされているようでおもしろくない。とはいえ、資生もそのことに触れないし、触れられないので同罪だが。
ところで、資生の仕事の一つに、会食やレセプションへの出席が多くある。
普段は一人で出席することがほとんどだが、ホストが海外メーカーや外国人の場合、パートナーを伴うことが必要な場合もあって、そんなときは永遠子に都合をつけてもらう。
しかし、近頃の永遠子は帰国することを面倒がってその責務をないがしろにすることが増えていた。
あるパーティーの招待の知らせを受け取って、永遠子に伺いのメッセージを送ったが、返事はやはり「鈴さんと行って」の一言だった。
「仕方ない。鈴、またお願いできるかな」
「かしこまりました。フランス大統領の例もございますから、公私どちらのパートナーであったとしても、生きやすい時代になりましたねぇ」
「やっぱりこういう時、女性秘書がもう一人いてもいいんじゃないかな。公私どちらのパートナーにしてもさ」
楚乃の登用に、微妙に反対しているふしのある八柳は、核心には触れてこない。
「そもそも社長のスペックで、そういう役割を女性秘書に求められるのならば、それは男性に魅力を感じないタイプの女性か、ブス専の女性を探すしかありません。多くの女性には社長は目の毒ですから」
「灘原さんはどのタイプかな」
「彼女の趣味まで存じておりません」
「私が聞いてみましょうか?」
楽しげに会話に入ってきた鈴が、八柳に視線で制される。
鈴にそれについてぜひ楚乃に聞き込みしてもらいたい気持ちもあるが、それよりも資生のいたずら心に火が付いた。
「そういえばさ、鈴、腰の調子はどうなの?」
「はい? 腰ですか?」
「そう。腰、痛めてたよね?」
*
「灘原さーん。秘書課から呼び出しだよー」
あろうことか課長経由で、さらには至急とのことだったので、とるものもとりあえず、楚乃は秘書課のある上のフロアへ急いだ。
外界と一線を画するかのごときガラスの自動扉をくぐると、待合のソファに鈴が横になっていた。
「え、鈴さん!? どうされました? 大丈夫ですか!?」
「それがねー、持病の腰痛の悪化して」
確かに腰を痛めていた様子はあったが。
「なのに、社長は今夜重要なパーティーがあるのよ。今回に限ってパートーなー同伴なの。私がお供する予定だったんだけど、さっき腰をやちゃって……」
「とにかく病院に行かれた方が。八柳さんは? あっ、でも社長をお一人にはできないですね。私に何かお手伝いできることはありますか。救急車を呼んだ方がいいですか」
「あああ、平気平気平気! 歩くには歩けるの!」
必死の形相で楚乃を制する。
「それより、灘原さんに頼みたいことがあって来てもらったんだけど」
「私にできることならなんでも!」
鈴は、傍らにひざまずく楚乃の手を握らんばかりに、
「今夜、社長の同伴を灘原さんに勤めてもらいたいの」
「えっ!? 私ですかっ。それは無理です!」
「大丈夫だって。難しいことなんてない。社長に連れ立ってるだけでOKだから」
「でも、パーティーは……、さすがに……。第一、着ていくものも」
「心配しないで。それは私が手配するから。あ、手当も出るから。ね! お願い、灘原さんしか頼める人がいないの!」
楚乃は一瞬考えたものの、「わかりました」と頷いた。
鈴の力になりたいし、なにより資生の役に立てることは嬉しい。
「ありがとう! 総務の方には私から伝えておくから、そのまま来て」
鈴がそう言うので、楚乃はデスクには戻らず、更衣室に鞄だけ取りに向かった。這う這うの体の鈴を支えながらタクシーに乗る。
鈴は楚乃の支度を終えたら、病院に行くと言っている。容体の心配はあったが、美容院やフィッティングに付き添ってくれるのは正直なところ、ありがたかった。
それからは、さながらマイフェアレディかプリティウーマンの世界だった。
鈴に導かれるままに連れて行かれた店はセレクトショップらしく、広々とした店内に、きらびやかなドレスが飾られていた。
その奥に進み、外国貴族のような、ヨーロピアンテイストの大きなドレッサーがある部屋に通され、そこでフィッティングが始まった。
鈴とショップオーナーらしき女性が、数ある中からあっという間に楚乃に似合うドレスを見繕い、それは、こういった機会に不慣れが楚乃が気おくれせずとも着られるシンプルなシルエットを選んでくれるところがさすがだ。
ジャストなタイミングで、外注らしきヘアメイクアップアーティストが部屋に入って来て、どんどんと肌と髪が作られていく。
*
パーティーの同伴を楚乃に頼むことを思いついた。
鈴と八柳には秘書の適性テストと言って納得してもらったが楚乃には失礼な話だ。資生としては、楚乃を囲い込むための一手と考えている。
鈴の下手な三文芝居も、首尾は上々との報告を鈴から受けている。
もうすぐ準備を終えるらしい楚乃を待っている車の中で、資生は永遠子に電話をかけた。
「ああ、僕だけど。今夜のパーティーに総務の子を連れて行く」
『そーむ? なにそれ』
「会社の総務部」
『会社の? そんな人をまた急にどうして?』
「新しい秘書候補なんだ」
『へえ。若い方?』
「鈴に比べれば?」
『へえ』
永遠子は何の感情もこもっていないような声でそう答えると、さらに続けて、
『まあ、社長と秘書ってよくあることだし? 私は構わないけど、お義母さまがうるさいわよ』
「そういうのじゃない」
と、その時、八柳の影が窓越しに見えたので通話を終える。
ドアが開き、屈んだ楚乃が乗り込んできた。
「あ、社長……! き、今日はよろしくお願いいたします……!」
女性が化粧で化けるのはわかっていた。それでも、楚乃の変貌は資生の予想を超えるもので、
「……驚いたって言うのは、失礼な感想だよな。すまない。綺麗です、とても」
「そんな! ありがとうございます。鈴さんのセンスのおかげです。社長も、素敵、です。本当に、こんなお近くでお供できるなんて……光栄です」
「ありがとう。今日は突然失礼なことを頼んでごめんね」
「いえ、精いっぱい務めさせていただきますので」
「えっと、この前、僕が打診した件だけど、それと今日の仕事は関係ないから。気負わないで」
はい、と楚乃が頷いた。
資生には慣れた八柳の運転だが、今は正直落ち着かない。
楚乃は何も入らないような小さなバッグのほかに、ドレッシーな装いには似合わないタブレットと社名入りの角封筒を持っている。
「鈴さんにいただいた資料が入っています。少しでも招待客のデータを……」
「別にそんなことしなくていいのに」
「いえ、私ごときではプラスにはなれませんが、マイナスにもなれませんから」
「今日は僕の隣で、笑っていてくれればそれで構わないよ」
「いえいえ、参加される要人のご趣味などが少しでも頭に入っていれば何かの役にたつかもしれません。どこで何がどう役立つかわかりませんから引き出しは多い方が」
「さすが優秀だ」
必死にタブレットを操作している楚乃の画面を横から覗く。
「そんな誰ともわからないオッサンの趣味なんてどうでもいいよ」
「オッサンって……」
資生のその言い方に、楚乃は笑った。
「それより、僕の趣味も頭に入れておいたほうがよくない?」
「えっ、あ、そうですね! 社長のご趣味は?」
「好きな人とキャンプしながらそこで飯を作って食うこと。って、これは趣味ではないな、夢だな」
「キャンプ飯も、やっぱり外で食べると美味しいし楽しいから」
「間違いありません」
「あ、社長秘書チームには慰安キャンプもあるんだ」
ルームミラー越しに難しい顔の八柳と目が合った。
「まあ、鈴にも八柳にも不評なんだけど」
「私には楽しそうに思えますが」
「車で小一時間のところに別荘があって、そこに僕の基地がある」
「基地ですか。ワクワクしてしまう響きですね」
「ああ、今夜ちょうど流星群が見える。一緒に行きたいな」
「え、今夜!? ですか!?」
「社長」
八柳の声が止めに入る。
資生は小さく肩をすくめてから、遠くを望むように車窓のネオンに視線を移した。
「やっぱり、直に話す方が、なんかいい」
「あ……、そうですか、ね?」
運転席の八柳の背中に、知られないように苦笑いする。
資生は内ポケットから名刺を取り出した。
携帯番号が記載されているものだ。
未だ資生と楚乃は電話でやりとりすることはしていない。
それを不思議な顔で楚乃は受け取る。
「灘原さん」
「はい?」
「僕の秘書になってくれませんか」
「えっ」
楚乃は突然の話題に驚いた様子だったが、それよりも八柳が「社長!」と声を荒立てた。
確かに、八柳からのOKはまだ出ていない状態だった。フライングだ。
もっとも、八柳のいないところではすでに誘っていたので、資生にとってはもう同じことだった。
「これまでも人手は不足していたから常に探してはいたんだけれど、こればかりは募集で来てもらうわけにはいかない職種なんだよね。業務内容や資質もあるし、イレギュラーが多いから、総務のように9時5時勤務というわけにもいかない。けれど、その分、お給料は上がると思います。ね? 八柳」
「……後ほど、わたくしの方からご説明いたします」
八柳の声が怖いが、気にしないことにした。
「とにかく考えてみてください。できれば、前向きに」
「はい」
楚乃は小さな、ともすれば震えるような声で、頷いた。
「それにしても、ドレスが本当によく似合っている」
「……お色が、水色とピンクがございまして、鈴さんが社長がブルーの方がお好きだからって」
「えー? 鈴が僕の好きな色を知ってるのか? でも正解。灘原さん、ブルーがよく似合ってる」
楚乃の返事を聞く前に、迎賓館に着いた。
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普段履くことなどない九センチのヒールは、元スタイリストだというショップのオーナーに頼んで七センチにしてもらっても、楚乃には慣れなかった。
華奢すぎて壊れ物のような、まるでガラスの靴だ。
細いピンヒールで、重厚なカーペットを踏んだとき、珍しく資生が慌てた様子で、エントランスにいた赤いドレスの女性に向かって言った。
「え? 永遠子!?」
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永遠子、と資生がその美しい人を呼んだ。
楚乃には一目でわかる。『違う』人なのだと。そして、資生と『同じ』人であること。
なんとなく状況は理解できたが、ひとまず、その女性のもとへ急ぎ足で向かう資生を追いかけた。
楚乃は「八柳だったらきっとここにいるだろう」場所で控える。
「何やってんの?」
資生の声には怒りといった色はなく、驚きだけがあった。
「実はちょうど帰国してたの。こちらがソームの方? はじめまして」
楚乃を見たのは真っすぐな視線だった。何の含みもない。
楚乃は思い出した。本来ならこの種の人々の目に、楚乃たちが映ることはない。個人として認識されることはない。自分たち以外の人間、まさにモブ。
「灘原さん、驚かせてすまない。彼女は叶永遠子。僕の幼馴染。こちらは、うちの総務の灘原さんだ。今日はパートナーをお願いしている」
「灘原、と申します」
楚乃は丁寧に頭を下げ、冷静に名乗った。
「灘原さん、せっかくご用意してくださったのに申し訳ないけれど、ここで代わります。ご苦労様でした」
「おい、永遠子! いくらなんでも勝手すぎる。非常識だ。そもそも君が今夜無理だって言うから灘原さんにお願いすることになったんだ」
「あら、秘書ってそういうお仕事でしょう?」
「灘原さんはまだ秘書じゃない」
「社長。私は控えておりますので、ご用があればお呼びください」
「違います。灘原さん、それはおかしい」
焦る資生を楚乃は初めて見た。
ここまでの楚乃の知る資生はいつだって落ち着いていて、穏やかな紳士だった。
「いえ、私はもとよりあくまで代理です。永遠子様がおいでなのですから、私がご一緒するのはおかしいことです」
資生が楚乃をかばうように肩を抱こうとしたのを毅然と制す。
「ここでの押し問答は得策ではないと存じます。社長」
「灘原さん、こんな失礼なこと……」
「……いえ、私が秘書だったなら、当たり前のことです」
それ以上何も言えなくなる前に、楚乃は笑顔を作った。
「社長、灘原さんの言うとおりです」
その時、八柳の声がして楚乃を背中にかばってくれる。
「考えるまでもなく、永遠子様を伴われるのが当然です。灘原さんは、我が社の社員で仕事で今日この場に来ているだけです。私となんら立場は変わりません」
「八柳……」
資生はため息をともに天を仰ぐ。
さすがに八柳の登場に、資生も状況を諦めたようだった。
「灘原さん、すまないけれど終わるまで待っていてくれるかな」
「……はい」
「ごめん、行ってくる……」
「行ってらっしゃいませ」
楚乃は美しい礼をして、資生と永遠子を見送った。
永遠子は、楚乃に対して申し訳なさそうにするでもなく、勝ち誇った顔をするわけでもなかった。
それも当然だ。永遠子はこれが当然の世界に生まれ、生きていて、これからも生きていく人種なのだから。
永遠子のドレスは、見事に体にフィットして、よく似合っていた。
楚乃の借り物のドレスは、生地だけは本物だったが所詮借り物だ。
残された楚乃に、八柳が頭を下げる。
「こちらが頼んでおきながら、不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です」
楚乃はごく普通に笑って、許した。
悲しくもあったが、当然であることも納得していた。ここしばらくの間の資生との関係が、逆におかしかったのだ。
⑹へ
