#011 ブラジル最大の輸出品は、コモディティではなくフットボールの才能
ジュビロ磐田の26/27明治安田Jリーグが始まりました。
今年は社長に外部からプロ経営者を招聘、ヤマハ発動機の完全子会社化、スポンサー売上の急伸などゴリゴリと改革を進める経営サイドとは対照的に、百年構想リーグで露呈したトップチームの燦々たるパフォーマンス、そして強化の現場のあまりにも酷い体たらくに失望しているファンサポーターファミリーの皆さんが殆どだと思います。
そんなジュビロは何とかマズい状況を打開するために秋葉新監督のもとスタッフを一新し、ブラジル人選手を一気に4人獲得。2年前にも同じことをして失敗した記憶がありますが、今はとりあえずワクワクしておきましょう。ブラジレイロン・セリエBやタッサ・デ・ポルトガルで2桁得点ってどれくらい凄いのか?マテウス・ペイショット選手のようにウクライナ2部リーグで15得点するよりも難しいんでしょうか?
私たちの住む遠州の地域柄、切っても切れない関係にあるブラジルと、ブラジル日系社会とのつながり。1990年代以降、出入国管理法の改正により多くの日系ブラジル3世が遠州に定住し、浜松が日本屈指のブラジルタウンになって以降、代わる代わるやってきたジュビロのブラジル人選手たちは、そのプレーと笑顔で私たち日本人サッカーファンだけでなく、地域のブラジルコミュニティにも活気をもたらし、地域とブラジル日系社会を繋ぐ存在であり続けました。
今回は、そんなブラジルのサッカー選手たちと私たちの住む遠州地域の素敵な出会いと別れ、キャリアの際(きわ)についてつらつら書いてみます。彼らとの出会いと別れに接するたび、私たちサッカーファンは多くのことを学んでいますから。
・・・百年構想リーグを味わい直したい酔狂な方はこちらもぜひご覧ください。残念ながらこの記事、いまだにアクセスが伸び続けています。そろそろ忘れてやろうぜ🤪
1.ブラジル最高の輸出品はサッカー選手
「サッカー選手はブラジル最高の輸出品である」
サッカー界ではまあまあ有名なこの言葉。
これは単なる比喩やジョークではなく、経済学やスポーツ社会学の論文でも広く使われている表現です。
例えば、スポーツ研究国際センター(CIES)のレポートでは、大豆や鉄鉱石といった一次産品と並ぶ、ブラジルが世界市場に誇る「持続可能なトップ輸出品目」としてサッカー選手が真面目に分析されています。名著『Futebol: The Brazilian Way of Life』(アレックス・ベロス著)の中でも、貧困街(ファヴェーラ)から世界へ羽ばたく少年たちのシステムをコーヒーや砂糖の輸出の歴史に重ね、最も価値ある輸出品として描いています。
ポルトガルの名将ジョゼ・モウリーニョは、こんなことを言っています。
「ブラジルの最大の輸出品は、コモディティ(一次産品)ではなくフットボールの才能だ。彼らはどこの国のリーグに行っても、その国のフットボールに新しい魂を吹き込む。」

BBCやESPNなど海外メディアのワールドカップや移籍市場の特集では「Brazil’s greatest export(ブラジル最大の輸出品)」という見出しが日常的に使われます。常時約1,500人のブラジル人選手が国外でプレーしている現在、この言葉は「世界中のどのタイムゾーン、どのレベルのサッカーリーグを見渡しても、ブラジル人がピッチに立っていない場所はない」という事実を表現する際の世界共通の決まり文句になっています。アジア・オセアニアの土曜日が始まってから米州の日曜日が終わるまで、世界のそこらじゅうのスタジアムでブラジル人が活躍しているわけです。
2.ジュビロのブラジル人選手と、地域コミュニティ
経済的な指標として使われ始めたこの言葉ですが、今では週末になると世界中あらゆるスタジアムのスタンドを沸かせて、街のみんなを元気にしてくれるブラジルのサッカー選手をリスペクトする褒め言葉として定着しています。その「最高の輸出品」を最も贅沢な形で受け取り、彼らから真剣に学び続けてきたのが私たち日本人です。間違いない。
2026年現在、Jリーグでプレーしてくれたブラジル人選手は約1,000人。そして、ジュビロ磐田にやってきたブラジル人選手たちは、地域のブラジルコミュニティの支援を受けながら、地域で働くブラジル人や日系社会にプレーで恩返しをしてきました。この地域ならでは、ジュビロならではの素敵な関係性があります。
月曜日26時
— 小島 耕/ 水戸ホーリーホック (@KojimaKoh) June 26, 2026
火曜日2時
ブラジル戦、楽しみです。
これまでJリーグは約1,000人のブラジル人選手がプレーしています。
日本のサッカー、プロリーグを育ててくれたのはブラジルかもしれません。
代表の強化へのクラブの役割、使命を書きました。是非ご一読ください。 https://t.co/KNJNZyHNd4
遠州地域は外国の富裕層子女向けの教育環境が弱いため、ジュビロはインターナショナルスクールに通うような大きなお子さんのいる外国人選手にはあまり人気がありません。だからジュビロを選ぶブラジル人選手は、どうしてもブラジル国外での競技経験が少ない、未就学児のお子さんがいる選手が多くなります。浜松には前述の通り90年代の入管法改正以降の長く、太い日系ブラジル人との関係構築の歴史と、ブラジル連邦共和国総領事館を中心としたブラジル人コミュニティがあり、そこからの手厚い支援が得られるだけでなく、ブラジルの食品や日用品も気軽に手に入りますから、選手とその家族が海外キャリアをスタートさせるには大変心強いはずです。BBQ用の肉もその辺のブラジルスーパーで格安で日本人が絶対食わないような様々な部位が手に入りますから。

かつてはサンパウロの強豪クラブ出身の選手であれば、GAVIÕES JAPÃO(SCコリンチャンス)、MANCHA VERDE JAPÃO(SEパウメイラス)といった、遠州にあるクラブのサポーター支部からの熱いサポートも得られました。最近は日本に長く定着している日系ブラジル4世とその家族のライフスタイルが変わってきたことで以前に比べると少なくなりましたが、昔はMANCHAの面々が毎試合ジュビロのゴール裏でジュビロとパウメイラス出身選手を大声で応援していた時代もあったんですよ。ジュビロサポーターのみなさん、知ってました?

3.ホドリゴ・グラウを覚えていますか?
ブラジル人選手たちが相手DFを出し抜いてスタンドを沸かせ、ゴールを奪い、時にレッドカードを貰う。週末の彼らのプレーが私たち大人のクソつまらない平日の仕事のストレスを吹き飛ばし、来週も何とかイヤイヤ工場に働きに出るための勇気をくれる。一方、グラスルーツにはいつの時代も彼らブラジル人選手に憧れ、プレーや服装を真似る子供たちの姿があり、その時代その時代で、スタンドで目にしたブラジル人選手のプレーが、子供たちの原体験になっている。
遠州だけでなく、日本中どこの街にも10年、20年、彼らと、彼らにハートを盗まれた街の人達が刻んできた、同じような歴史があったはずです。
そして、本当に興味深いのは、彼らの「去り際」です。

4.ジャーニーマンの逞しい決断とキャリアの際(きわ)
彼らの魅力は、プレーや人柄だけでなく、どこか少し早めに、あっけなく去ってしまうところにあります。知らない国でイチから積み上げた富・名声・生活の安定に拘ることなく、よりよい評価と報酬を求めて思い切りよく次のステージに挑んでいきます。
彼らのほとんどは、出来る限り早く効率的に稼いで家族を助けたいと考えているから、そのために必要なセカンドキャリアまでの周到なキャリアプランと、転機にしっかり決断するのに必要な研ぎすまされたキャリア観を持っています。しかし、キャリアアップに貪欲な彼らの振る舞いは優秀なビジネスパーソンのようなギスギスしたものでは決してなく、愛情溢れる言葉と少しばかりのノスタルジーを残し、私たちファン・サポーターのハートをしっかり盗んでから去っていきます。成田空港に見送りのファン・サポーターがたくさん集まり、涙のお別れをするシーン、よく見掛けますよね。
(そうして飛行機に乗った直後に節操ない移籍先に入団するニュースリリースが出たりするのもご愛嬌、彼らだから許されてしまう)
裏ではクラブと金銭交渉で派手にモメていたり、代理人に強引に売り飛ばされたりしてドロドロした軋轢や裏切りがあったとしても、気付けば誰もが彼らとの別れを惜しみ、愛情に満ちた言葉を交わしてしまう、そんな彼らの振る舞いは本当に素敵で、世のブリリアントジャーク系ジョブホッパー達もマジで見習ったほうが良いです。
個人的にも、私は大人になってから苦労の絶えないキャリアを歩んできたからか、自らの人生を力強く、それでいて愛情に包まれながら切り開いていく彼らブラジルのジャーニーマンの逞しい決断とキャリアの際(きわ)に触れるたび、生きる活力を受け取り、転機における立ち居振舞いを学んでいたように思います。
転職する最終出社日のあいさつ回り、海外から日本に帰任する前の挨拶、そしてお世話になった皆さんに送るメールの文章・・・毎回、ブラジル人選手たちのことを真似ていました。俺はレオナルドのプレーと顔は真似できなかったけど、セリフと立ち回り方だけなら全然パクれるからな。

5.グスタボ・モスキートの去り際
最近も、去り際が印象的すぎてSNSで話題になったブラジル人選手がいましたよね。5月末でジュビロを退団したモスキートことグスタボ・シウバ選手。
まずは彼が26年4月にホームタウン磐田市の小学5・6年生全員を招待して行われたFC岐阜戦(磐田市小学生一斉観戦事業)でゴールを決めた後のインタビューコメントを見てみましょう。
「子どもたちに、自分がプロとしての生き様を見せることができるのは本当に幸せなことだと思いましたし、ゴールを決めることができて、自分のゴールで勝つことができたのがすごく幸せなことでした。 もしかしたら初めてサッカーを観に来た子どももいるかもしれませんけど、そういった人たちの幸せな一日をさらに幸せなものに変えられるすごく素晴らしい職だと自分は思っているので、来てくれた全ての皆様に勝利を届けることができたのが何より嬉しかったです」
初めてスタジアムを訪れた子供が、自分のプレーを観てサッカーを好きになるかもしれない。この週末のひとときの幸せが、その子の生涯の趣味、生きる喜びにつながるかもしれない。
その想いを、仕事で訪れただけの遠い外国の田舎の知らない家の子供ひとりのために、1試合、ワンプレーに込め、見せてくれた。
こんなの、地域の保護者を代表してお礼を言いたくなりますよ。
そして彼は、このヒーローインタビューの最後に、ジュビロとの契約が翌月で切れること、新しい契約をまだ結べていないことを添え、少しだけファン・サポーターの気を引きました。
この日のプレーとコメントから、ブラジル最大のクラブ・コリンチャンスで長年レギュラーを張ってきたエリートの彼は、日本の2部リーグの冴えないクラブにちょっと小銭を稼ぎにきただけの意識ではプレーしていないことが良く分かりますよね。真剣に働いて、結果も出して、自分のプレーを子供たち1人ひとりの心に刻み込みながら、結果に対する正当な評価=好条件での契約を勝ち取る努力をしていたということ。

しかし、この1カ月後、モスキートは以下のコメントを残してシーズン終了を待たずして退団してしまいます。
「本日、深い感謝の気持ちとともに、ジュビロ磐田に別れを告げることになりました。 契約更新について話し合いを重ねましたが、残念ながら合意には至りませんでした。 しかしこれもサッカーの一部だと思っています。私はこのクラブに大きなリスペクトを持っていますし、ここで経験したすべてのことに心から感謝しています。 共に戦ったチームメイト、監督・コーチ陣、スタッフ、そしてクラブ関係者の皆様に心から感謝しています。 そして、いつも私のそばで支えてくださったサポーターの皆さまに、特別な感謝を伝えたいです。ジュビロに来た初日からいただいた愛情とリスペクトは、これからも私の心に深く刻まれ続けます。 このユニフォームを着てプレーできたことは、私にとって大きな誇りでした。ここで得た多くの学び、仲間との出会い、そして特別な時間は、これからも大切な財産です。 これからのジュビロ磐田のさらなる発展と成功を心から願っています。そして、再びJ1の舞台で輝く日が来ることを信じて、これからも応援しています。 短い間になりましたがサポート頂いたすべての皆様に心からの感謝を送りたいです。 本当にありがとうございました。」
関わった全ての人、組織、地域に最大限の感謝を伝えるパーフェクトな挨拶。読んでいるだけで彼の活躍が脳内に再生され、込み上げてくるものがある。そして「これもサッカーの一部だと思っています」のひとこと。
これこそが、キャリアの際(きわ)に見える、その人のキャリア観、職業観ですよね。モスキート自身は、精一杯働いてベストを尽くした自負があり、相応の新契約をクラブにしっかり要求し、しかし残念ながら交渉は決裂した。この結果もサッカーの一部として受け容れて、自分のパフォーマンスに、そして自分がプレーを通じて子供たちを始めとした地域社会に残したインパクトに誇りを持ち、堂々とクラブを後にする。
このコメント、タイムラインに流れてくる大量のスポーツニュースの1つとして雑に消費するのは勿体ないですよ。キャリアの際の魅力がぎっしり詰まってます。日本でモスキートのプレーを一度でも見た人は、彼のゴール集でも再生しながら、今一度全文を読み返し、味わい直してみてはどうでしょう。
6.さてさて、26/27シーズンもジュビロを楽しみましょう
人の仕事に対する評価は、その人の去り際にこそ現れるものです。周囲の人が示す利害を超えた感情、残された言葉や記録に対する反応、そして、立場やポジションから解放された後の本人の振る舞い方…。
自分は、外国で働いていたとき、お客様1人ひとりの顔を思い浮かべながら、仕事に魂を込めていただろうか?その国、その地域に対し、恥ずかしくない行動をとれていただろうか?帰国する時の笑顔は、レオナルドのクオリティを出せていたか??自分のやってきたことに心残りがあるからこそ、彼らの”際”に感情移入してしまいます。
今後のために、モスキートの挨拶文は自分の生成AIに読み込ませておきました。
今年ジュビロに集まってくれた選手たちにも、きっと試合を観に来た私たちのその日、その一瞬の幸せのために、プロとしての生き様を見せてくれるプロフェッショナルがいるはずです。球際も、去り際も、揉め際までも楽しみましょう!!
あて まいす
ちゃう!
