共生の黎明 #71 第16章 第14節:言葉を超えるやりとり 連続小説
日が落ちきった頃、集会所の外では夜風が草の香りを運んでいた。
中ではまだ、幾人かが残り、ぽつぽつと話し合いを続けている。
男性職員もまた、その一角にいた。
だが会話には加わらず、ただ壁際に立ち、誰にも気づかれぬように周囲を見つめていた。
手渡される、ユラ。
それに添えられる、少し照れたような「ありがとう」。
彼の視線が自然とそこに留まる。
目の前で交わされているのは、制度でも、報酬でもない。
それは、言葉を超えたやりとりだった。
目に見えるのに、説明ができないもの。
ふと、胸の奥で何かが揺れた。
思考ではない、感情の微かな“ざわめき”。
「こんなものが、本当に機能するのか?」
そう自問しかけて、しかし、言葉がそこで止まった。
それは“機能”という言葉では、どうにも括れないやりとりだったからだ。
そのとき、近くにいた年配の住民が小さくつぶやくのが聞こえた。
「……こんな風に人がつながるの、久しぶりだよ。なあ。」
誰に語りかけるでもなく、ただ空気に溶けるように紡がれた言葉だった。
けれどそれが、彼の中で妙に響いた。
なぜだろう。
この土地の人々の言葉や表情が、理論よりもずっと重く感じられる。
紙の上で見ていた“仕組み”は、ここではまるで別の意味を持っていた。
彼は、タブレットをそっと閉じた。
そして、初めて誰にも求められずに、手元の端末を開いた。
ユラの画面を、ただじっと見つめた。
その光が、彼の表情を照らす。まるで焚火の火のように、静かに、温かく。
その夜、彼はまだ何も言葉にしなかった。
けれど、確かにひとつの“気づき”が、その胸に灯っていた。
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