共生の黎明 #69 第16章 第12節:心の音に耳を澄ます 連続小説
彼女が去ったあとの集会所には、しばし静寂が訪れていた。
けれどそれは冷たい沈黙ではなく、温泉に身を沈めたあとの余韻のような、やわらかく包み込むようなものだった。
数人の若者が談笑を始め、小さな笑い声が弾ける。
子どもたちは誰に言われるでもなく、自然と片付けを手伝い始め、年配の男性がそれを見守る。
一人の女性が、持参した茶を皆に振る舞いながら、「今日は、なんだか不思議な日だったね」と呟いた。
誰かが返す。「うん。でも、いい日だった」
やがて、その輪の一角に、レイがそっと立っていた。
彼が声をかけたのは、今夜の語らいの中で、特に多くは語らなかった中年の男性だった。
彼は大工をしており、連携圏のいくつかの拠点で、古民家の修繕や共同の木工場の整備に関わっている。
「ひとつ、聞かせてくれますか」
レイが静かに問いかける。
「なんでしょう?」
男性は少し驚いたように顔を上げた。
「この土地に、これからどんな“音”が響いていくと思いますか?」
その問いに、しばらくの沈黙が流れる。
男は、少し目を細めて、言った。
「音楽じゃなくて、心の音ですね?」
「ええ、できれば」レイが微笑む。
男は、ごつごつとした手を組みながら、少し遠くの壁に目をやるようにして言葉を探した。
「……そうですね。最初は、みんな音の種類が違ってた。でも最近は、バラバラだったはずの音が、少しずつ重なりはじめてる。リズムとかテンポとか……たぶん、少しずつ、合ってきてるんだと思います」
レイは頷く。「音が合うと、次は歌になるかもしれませんね」
「歌、か」
男の口元がゆるみ、ふっと短く笑った。
「じゃあ……歌になる前に、ちゃんと耳を澄まさなきゃな」
レイは、深く頭を下げた。
彼の背後では、ソウがそっと目を細めていた。
その表情は、まるで風が木々を撫でるときのような、やわらかな喜びに満ちていた。
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