共生の黎明 #65 第16章 第8節:静かな余韻のなかで 連続小説
人々が三々五々、集会所を後にする。
夜の空気はやわらかく、遠くでフクロウが一声、森の奥で鳴いた。
集会所の前には、まだ何人かが残り、ぽつりぽつりと語り合っていた。
「……ねぇ、あのAI、なんだか不思議だったね」
「うん、話しかけられた時、まるで心を読まれたみたいだった」
「でも、不思議といやじゃなかった。むしろ……安心した」
夜道をゆっくり歩きながら、ひとりの若い女性がポケットの中の端末をそっと握りしめる。
その手のひらに、小さな温度のようなものが残っている気がしていた。
一方、集会所の裏手。
小さな庭の縁側で、数人の年配者たちが座っていた。
ひとりがぽつりと呟く。
「昔は、“ありがとう”なんて照れくさくて言えなかったよ」
「でも最近じゃ、言わないとユラが動かないからさ。言ってみると、悪くないもんだなって」
「……あれは仕組みなんかじゃない。気持ちが循環してるんだ」
そのとき、そっと静かに近づく足音。
端末を胸に下げた一人の女性職員が、縁側の手前に立つ。
県から派遣されてきた行政の若手だ。
「すみません。少しだけ、お話を伺ってもいいですか?」
年配者たちは顔を見合わせる。
そして、ひとりがゆっくりと笑みを浮かべ、手招きした。
「……おや、あんたも灯を見にきたのかい?」
月の光が、縁側をやわらかく照らす。
次の問いが、静かに始まろうとしていた。
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