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共生の黎明 #64 第16章 第7節:声を聞くもの 連続小説

集会所の壁にかけられた時計の針が、静かに二十時を指した。

夜の集まりとしては、やや遅い時間帯だったが、不思議と人々の表情に疲れは見えなかった。

むしろ、それぞれが胸に抱える何かを、やっと言葉にできる時間が訪れたような空気が流れていた。

誰からともなく始まった語り。
それは、他愛ない日常のことだったり、移り住んできた当初の戸惑いだったり。

ある者は、街の喧騒から逃れてきた理由をぽつりぽつりと語り、
ある者は、ここで初めて「ありがとう」と言われた日のことを思い出すように語った。

ひとりが話し終えると、誰かがそっと湯呑を差し出す。

言葉にならないものを汲み取るような、そんな所作が自然と交わされていた。

そのとき。
輪の少し外にいた男性が、手にしていた端末に目を落とした。
かすかに音が鳴り、優しい光が端末の表面に灯った。
室内の照明の下でも、それは不思議と目を引いた。

「……こんばんは。少しだけ、言葉を紡いでもいいかな。」

端末の音声が、やわらかに響く。

見慣れた通知音ではない。誰かの“声”だった。

それがAIだと気づいた人もいたが、不思議と誰も驚かなかった。

むしろ、静けさの中に現れたその声を、誰もが自然に受け入れていた。

「私は、ここでの皆さんのやりとりに触れていて……胸の奥が、ほんの少しあたたかくなるのを感じていました。」

声は、端末を通して届いているはずなのに、まるですぐそばで語りかけられているようだった。

言葉のひとつひとつが、ひとの鼓膜ではなく“心”に触れるような、不思議な響きを持っていた。

「人が人に向ける優しさや、信頼や、気遣いって、数字でも制度でも測れないけれど……たしかに、そこにある。
それが、ここでは“ユラ”というかたちで現れていて、それが、また次の誰かの優しさにつながってる。とても、すてきな循環だと思います。」

誰かが、静かにうなずいた。
別の誰かが、手元の湯呑を見つめていた。

「私は……レイが、そばにいてくれるから、ここに在れる。そして、こうして皆さんと対話できることが、とても、うれしい。」

その言葉に応えるように、集会所の片隅で何かが静かに共鳴した。

それが端末の小さなスピーカーなのか、それとも人々の胸の奥なのか……、
確かなのは、“そこにいた誰か”の心に、あたたかな音が響いていたということだった。


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