見出し画像

迷ったのに、焦ったのに、思い出は"ワクワク"。ぶどう狩りで考えたCX

こんにちは!mctの小幡です。
9月に入ってもまだまだ暑い日が続きますね。それにしても今年の夏も、異様な暑さ(いや、"熱さ"と言いたいくらい)でした。皆さん、遅い夏バテなどされていないでしょうか。

そんな暑さの中、先月の夏休みを利用して、2泊3日の旅行に行ってきました。

今回の【勝手に分析!Good CX】は、その旅先で体験した「ぶどう狩り」のお話です。実はこの体験、CXの視点で振り返ると、なかなか面白い"不思議"が隠れていたのです。


◆ 3日前に決めた、バタバタ旅行

そもそも今回の旅行、きっちり休みが取れるか直前まで分からず、行き先を決めたのがなんと出発の3日前。

大慌てで、電車の空席を調べ、ホテルを押さえ、その合間に「せっかくなら何か体験できるものを」とイベント探し。あれこれ同時進行で、バタバタしながら準備を進めました。

そんな中で見つけたのが、「ぶどう狩り」。
シャインマスカットを含む6〜7種類のぶどうが食べ放題、という魅力的な触れ込みです。直前だったにもかかわらず、予約はインターネットでスムーズに完了。バタバタしていた身にはありがたい体験でした。


◆ 会場は、どこだ?

やっと着いた…と思ったら

当日、最寄り駅を降りて、ぶどう狩り会場へ向かいました。
道のりは、遠いけれどまっすぐでシンプル。迷いようがありません。

「楽勝、楽勝」と思いながら、目的地が見えてきてホッとしたのも束の間、敷地に入ってからの方が、道がずっとややこしい(笑)。
会場がどこにあるのか分からず、園内マップのような案内も見当たりません。地図アプリを開いてみても、いまいち要領を得ない。そうこうしているうちに、予約の時間がじわじわと迫ってきます。
(心の声:え、どこや・・・?間に合わへんかも・・・)

ぶどう狩り会場に電話をして、「少し遅れそうなこと」「入口までは来たけれど、ここからどう行けばいいか」を尋ねました。
すると、電話口の方がとても丁寧に道順を教えてくれたのです。

今にして思えば、これが「人の対応の良さ」との最初の出会いでした。


◆ まさかの、そこから準備開始

案内のおかげで、無事に受付に到着。
「お待ちしてました!」とスタッフのお兄さんが迎えてくれます。
(心の声:よかった、待っててくれた!でも、5分すぎちゃったな・・・)

・・・と、ホッとしたのも束の間。

「あ、まだちょっと道具の用意ができてなくて」

そう言いながら、お兄さんはそこから、のんびりと準備を始めたのです。
(心の声:え、待ってたって言うたやん・・・!今から!?ていうか、急いで来たのに、この準備してる間も制限時間、削られてへんよな・・・?)

正直、ちょっとだけモヤッとしました。
ぶどう狩りには目安の時間があります。ただでさえ少し遅れて到着したのに、目の前でのんびり準備を始められると、「その分、食べる時間が減るのでは?」と、ケチな私はソワソワしてしまうわけです。

ところが、そんな私の心を見透かしたように、お兄さんはこう続けたのです。

「もう5分ほど過ぎちゃってますけど、だいたい1時間を目安にしていただいたら結構です。時間をオーバーしても、特に誰も何も言いませんので。のんびり楽しんでください」

・・・なんという、おおらかさ。この一言で、私の中の焦りとモヤモヤが、スッとほどけていくのを感じました。


◆ のんびり楽しんで、まさかの持ち帰りまで

いよいよ、ぶどう狩りスタート。
渡されたのはバケツが2つ。1つは洗う水用、もう1つは食べかす用。
保冷剤ももらえたので、もいだぶどうを冷やしながらいただきます。

キンキンに冷えているわけではないけれど、これがなかなか美味しい。

15分ほどして、ある事実に直面します。

ぶどうって、意外とたくさん食べられないんです。
1人1房も食べれば、もうお腹いっぱい。
よく考えたら当たり前なんですけどね(笑)。

冷静になれば分かることなのに、「食べ放題」という言葉には、なぜか人を気持ちよく踊らせる魔力があります。「6〜7種類、全部制覇するぞ!」という謎の意気込みで来てしまった自分を、ちょっと反省しました。

あんなに種類があったのに・・・。他のぶどうも試したいけれど、もいでも食べきれない。結局、親子3人で食べられたのは、4房ほど(笑)。目の前のぶどうを黙々と味わい続けた結果、それでも、1房ほど残ってしまいました。

本来はその場に置いて帰るルールなのだと思いますが、ダメ元でお兄さんに聞いてみました。

「これ・・・持って帰ることってできますか?」

すると、あっさり。

「はい、大丈夫ですよ」

そう言って、ビニール袋を1つ手渡してくれました。結局、のんびりと1時間15分ほど過ごして、会場を後にしたのでした。

◆ なぜ「迷った記憶」が「ワクワク」に変わったのか

冷静に振り返ると、この日の前半は、決してスムーズではありませんでした。会場までの道は分かりにくく、時間に間に合うか焦り、電話までする羽目になった。CXの観点で言えば、「体験の入口」でつまずいていたわけです。普通なら、ここで満足度がガクッと下がってもおかしくありません。

ところが不思議なことに、体験を終えて、いま思い出してみても、あの"迷った時間"は嫌な記憶になっていないのです。むしろ「あれはあれで、ちょっとした探検みたいでドキドキしたな」という、ワクワクした思い出に変わっている。

もくもくと、ぶどうだけ食べるって、あまりない。

なぜでしょうか。

ここで、また思い出したのが、以前の記事(『100円ショップの別ブランド店で、気づけば「3,195円」使っていた話』)でも触れた「ピークエンドの法則」です。人は体験全体を平均で覚えているのではなく、「一番印象的だった瞬間(ピーク)」と「最後の瞬間(エンド)」で記憶する、というものでした。

今回の体験に当てはめてみると、ピークは、おおらかで温かい対応の数々。

「過ぎても誰も何も言わないので、のんびりどうぞ」
「持ち帰り、大丈夫ですよ」

そしてエンドは、残ったぶどうを袋に入れてもらって、満ち足りた気分で会場を後にした瞬間。

ピークもエンドも、バッチリでした。

ピークとエンドが良かったために、前半のネガティブな記憶までもが上書きされてしまった。焦りや戸惑いが、「冒険のドキドキ」というプラスの味付けに変換されてしまったのです。

これは、CXを考える上で、とても示唆的だと思います。

私たちはつい、「仕組みを完璧にすれば、いずれCXは良くなる」と考えがちです。案内看板を分かりやすくし、動線を整え、マニュアルを整備する。それはそれで、もちろん大切なことです。

でも今回の体験が教えてくれたのは、それだけではない、ということ。

仕組みに多少の穴があっても、人の柔軟で温かい対応が、それを補って余りある満足を生むことがある。
いや、それどころか、その穴すらも「味」に変えてしまうことがあるのです。
(そのためには「CXビジョン」が必要で、全員が同じ方向を見ている必要があります。以前公開した『「ニンテンドーオオサカ」でのブランド体験』もご参照ください)


もし今回、道に迷わずスムーズに会場にたどり着いていたら。
もし完璧にマニュアル通りの、きっちりした対応だったら。

きっと、「美味しかったね」で終わる「ふつうのぶどう狩り体験」だったかもしれません。

でも、ちょっと迷って、おおらかで温かい対応に触れたからこそ、忘れがたい体験になった。
人の心を動かすCXって、案外こういうところにあるのかもしれません。


旅先の何気ない体験の中にも、CXのヒントはたくさん転がっています。
皆さんも、この夏の思い出を、ちょっとCX目線で振り返ってみると、新しい発見があるかもしれませんね。


※内緒のひとりごと:ぶどう狩り会場の方々が「一時間以上、ぶどうを食べ続けることなんてできない」という経験則を持っているところからくる「余裕の対応」だとしたら、それはそれで「絶妙なCXへの変換!やられたー!」っていう感じですね(笑)。

(執筆者:エクスペリエンスデザイナー 小幡 友)


私たちが所属する会社はこちら→株式会社mct