でっかいどお|お題【モバイル北海道】
「内定が出てさ、北海道で働くことになったよ」
夕食の席で息子が言った。妻は満面の笑みだ。
「そうか、おめでとう。北海道か」
その言葉を聞いて浮かんだのは、昔のあのコピーだった。
でっかいどお。北海道。
「苦労していい大学に入ったんだ。仕事は選べたんだろ? 水産? 農業? それとも観光?」
妻が笑った。
「違うわよ。半導体の会社」
「半導体?」
息子は苦笑いして、親指と人差し指に隙間をつくる。
「チップだよ。スマホにも入ってる、ちっさなちっさなやつ」
私の中で北海道はずっと大自然とセットだった。
海の幸も広い畑も牧場も、でっかいからこそ北海道だ。
あれほど大きかった北海道が、今では掌に収まる時代なんだな。
「でもね、初任給は」
息子はニヤリと笑った。
片方の掌を広げ、もう片方の人差し指を一本立てる。
なるほど、そっちは掌に収まらないのか。
妻が満面の笑みなわけだ。私も笑った。
なんだよ、ちくしょう。
息子は働く前から、俺よりでっかいどおじゃないか。
(409文字)
あとがき
こんにちは、芽芽斗 守(めめと・まもる)です。
前回の「流れ星空港」にも、たくさんのスキとコメントをいただきました。ありがとうございます。
先週に続き、田原にかさんが主催されている「毎週ショートショートnote」という企画に参加させていただきました。
今回のお題は【モバイル北海道】です。
いかがでしたでしょうか。
なかなか難しいお題でしたが、うまく着地できていればうれしいです。
作中に登場する「でっかいどお。北海道。」
一見するとオヤジギャグのようですが、これは今は亡きコピーライター眞木準さんが手がけた有名なコピーです。
実は学生時代、一時期コピーライターになりたいと思っていました。
そのころ私は宣伝会議のコピーライター養成講座に通っていて、眞木準さんが講師として登壇された授業を受けたことがあります。
一度授業を受けただけなのでかなり遠い関係ですが、文字どおりに言えば私も教え子の一人です(笑)。
ちなみに眞木準さんのコピーで、私が一番好きなのはこちら。
イエスの生まれた日に、ノーとは言えない。
山下達郎さんのアルバムを紹介する広告に使われたコピーです。
クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う日。
そこから「イエス」と「ノー」を持ってくる。
ほとんどダジャレなのに、なぜかものすごく洒落ているんですよね。
学生時代の私は、こういう言葉遊びに憧れていました。
そんな眞木準さんのコピーを、何年も経って「モバイル北海道」というお題で物語の中に使うことになるとは思いませんでした。
「でっかいどお。北海道。」も今なお知られているコピーですが、この機会に眞木準さんのほかのコピーにも触れてもらえたらうれしいです。
今回の物語も少しでも刺さるものがあったら、スキを押してもらえると励みになります。
