【第2話】不老不死の地球は『150年の住宅ローン』が当たり前の『社畜ディストピア』!? | 神(=宇宙人)が『仏眼』で民の愚痴を受信しながら人類救済に挑む!
私と美夜は日本の『神社』担当だ。美夜の両親から引き継いだ。そこから情報を得たり、実際に神社へ足を運び民の声を聞くのだ。神社がスポンサーとなり、我々2人の生活費もそこで賄っている。
『銀河干渉法』により現地通貨の偽造は禁止されているからな……神社の手当てだけでやり繰りするのは想像以上にシビアだ。よし、やり繰りは全て小娘に任せよう……
『プップー』
「光一さん!こっちこっち早く乗って下さい!!」
美夜が大きく手招きをした。
「またこれに乗るのか……」
鉄の箱(軽)に乗り、天井に頭がついたまま都内の由緒ある神社へ向かった。187センチなどという巨大な物理体をねじ込む設計のどこに合理性があるんだ! 空間効率が皆無じゃないか!
美夜は音楽を流し運転をしながら大声で歌いまくっていた。信号待ちの度に上半身を揺らしノリノリだ。美夜の手が私の鼻先を何度もかすめた。
クール&エリートの私にはさっぱり理解出来ないが……これが人間の文化なのだろうか? 美夜よ、君に叡智なる銀河の血は本当に流れているのか!?
『はぁー』ため息つくこと150回目でようやく目的地の神社に着いた。
「さぁ!着きましたよ。頭に気をつけて降りて下さいね」
「あぁ、できれば移動中もこの頭の高さを考慮して欲しかったものだ……」
「はいはい。大きい車は小回り利かないから苦手なんですよ! 光一さんが免許取ったら本部申請して大きい車を買ってもらいましょう、それまでの辛抱です」
この私が地べたを這い回る鉄の塊の運転だと!? 宇宙人の叡智の無駄遣いだ!! 空飛ぶ絨毯の方が頭がつかえない分まだマシだ。
「ぬ、ぬぬ……っ、くっ……長すぎる脚が……」
片足を車外へ放り出す。もう片方の足も両手で抱え上げるようにして外へ引きずり出し、ようやく砂利で覆われた地面へと着地させた。
「車と同じで『背高族』は小回りが利かないんですね〜」
なぜ嬉しそうなんだ!? 板についたカマボコのような目をしてニヤニヤと……ほぼ人間の小娘め!!
吸い込まれそうなほど澄み切った青空の下、バーンとそびえ立つ白く大きな鳥居を前に、何のためらいもなく美夜はお辞儀をし鳥居を潜った。神の立場の私たちが何故お辞儀? と思ったが、美夜が「やれ!」とばかりに顎をクイッと振ったので、仕方なく軽くお辞儀をして鳥居を潜った。
「光一さん!参道は右端を歩いてください。真ん中は神様の通り道ですから」
「だったら、我々は真ん中を歩くのでは?」
「アホなんですか? 私たち人間になりすましてるんですよ? 神の立場になってどうするんですか!!」
「ア…アホだと!!エリートの私に向かって何ということを……」
「あ〜っ! 主様! ぬこ〜!!」
話の途中で美夜は、御神木の前でまったり日向ぼっこをしている猫を見つけるやいなや、話の腰をバッサリ折って駆け寄った。
写真を撮りまくり、あの小さな『爪格納毛玉』に顔を近づけて「ぬこ〜」などと謎の言語で話しかけながら身体を撫でている。あれは隠語なのか?
主だかなんだか知らんが、猫に猫なで声で話しかけるなど……あの無防備すぎるデレデレ顔はなんだ。完全にこの星のローカル環境に溶け込みすぎている!
「まだ話は終わってない!!」
参道のマナーだがなんだか知らないが、概念上の通り道のために、空間利用率を50%も捨てるなど非合理的すぎる!
ぐぬぬ……。美夜……銀河の血を引く、ほぼ人間。見ていろ。最高峰の知性というものを思い知らせてやる!
お参りを済ませ、いよいよ我々の目的、民の声を聞くときが来た。
よしっ! 『ほぼ人間』 美夜よ!! 私に教えを請うが良い。
我々の民の声の聞き方は、SNSなどで見かける『イイネ』のポーズだ。我々には人間でいう親指の第一関節に『目』の様なものが付いている。それを参拝者に向けると心の声が聞こえるのだ。
実は民の中にも、この『目』のようなものが付いている者が稀にいる。手相などでは『仏眼』と言われており、凡人には見えないものが見えたり、第六感が働く、というものだ。
これがあるものは、我々の血が流れている。潜入観測員が民と恋に落ち、人間として生きながら子孫を残したケース、その子孫に当たる者たちだ。勿論、本人たちはそのことを知らない。
(※但し、銀河でも諸説あります)
「我々の受信手段『仏眼』について、1つ腑に落ちないことがある。我々は『神』と呼ばれているにも関わらず、なぜ手相名が『仏眼』なのだ? 寺(仏教)は我々の管轄外だろう。 データベースのバグだろうか?」
「光一さん、細かい! 地球人は初詣もクリスマスも行くんだから、『神』でも『仏』でもごちゃ混ぜなの。そこ、こだわらなくていいんです!」
こだわらなくていい!? 民にポリシーはないのか!
仏眼について我々は密かにある実験を行っていた。我々が民に繰り返し見せた『夢』を受信できた者は、皆この仏眼の持ち主だった。
さらに興味深いことに、あの新薬の解明にたどり着いた日本人は、左右ともに親指に仏眼があった。
本人たちは何も知らず民として暮らしてはいるものの、やはり血は隠せないということだ。薄れたとはいえ、彼らには我々の崇高な血が確実に流れているということなのだな……
などど感慨にふけっていると……私に教えを請うどころか、気づけば美夜は、さっさと『イイネ』ポーズで民の声を聞いていた。
「な……っ!? 実務訓練すら受けていない君が、なぜそれを!?」
「あぁ、これ? 私、子どもの頃、両親に連れられてよく神社に来てましたから、見様見まねで習得しちゃいました」
「つまり、君は子供の頃から実践していたということか しかも片手で?」
「え〜? まさか光一さん、両手使わないと受信できないとか?」
美夜がニヤニヤと、小賢しい笑みを私に向けている。悔しいが、エリートといえど潜入観測員『初心者マーク』の私は両手を使わないと民の声を聞くことはできない。
「まさか! 私を誰だと思っている? あの超難関資格を最年少、しかもトップ通過したんだぞ! できるに決まってるだろう。しかし、『銀河潜入観測法第856条』で決まっている規則だからな。
民の声を確実に聞くことが目的なのだから、聞き漏れのないよう、君も両手で聞き給え」
「はい、はい」
ウソだ。そんな規則などない。騙されるがいい。試験免除のほぼ人間には見破れるはずもない。
参拝者の民の声は、様々ではあったが、不老不死について語る者は思った以上に多かった。
『社畜生活から解放されたい』とか
『家のローンを早く返したいので宝くじに当たりますように』とか、
『110歳の上司がいつまでも会社にいるから出世が望めない』とか、
その中でも目眩すら感じたのは、夫からの
『結婚生活が長すぎて永遠の愛が重すぎる。せめて今からでも結婚を期限付きの更新制にして欲しい』
そして妻からの
『夫に飽きました……違う顔が見たいです』
という声だった。
祈るまでも落胆するまでもない。描くベクトルこそ異なれど、本質的にはこれ以上ない利害の一致『両思い』だ。
永遠という時間を前に、愛の賞味期限がとっくに切れまくっている。それでも互いにビジネスライクな笑みを貼り付け、仲良く腕を組んで去っていく。不老不死がもたらした『仮面夫婦』の異様な調和……
心の疲れを訴える声が仏眼からウンザリするほど伝わって来る。
なんと愚かな話だ。あれほど望んだ不老不死が手に入ったというのに何故もっと楽しまない!?
美夜が鼻をすする音で『ハッ!』とした。隣にいる美夜の瞳には涙が溢れている、重力に逆らえず涙は頬をつたい、やがて地面にポトリと落ちた。
「一体どうしたんだ、泣くような場面がどこにあった? 民の愚かさを哀れんだのか?」
「違いますよ……皆の話があまりに切実で、……私は地球育ちですから、人間の気持ちが分かるんです。調査に感情移入はいけないとわかっていても、つい……」
「そんなものなのか? 私には愚かな民の、ただの『愚痴』にしか聞こえなかった……どうやら私と美夜くんの心の感じ方には、天と地ほどの差がありそうだ」
「そうかもしれませんね。私は宇宙人でありながら、地球でしか暮らしたことがないですから、正直 自分が宇宙人だとわかっていても、どうしてもしっくり来ないんです。
人間の姿の時のほうが落ち着くし……かと言って、やっぱり人間でもない……自分は何者なのか? ずっと転校生みたいな気分で生きてきました。
でも、やっぱりずっと一緒に過ごしてきた人間が好きだし、幸せでいて欲しいんです……」
驚いた。自由奔放、悩んだことすら一度もない、ただの『のーてんきな小娘』だと思っていた美夜が、そんな孤独を抱え、人間に愛情を注ぐとは……
「しかし美夜くん、我々の潜入観測はまだ始まったばかりだ。毎回感情移入していたら身が持たないだろう。これは任務だ! 強い心を持ってくれ、自分の心を守るためにもな」
「……はい」
えっ?「はい」と言ったのか!? 意外だが素直なところもあるのだな……
「あ〜もう泣くな! ほら、ティッシュをやるから涙を拭いて鼻をかめ」
「チーン、チーーーン」
「鼻が赤いぞ……まったく子供みたいだな」
「酷い!! なんで笑ってるんですか?」
えっ! 笑ってる? この私が!? まさか……心臓がドクンと波打った『バグッ、バグッ…』走ってもいないのに何故だ……バグっているのは地球? それとも私なのか?
しんみりした美夜をなだめ励ましながら、神社での初の仏眼調査を終えた。
辺りは燃えるようなオレンジの空に深いブルーの暗闇が入り混じっている。
「綺麗な夕闇!! 私、夕闇が大好き」
「確かに美しいよな……」
「美しさは勿論ですけど、温かみのあるオレンジ『希望』と、不安や恐れ『闇』をあらわしているかのような深いブルーが溶け合ってる。相反するものの融合、見ていて何だか愛おしくなりませんか?」
「愛おしい? 夕闇の時間は短い、直ぐに暗闇に覆われる、真っ暗だ。私は『儚さ』を感じるが……」
「終わりがあるからこそ、輝きがある。その一瞬が愛おしいんだと私は思います。だけど、どう感じるかは人それぞれです。『儚い』も『愛おしい』も、全て正解、ハナマルです!!」
ハナマルねぇ…… ハナマルが何かはサッパリだが、なるほど正解は1つとは限らない。この不条理で矛盾だらけの地球人の心には、数式では測れない『答え』が無限にあるというのか?
生意気な小娘だが、どうやら何も考えていないわけではなさそうだ。
民の声を直に聞いたのは、今日がはじめてだったが、ほぼ人間の美夜を含め、民の心は複雑に出来ていて、矛盾が多そうだ。しかも正解が1つじゃないとは、答えが多すぎて何とも生きづらそうだ。
愛おしさなど全く感じないが、少なくとも仏眼から伝わって来た民の声が『愚痴』という一言で片付けられるものではないのだと悟った。
「見えぬものを見るのが『仏眼』。ただ民の声そのものを聞くだけでは足りないということか、もっと民の言葉の奥を見なくては真実にはたどり着けない……か……」
何から何まで非効率的だな……地球に来たことを後悔しかけた。
ーーーその時
「お腹すきません? 泣いたらお腹が空いて豚カツが食べたくなっちゃった。美味しいお店知ってるんで寄って行きましょうよ! 地球の食事は最高なんですから」
「なにっ、豚カツ!?異論はない。直ちに向かうぞ美夜くん!モタモタしてると置いていくぞ!」
👇【第3話はここから】👇
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