子どもの歯並び、矯正を始めるタイミングをどう考えるか
以前、「子どもの歯並びはいつから考えるか」という記事で、マイナス2歳から考えましょう、という理想論を書いたことがあります。
妊娠中からのお口の環境づくりが、将来の歯並びの土台になるという話でした。ただ、読者の方の視点と私の視点がずれてしまっていたのか、あまり共感を得られませんでした。予防の観点で突き詰めればマイナス2歳という考え方に間違いはないと今も思っていますが、少し理想を語りすぎたのだと思います。今日は、実際に歯並びが気になり始めた保護者の方に向けて、治療を始めるかどうかをどう捉えればいいのか、というところから改めてお話ししたいと思います。
気づいたときには、もうスペースが足りない
生活環境や生活習慣の変化により、頭蓋の骨の成長が十分でないお子さんが増えています。本来、子どもの歯列には「空隙歯列」といって、歯と歯の間にすき間(発育空隙・霊長空隙)があるのが正しい大きさとされています。これは、これから生えてくる大人の歯のための、あらかじめ確保されたスペースです。
子どもの歯が一見きれいにすき間なく並んでいるように見えると、多くの保護者の方は安心されます。ですが実際には、下の大人の前歯が生えてきた段階になって初めて、歯の並ぶスペースが足りないことに気づき、来院されるケースがとても多いのです。
矯正を考える基準になる「タイミング」
私自身、いくつものセミナーを受け、小児矯正を専門とされる先生方のお話をたくさん聞いてきました。その中で、講師の先生方の意見としてある程度共通していたのが、大人の歯が1本生えてくる頃の年齢が、矯正を考える一つの基準になる、という見解です。
理由は主に3つあります。まず、大人の歯が生え変わることで、スペースが足りないことが保護者の方にもお子さん本人にも分かりやすくなるタイミングであること。次に、矯正を行うためには決まり事を本人にきちんと伝えて理解してもらう必要がありますが、5歳6歳になると私たち歯科医師や歯科衛生士とのお話が通じ、理解力が高まってくること。そして、顎の骨の成長スピードを考えたとき、上あごは特に10歳の時点で大人の大きさの8割を超える成長を終えてしまうため、骨を拡大しながら歯のアーチを広げていく矯正の手法を選ぶうえでは、5歳から7歳くらいがスタートの適齢期とされていることです。
ただし、これはあくまで一般的な目安です。反対咬合(受け口)が予見される場合や、前歯がまったく噛んでいない(開口)など気になる症状があれば、気になった段階で一度ご相談にいらしてください。その時点で何かできることがあれば、治療、あるいは生活習慣の改善のアドバイスをすることができます。仕上げ磨きのときなどに噛み合わせも見ていただき、気になったら早めに相談していただくことが大切だと思います。
「大人になるまで待ちましょう」という考え方も、間違いではない
一方で、大人になるまで待ちましょう、という先生もいらっしゃいます。それが一概に間違いだとは、私は思いません。
小児矯正は、顎骨の成長とともに進める治療です。それゆえに個人の成長スピードには差があり、小児矯正から始めると、大人になってから矯正単独で治すよりも、トータルの治療期間は長くなりがちです。歯を並べること、子どものうちに顎の骨を正しい方向へ成長できるようアシストすることは、私たちはとても大事だと考えています。ですが、歯科矯正が人生においてすべてではありません。
たとえば、閉塞性の呼吸の問題を抱えていて睡眠にも影響が出ていて、顎の骨を正常に拡大することでその症状が緩和する可能性があるなら、早めにやった方がいいと感じる方もいるでしょう。一方で、症状がまったくなく、本人も見た目を気にしておらず、矯正をやりたいとも思っていない状態で、スペースがないからと無理に始めてしまうと、本人にとっても保護者の方にとっても、その先の長い治療を続けることが苦しくなってしまうかもしれません。
始めるタイミングに、絶対的な正解はない
私たちができることは、お口の中の記録を取り、今の状態をお伝えし、今できること、今始めることのメリットをお話しすることです。始めるタイミングに絶対的な正解はありません。だからこそ、ご家族と本人が納得できる形で、一緒に考えていくことを大切にしています。
余談になりますが、私が今勉強しながら取り組んでいる「RAMPA(ランパ)療法」は、顎骨の成長方向を正しく保ちながら、受け口の症例を改善させる、強力なツールだと臨床の中で感じています。術者にとっても患者さんにとっても、細かな調整や決まり事が多く大変な治療ではありますが、日々アップデートが行われていて、多くの可能性を感じている装置です。前歯の噛み合わせが反対で気になっている方は、こうした選択肢があることも、知っていただけたら嬉しく思います。
