見出し画像

【小説】平谷美樹「百夜・百鬼夜行帖111 飯倉町の破寺」「112 一つ目三本脚」

 北から来た盲目の美少女修法師・百夜を主人公とする連作時代小説「百夜・百鬼夜行帖」シリーズは、発表ペースは少し落ちたものの、通算100話を超えても面白さは変わりません。今回は、2話まとめて一年ぶりに発表された、第111話・第112話を紹介します。

前話の紹介記事はこちら。(シリーズ全体も紹介しています)


「飯倉町の破寺」

 ある夏の日、麻布飯倉町の長屋の大家から依頼を受けた百夜。飯倉町の住職がいない荒れ寺に鬼が棲みつき、夜な夜な亡者を追いかた挙げ句、寺から巨大な火柱が上がるというのです。

 しかしこの鬼や亡者は、奇妙なことに飯倉町の住人にしか見えないとのこと。早速荒れ寺に赴いた百夜の心眼も、渦のように集まった亡魂や穢レは認めたものの、鬼や地獄の亡者は見えないままだったのです。

 果たして寺には何が潜んでいるのか、なぜ鬼や亡者を住人たちに見せているのか? 百夜が景迹(推理)した真相とは……


 これまで百夜は付喪神から亡魂、はては神霊まで、様々な怪異と対決しました。その中にはずいぶんと規模の大きなものもありましたが、今回はその中でも有数の事態かもしれません。

 何しろ、舞台は町中の荒れ寺というそれほど珍しくもない場所ながら、夜ごと亡者とそれを追いかける鬼が現れ、あたかも地獄が地上に現れたかのような惨状を呈するというのですから!

 いかに盂蘭盆が近い頃とはいえ、本当に地獄の釜の蓋が開いて亡者と鬼が溢れ出たとしたら大変なことですが、しかしその割には色々と不審な点があって――というところで、俄然本シリーズらしい展開となります。

 本シリーズの主人公・百夜は強力な修法師であり、この世ならざるものを力ずくで調伏することも不可能ではありません。
 しかし彼女は可能な限りそれをせず、相手が何者であるかを知り、そして相手の望むことを理解した上で想いを果たさせる――「カミアガリ」させることを旨としています。

 そこに本シリーズならではの謎解き要素が生まれるわけですが、さて本作の怪異の正体は――わかってみるとほとんど判じ物の世界なのですが、しかしそれがここまでになるというのが面白いところです。

 途中には文字通りの地獄絵図も展開し、凄惨な場面もあるものの、その後のユニークな対応(?)も含め、後味はスッキリした一編です。


「一つ目三本脚」

 百夜と顔なじみの薬の行商人・八助が、行商の途中に阿佐ヶ谷近くの村外れの林で野宿した際に目撃したもの。蝋燭の火のような灯りとともに現れたそれは、一つ目で口から涎を垂らし、三本足で骨が折れているように体を左右にカクカクと動かして歩く大入道でした。

 八助に特に憑かれた様子もなく、大きな危険はないと判断した百夜ですが、その数日後、化物が現れた村の肝煎りと、地元の拝み屋の老婆・いせが百夜を訪ねてきます。
 聞けば、八助が化物と出会って以来、同じ林で野宿した者たちが、やはり化物に遭遇しているというのです。

 いせの力では調伏する自信がないという言葉に、阿佐ヶ谷に向かった百夜。
 現場の林は、百年ほど前にここを根城にしていた野盗が旅人を何人も殺し、やがて役人に退治された曰く付きの場所だというのですが……


 描写を見るだに不気味な化物の謎を巡る本作は、比較的シンプルな内容の作品であり、勘の良い方であれば、比較的早い段階で化物の正体に気付くかもしれません。

 そんな本作で特に印象に残るのは、冒頭の八助が化物に遭遇するくだりの描写でしょうか。
 作者はこれまで岩手を舞台とした実話怪談本を何冊も手がけており(昨年はそのものずばりの『岩手怪談』が刊行されています)、実話怪談においても名手といえます。
 本作の冒頭の描写は、完全にその実話怪談の呼吸を用いたもので、抑えた筆致が奇怪な化物の存在感を際立たせます。

 ゲストキャラクターのいせの使い方も面白く、オーソドックスながら面白い一編です。



 なお、本シリーズは6話で1章構成となっていますが、本章は、連続もの的な要素も多かったこれまでとは異なり、短編連作としてある意味原点回帰的な内容となっています。
 この章も残すところあと1話ですが、あまり間をおかず読むことができれば、嬉しいものです。

前話の紹介記事はこちら。(シリーズ全体も紹介しています)


いいなと思ったら応援しよう!