【書評】平谷美樹「百夜・百鬼夜行帖113 組み紐の呪法」
北から来た盲目の美少女修法師・百夜が、この世のものならざる怪異と対決する「百夜・百鬼夜行帖」シリーズも、今回紹介する第十九章の六で113話目となります。吉原で起きる客の連続変死事件の現場で発見される組み紐の謎に、百夜が挑みます。
シリーズの全体像についてはこちら。
第111話・112話はこちら。
ある日、吉原の面番所に務める隠密廻り同心・小野沢から百夜のもとに持ち込まれた依頼――それは、妓楼・島田屋で、数日のうちに三人もの客が殺されたという事件でした。
いずれも首に組み紐が絡みついていたものの、紐で首を締めた跡はなく、それ以外の傷もない。
しかし、一緒に寝ていた女郎もいつ客の首に紐が絡んだかもわからず、しかも面番所で保管していたはずの紐がいつのまにか首に絡まっていたという状況に、小野沢は修法師の出番と判断したのです。
そして問題の組み紐を手にした百夜ですが、そこに怨霊や呪詛の気配はおろか、死んだ客の気配すらしないという、逆に不自然な状況にあることに彼女は気付きます。
下手人が怨霊にしろ呪術師にしろ、かなりの力を持った相手と知り、吉原に向かう百夜。
そこで百夜は、顔見知りの若い衆や、友人の花魁・七瀧から、島田屋だけでなく吉原中で変死事件が起きていると知ることに……
これまで様々な呪術や呪物が引き起こした怪事件に挑み、その謎を解いてきた百夜。言い換えれば百夜は、事件を起こすメカニズムを解き明かす、一種の探偵役を務めてきました。
しかし、そんな百夜にとっても、凶器と思しき品が残っているにもかかわらず、そこに何の痕跡も残っていないという状況はおそらく初めてではないでしょうか。
これは言ってみれば普通の(?)殺人事件でいえば指紋や血痕を拭ったような状態ですが、それが霊的に行われている点に、不気味さと謎があります。
しかし、それであればどこから謎を追うのか――もちろん百夜の心眼が頼りになるのは言うまでもありませんが、今回はそれと同時に、極めて地道な手段が効果を発揮するのがユニークなところです。
さて、その果てに、百夜はついに「犯人」を発見するのですが――その相手に対する百夜の対応もまた、本作の見どころと言うべきでしょう。
先程、「探偵」という喩えを使いましたが、百夜は(人の作った)法の番人などでは決してありません。
彼女が探偵する――謎を解くのは、苦しむ者(物、モノ)を救い、その魂を救うため。真実を明かすことがその目的に適わないのであれば、百夜は自分自身の信念に従って行動するのです。
本作の冒頭では、貧しさから吉原に身を売る娘たちを念頭に、吉原に否定的な態度を取りながらも、
「わたしが何を言おうと世の中は変わらない。ならば、われらはそういう世の中を生きねばならぬ」
と語った百夜。
それは確かにそうだけれども――というこちらの気持ちに応えるような、百夜の行動にホッとさせられるのです。
こうして痕跡なき怪異をロジカルに(この辺りが実に作者らしい)封じた百夜ですが、はたしてこれでこの事件が終わったのかはわかりません。
しかし怪異を、惨劇を生むのが人の心であれば、それを阻むのもまた人の心である――それだけは間違いないでしょう。
さて、これまでと同様であれば、第十九章もこれでラストのはずですが、この先も怪異の謎を解き、苦しむモノの魂を救う百夜の活躍を楽しみにしたいと思います。
シリーズの全体像についてはこちら。
第111話・112話はこちら。
