【小説】平谷美樹『貸し物屋お庸謎解き帖 お慕い申し候』 超大物ゲスト登場!? 動き出した謎
口は悪いが情には厚い、貸し物屋の名物娘・お庸の活躍を描くシリーズもこれで第7弾、白泉社招き猫文庫版も含めれば第11弾と、ついに作者の単行本の中ではシリーズ最多巻数となりました。今回も謎解きあり怪談ありと様々な出来事が描かれますが、そこになんと超大物ゲストまでが加わって……
江戸の貸し物屋(レンタルショップ)・湊屋の両国出店の店主・お庸は、口は悪いが真っ直ぐな気性と面倒見の良さで評判の名物娘。好奇心の強さと情の厚さから、複雑な事情を抱えた客の面倒を解決するために、お庸は様々な事件や騒動に首を突っ込むことに……
というのが本シリーズの基本設定。「無いものはない」というキャッチフレーズの湊屋だけに客が借りに来る品も様々、そしてその客にまつわる事情もまた様々――というわけで、人情話から日常の謎、怪談話まで、幅広いジャンルの内容が展開するのが大きな魅力となっています。
前作の紹介記事はこちら。
本書は5話構成ですが、冒頭の「初夢のまじない」は、正月に宝船の絵を借りに来た客から、見知らぬ男が奇妙な宝船の絵を配りに来たことを知ったお庸が、調べに乗り出すという一編。
普通の宝船の絵に記されている回文歌とは異なる奇妙な歌は、何を意味するのか? 配っていた男を見つけてその理由を知ったものの、そこで終わらず、むしろどのように皆を納得させるかという難題が描かれるのが、本作らしいところです。
また、第3話の「平打ちの簪」は、女房のために簪を借りに来た職人に、お庸が死霊の気配を感じたことから始まる奇妙な物語。はたして職人には驚くべき秘密があったのですが……
それを受けての展開は、人間も幽霊も時に同じ世界に暮らす者として描く本シリーズらしい世界観らしい内容。切なくほろ苦い、しかし温かく優しい結末が胸を打ちます。
一方、表題作の「お慕い申し候」は、とある大名の領国から毎年江戸にやって来る神楽一座の太鼓の中に、「お慕い申し候」とだけ記された女文字の文が入れられていたことから始まります。
限られた機会の中で、誰が文を入れたのか――ロマンチックな内容をロジカルに解き明かしていくのが面白いのですが、その先に秘めた想いを残す結末がなんとも粋です。
(しかしこのタイトルを見た時は、てっきりお庸から湊屋本店の主・清五郎への想いかと思ったのですが――冷静に考えればお庸の口調ではないですね)
さて、このようにバラエティに富んだ内容は健在ですが、中編の第2話「三つの煙草盆」は、シリーズの根幹に迫る内容となります。
ある日、二人の供を連れて両国出店を訪れた身分ありげな老侍。国元から出府してきたが、煙草盆を忘れてしまったので貸してほしいという老侍ですが、大名相手の商売を行っている本店ではなくこの出店を訪れたことに、お庸は疑問を抱きます。
そこで本店の清五郎に相談の上、お庸は三つの煙草盆を用意して、相手の人物を探ろうとするのですが……
いかなる理由か、かつて陸奥国神坂藩の江戸家老一派に付きまとわれ、苦しめられた苦い経験から、近づいてくる武家には用心を欠かさないお庸。最近は清五郎たちの用心もあり、神坂藩も鳴りを潜めているのですが、どう考えてもお庸の身に何か秘密があるとしか思えません。
それはさておき、名前と居所は判明したもののいかにも怪しいこの老侍の正体を暴くため、お庸は仲間たちの力を借りて奔走することになります。
本シリーズは「貸し物」とタイトルにありますが、物を貸して終わるエピソードは、実はそれほど多くはありません。むしろそこから本当の謎が、物語が始まることがほとんどです。そして本作でも、煙草盆を貸した時から、本当の謎が生まれるわけですが――ついにお庸が突き止めた老侍の正体とは?
これまで遠くにあった世界が、急に近くなった――そんな印象すら受ける超大物ゲストの登場に仰天させられましたが、さてこの人物が物語に、お庸にどうかかわるのか。シリーズの縦軸がここに大きく動き出したということは間違いありません。
そしてラストの「暖けぇ布団一組」は、正月に田舎から出てくる父親のために、暖けぇ布団一組を貸してほしいという客から物語は始まります。
父親はいつ着くかわからないため、布団の準備だけして店に置いておいてほしい――そう言って金を前払いしながら、なかなか布団を取りに来ない客は何者なのか?
いかにも日常の謎らしい導入ですが――その答えになるほど、と感心しつつ、本書の掉尾を飾るに相応しい展開にも嬉しくなる、ユニークな一篇です。
というわけで今回もバラエティ豊かで賑やかな一冊でしたが、やはり気になるのは、ついに動き出したお庸の謎を巡る展開です。
本書を読めばその内容はある程度予測できるのですが、それが当たっているか、そして当たっていたとして、この先お庸と物語がどのような道をたどることになるのか――次巻もこれまで以上に楽しみになってきました。
前作の紹介記事はこちら。
