Chapter7. 微小発酵体理論:その反響①
「血液:流体組織」の教義、その自然変質/パスツールと空中胚種/Ch.ロビンと血液の変質/微小発酵体と分裂菌類の胞子/微小発酵体とMicrococcus/微小発酵体と循環系/血液、循環系等組織の微小発酵体の比較/微小発酵体の自律性
血液は流体組織であり、全ての生体組織の法則に従って自然変質する。この証明は微小発酵体の発見に完全に依存する。独自の秩序を持つ未知の生命体ながら、あらゆる生体組織のあらゆる部位、あらゆる細胞にその始原から終焉に至る迄、即ち、その生命の誕生から完全なる生理的健康状態で過ごす生涯の全期間に渡って普遍的に、そして不可欠な有形要素として存在する。この発見が、生体内のあらゆる組織と体液が自然変質する原理の証明に結実し、それはその原因となる微小発酵体を生得的に宿す為である。また、微小発酵体はビブリオや、一定の条件が揃えばバクテリアへと進化を遂げる。以上の事実の全てが論争の的となり、果てはその存在否定にまで遭遇することになった。
これは、自律的に生きる解剖学元素の存在に関するビシャの構想に親和性が高く、生ける有形構造を持たぬ生物質~原形質 や再生芽 ~の教義に完全に対立する。正真正銘の組織である血液もまた自然変質する事実を弁護する為にも、ある教義の学者達に是迄も、そして今尚私は反対言論を展開してきた。
以下は、この論争の経緯を述べたものである。
マッケル条件が揃った有機物の自然変質が科学界では絶対の真理だと容認された。第一章では、この事実が般化され、(甘蔗糖含む)あらゆる近成分の自然変質もまた容認されるに至った経緯を述べた。だが私が証明した通り、空中胚種の存在自体も、そのスパランツァーニ仮説も否定されようとも、有機物の自発性を思わせる変質現象は空中胚種の作用を介してのみ発生する。だが動植物質や、その組織や体液に限りマッケルは正しかった。同時に、マッケル三条件~適正な湿度、一定の温度、瞬間的な空気接触~の内、初め二条件が不可欠であり、空気とその胚種が変質条件から完全に除外される可能性があることも証明した。
パスツール氏は、有機物全般が自然変質すると認め、ビール酵母、乳酸酵母、およびビブリオ等の発酵体は、加糖酵母の煮汁成分であるアルブミノイド物質に由来する自然発生の産物だと明言した。私の実験の追試により空中胚種の実在を確信し、自らの誤りを悟った氏は、以来、ビブリオ含む全ての発酵体は~以前まで否認した~空中胚種を唯一起源とし、例外無き有機物自然変質の第一原因だと断じたのである。空中胚種無き所の地上には腐敗せぬ死体が山積みになると警告し、その蓄積が招く末路を試算する為の実験にまで着手していた。従って氏が微小発酵体を否定し、その発見が招く帰結に異議を唱えることは至極当然の行動であった。実際、牛乳や煮沸した尿、血液や生肉に関する氏の実験は、生命自然発生説への論駁に熱情を注ぐ氏が私の実験法を模倣して実施したものであり、当時は未だ名も無き微小発酵体への対抗が目的ではなかった。パスツール氏が微小発酵体の存在と理論を否定し始めたのは1876年以降の話である。だが微小発酵体理論の事実は1871年には殆ど全てが発表され、1874年にはフランス国内外で検証・確認済みであった。だが、検証と確認が進む一方、ここに解釈が介入する。歴史的背景や対比の為にも、科学界による解釈もまた認識されることが望ましい。
ロビンは、微小発酵体がバクテリアへ進化する可能性に触れた初の人物である。だが、動物体内の微小発酵体の存在に関する氏の理解に言及せねばならない。氏は、パスツール氏の血液実験に帰する二つの原理をいとも容易く受容したのだ。
第一:血液自身は変質しない
第二:動物の体は体外の胚種に閉鎖的であり、論理的帰結として動物体内にバクテリアへ変貌し得るものは存在しない
ロビンは、人体組織経済がバクテリアの侵入に対して完全に閉鎖的だと、パスツールが疑問の余地なく決定的に証明したとさえ断言した。だが、ダヴァイン、レイエ 、コーズ 、フェルツ等の観察は、特定の疾患で血液中にバクテリアが出現することを裏付けている。
それでも血液中の解剖学元素たる微小発酵体の実在を頑なに認めぬ彼等は以下の何れかの立場を採用する必要があると述べた。「微小発酵体の形態で自然発生した後にバクテリア形態へ変化する」か「微小発酵体は塵粒と同じ経路で血液中に侵入する」かである。この二分法は、この学者の倒錯の表れである。曲りなりにもロビンは原形質論者であった。微小発酵体の如き解剖学元素が、氏の言う”バクテリア形態”へ移行するなど、氏に馴染みある解剖学元素の印象を破綻させるものである。だが科学界への公明正大な忠誠心で以て、微小発酵体をバクテリアと同じ系列に分類する氏に躊躇いはなかった。故に氏は「Dictionnaire De Médecine 」の記事で「微小発酵体は生体内のどこから来たのか?」と問うたのだ。間違いなく先述の通りに倒錯する氏は、微小発酵体を(※ドイツ帝国)イェーナの植物学者ハリエ のMicrococcusに関連させる他、エーレンベルク のBacterium punctumと同一視するに至った。
2年後、スイスの誠実な学者が以下のように述べた。
私の知る限り、特定の分子顆粒に微小発酵体と命名し且つ秩序的発酵体だと最初に認識した人物はA. ベシャンであり、エストール氏との共同研究に基づいて以下三つの命題を定式化した:
第一に、検証対象の全ての動物細胞には通常、恒常的かつ不可欠な顆粒が存在し、ベシャン氏の微小発酵体に類似する。
第二に、生理的条件での微小発酵体は球状の外観を持つ。
第三に、動物経済の外側では、微小発酵体は如何なる外来胚種の介入も無く通常の形態を喪失する。チャプレット状の連鎖体形成に始まり、これはトルラ の名称で別の属の分類にされている。
その後、孤立ないし結合したバクテリアへと伸長する。後のビルロート やティーゲル らの研究がこの三命題の確認に過ぎぬことは明白である。
Ueber die Zersetzung der Gelatine und des Eiweisses bei der Fäulniss mit Pankreas: Festgabe für Gustav Valentin von der medicinischen Facultät
Bern. Bern: J. Dahp’sche Buchhandlung, 1876.; p.35
その後、反芻動物の膵臓と殺傷直後の犬の膵臓で実験した所、常にブラウン運動をする同じ分子顆粒が常在すると主張する。これら分子顆粒について曰く、「明らかにベシャンの微小発酵体、ビルロートのcoccus」であり、躊躇なく「エーレンベルクのMonas Crepusculum」だと断定した。
後日、ネンキ はジャコサ との共同研究で我々と同じ組織切片の研究に着手し、その普遍性を確認したが、微小発酵体を解剖学元素に格付けしようとはせず、バクテリアやビブリオの動物認識を止め、分裂菌綱の名目の下に植物と認識すべきだとし、遂には微小発酵体はこれら植物性の胞子であると断ずるに至ったのである。
いいなと思ったら応援しよう!
全記事無料公開しつつサポートのみでの生存を目指す男です。
何か響くものがあれば、期待できる何かがあれば投げ銭頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。