夏の終着点
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お題:夏の終着点がテーマ
締切:9月7日(月)23:59
八月も終わりになると、海辺の町から少しずつ人が消えていく。
昼間はまだ蝉が鳴いている。けれど、その声にはどこか力がなく、夕方になると、昨日まであれほど賑やかだった浜辺にも長い影が伸びていた。
駅前の小さな喫茶店で、俺はひとり、窓の外を眺めていた。
テーブルの上には、飲みかけのアイスコーヒーと、去年の夏に彼女が置いていった文庫本。
「来年も、ここで会いましょうよ」
あの夏、彼女はそう言った。
約束というほど大げさなものではなかった。
ただ、海を見ながら、それだけを言った。
けれど、翌年、彼女は来なかった。
それから一年が過ぎ、さらに一年が過ぎた。
そして俺は毎年、八月の最後の日になると、この店に来るようになった。
窓の向こうには、少しだけ色の褪せた海がある。
波は寄せては返す。
何も変わらないように見えるのに、海岸からは夏の匂いが少しずつ消えている。
店を出ると、夕暮れだった。
砂浜には誰もいない。
海の家は閉じられ、軒先に吊るされた風鈴だけが、弱い風に揺れている。
俺は裸足になり、波打ち際まで歩いた。
冷たい。
真夏にはあれほど心地よかった海水が、今日はもう秋の入口のようだった。
水平線の向こうへ太陽が沈んでいく。
その光の中に、あの日の彼女の姿が一瞬だけ見えた気がした。
水着の上に羽織った白いシャツ。
濡れた髪。
振り返って笑う顔。
けれど、瞬きをするとすべては消え失せた。
「来年も、ここで会いましょうよ」
あの言葉だけが残っている。
だけど私はもう、彼女を待つつもりはない。
待つことをやめるのが、忘れることだとも思わない。
ただ、あの夏を、あの夏のまま終わらせたかった。
帰り道、空には細い月が浮かんでいた。
振り返ると、浜辺には俺の足跡だけが続いている。
見ていると波がひとつ、その足跡を消していった。
不思議と寂しくはなくなった。
夏には終着点がある。
人も、恋も、約束も、いつかそこへ辿り着く。
終わった場所は、消えた場所ではない。
振り返ればいつでも、あの光景は想い出せる。
俺は海に背を向け、駅へ歩き出した。
遠くで、最後の蝉が一度だけ鳴いた。
その声が聞こえなくなると、町はひどく静かになった。
夏の終着点とは、彼女を待つ場所ではなく、俺が歩き出す場所だったようだ。
SCANDAL / 愛にならなかったのさ
同一メンバーによる最長活動女性ロックバンドとしてギネス世界記録に認定された、女性4人組ガールズロックバンド「SCANDAL」は、2027年8月21日をもってバンド活動終了が先日発表された。まだ1年あると見るか、もう1年しかないと見るか、ファン心理は複雑だろう。
