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【大学講義のリアル】最終回は「答え」ではなく「問い」を渡す。──14回かけて、自分の名前を取り戻す授業

7/21、2026年度の表P(表現する力をきたえるプログラム)前期最終回です。
前期の終盤はどう着地させようか随分悩みました。
学生たちの書きようや反応をみながら、
試行錯誤で組み立てた実践記録です。


今年は、最終回の組み立てを変えた

毎年、この講義では「自分らしさ」を題材にして講義を進めている。
今年前期は基本的なワークは変えずにきたが、途中途中で学生が戸惑っている部分を丁寧に見るようにするワークを挟んだりと、こまめに調整を重ねてきた。そして最終回。ワーク自体の振り返りは前回13回で実施したので、
この最終回では、最終課題を書く学生へ届けるメッセージ。それを大きく変えた。

例年は2本動画を見せ、表現の理解を促してきた。
だが今回は、BTS・RMの国連でのスピーチ動画のみを選んだ。
「Love Myself」「Speak Yourself」という言葉を軸に最終回を組み立てた。
この動画にはたくさん「自分らしさ」に気づくことのエッセンスがちりばめられている。
動画を見せた後、彼の言葉を反芻し、解説した。
特に最後の「Love Myself」「Speak Yourself」を強調ポイントとした。

ただし、私が学生に伝えたかったのは、
「自分を好きになろう」という話ではない。

「自分の名前を取り戻す」とは、自分の声を聞くこと

私は学生たちにこう伝えた。

「社会の中で生きていると、
人はどうしても「どう見られるか」を気にするようになるよね。

それは悪いことではない。人間の成長戦略の一部だから。

だけど、その声ばかりを聞いていると、
自分の本当の声は少しずつ小さくなってしまう。
このことをRMは言ってるよね。

みなさんも心当たりがある人がいるかもしれない。
自覚がなかった人もいるかもしれないけど。」

「だから前期の表Pでは、
問いを受け取り、
自分でまず言葉にして、
対話し、
リフレクションを繰り返し、
自分の言葉を探してきたんです。」

「「Love Myself」とは、自分を愛そうとRMは言っていました。
もちろん自分を愛せる人はどんどん自分を愛してほしい。

でも、ここでは
「Love Myself」を
”まず自分の声を自分で聞けるようになること。”という入り口として考えてみてほしいんです。

この講義でみなさんは、ここができるようになってきていますよね。」

そして「Speak Yourself」。
”その声を必要な相手へ、自分の名前で語れるようになる”

「ズーニーシート回の最初でも説明した図を覚えていますか?
自分の全体像を把握したら、
そこから誰に向けて何を切り出していくかを考えればいい。
その時に必要なのは『自分らしさ』と『誰に、何を伝えたいか』。」

ズーニーシート回で紹介した図。卒業生作。

「自分の名前で語るとは、
その自分らしさをどういう形で語るかを考えること。
自分が言いたい時に、ちゃんと自分らしい言葉で語ってほしい。
そのための材料を探し、整理してきたのが前期です。
そして最終課題は、それを形にする課題なんですよね。」

答えではなく、問いを渡す

最終課題では、
「私は○○な人です(かもしれない)。」という文章を書いてもらった。
最終日は、後半時間を取って講義内で文章を書いてもらう。

教室を回っていると、一人の学生が、
「私は私自身を過小評価している人です。」
と書いていた。

私は一瞬えっ!と思い、足を止めて彼に話しかけた。
「これって、どういうお話なの?」

話を聞いてみると、
ズーニーシートの対話を通して、
「自分はずっと自分を過小評価していたのかもしれない」
と気づいたという話だった。

私は少しだけ質問をした。
「対話の中で過小評価してたっていう気づきがあったんだね。で、今は?」

すると学生は少し考えながら説明してくれたのだが、
「過小評価してしまった人です、の方がいいですよね。」
と、自分でタイトルを書き換えた。

私は正解を教えたわけではない。
問いを返しただけだった。
でも、その問いが、
彼自身の言葉を選び直すきっかけになっていた。

14回かけて、学生たちが育ててきたもの

前期は最初から「誰に伝える?」を強くは聞いてこなかった。
初回のガイダンスや自己紹介ワーク時には伝えたが、
そこにこだわる話はしてこなかった。

まずは自分を知る。
対話する。
自分の声に気づく。

そこまで育ってから、
最後に
「その言葉は、誰に届けたい?」
という問いを渡す。

実際に育っているかどうかはわからない。
でも、いくつものワークを経て、
それぞれがなにかしらの「これまでは気づいていなかった自分らしさ」を手にしていることはわかる。
そんな新しく気づいた自分らしさを、
ぜひ新しい自己紹介として育ててほしい。
そんな思いで最終課題とした。

そして最後にその文章を書く際に、
「今から書く文章を誰に読んでほしいか、を30秒だけ考えてみて。」というワークをした。

表現をする上で、「誰に何を伝えたいか」は真っ先に考えるべきものだ。
だけど、今の学生の場合、そこが前に出てしまうと
「他者の評価」や「自己PR」を考えてしまって、
自分らしさが抜け落ちる場合が多い。

今回は最初の自己紹介ワークでも
「自分がいいたいことがみつからない」
「3分しゃべれるネタはなんだろう」と
外側に気持ちが行く学生が多い印象だった。

ならば、「誰に」はちょっとおいておいて、
「自分の素直な思いを自分がちゃんと見ることができる場にしよう」
を優先した。

だから私は、今年はRMのスピーチを選んだ。

あのスピーチが話題になった頃、今の学生たちはまだ小学生か中学生だ。
私は動画を流す前に、「これは8年前の動画だから、RMも皆さんと同じくらいの年齢の頃に考え、練り上げたスピーチなんだよ」と伝えた。

世界的なスターとしてではなく、一人の若者として、自分の言葉を探し続けてきた人として、この動画に出会ってほしかったからだ。
おそらく、自分からあの動画へたどり着く機会はほとんどないだろう。

でも私は、この講義で積み重ねてきたことが、
教室の中だけの話ではないことを知ってほしかった。

「自分の声を探し、自分の言葉で語ること。」
この講義で学生たちと取り組んできたことは、決して教室だけのテーマではない。

それは、一人の学生だけの悩みではなく、
世界中の人が向き合ってきた問いでもある。

アジアの小さな国から世界へ出ていった彼らもまた、その問いと向き合い、「Love Myself」「Speak Yourself」という言葉を世界へ届けた。

だからこそ私は、最後に学生たちにこの動画を見てもらいたかった。

教室の中だけの話ではない

自分の声を探し、自分の言葉で語ろうとする営みは、この講義が終わっても終わらない。

商学部の学生たちは、これから社会へ出ていく。
仕事では、自分の考えを伝え、人を動かし、ときには誰かと協働しながら、新しい価値をつくっていく場面に何度も出会うだろう。

そのとき必要になるのは、いつでも「自分の言葉」だ。
そして、その言葉を誰に届けたいのか。何を伝え、相手にどうなってほしいのか。
それを考えながら表現することが、この講義で私が伝え続けてきたことでもある。

だから社会に出て、表現に迷う日がきたら、
RMのあの言葉と、この14回を、ふと思い出してもらえたら嬉しい。

Speak Yourself

※【大学講義のリアル】シリーズは、こちらのマガジンに格納しています。
過去のものを読んでみたい方はこちらから☟


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