【連作掌編】『三日の会議』 第3話「短い休日」|仕事の外側だけが、急速に崩れていく
第3話「短い休日」 作:MMPP.K
映画が始まったと思った直後に、まだ物語の流れを掴みきれていないうちに場面が切り替わり、気づいたときにはエンドロールが流れ始めていて、そのあまりの速さに内容を取りこぼしている感覚だけが残る。
「どうやった?」
隣から声がする。
言葉を探そうとする。
さっき見たはずの場面を思い出そうとするが、断片しか浮かばず、それを繋げるあいだに間が空く。
「……よかったと思う」
そう答えると。
「どこが?」
とすぐに返ってきて、その問いに答えるための思考が整う前に会話の流れが先へ進んでいく。
「私はさ、あのラスト――」
話は続く。
頷く。
内容はなんとなく分かる。でも、入るタイミングが掴めない。
外に出る。
日差しが強い。
歩きながら会話が続く。
「さっきの話さ」
「うん」
「それ、もう三回目やで」
足が止まる。
「……え?」
「同じこと、さっきから言ってる」
記憶を辿ろうとするが、どこで何を話したのかが繋がらず、断片だけが浮かんでは消える。
「ごめん、ちょっと……」
言いながら、自分の声の位置がずれている気がする。
「最近さ」
相手が言う。
「なんか、会話合わへんよね」
その言葉を受け取るのに、わずかな遅れがある。
否定しようとする。でも、言葉が間に合わない。
ポケットの中で、スマートフォンが震える。
取り出す。
画面を見る。
仕事の通知。
内容を開く。
その瞬間、さっきまで掴めなかった時間の流れが、ぴたりと自分の中に揃う。
文字の意味が一度で理解できる。
返答の形がすぐに浮かぶ。
指が迷わず動く。
「……今の顔」
顔を上げる。
相手がこちらを見ている。
「それ、仕事のときの顔」
スマートフォンを持ったまま、言葉が止まる。
さっきまで噛み合わなかった会話の速度が、今は違和感なく理解できる。
その代わりに、目の前の相手の言葉が、わずかに遅く感じられる。
返信を打ち終える。
送信する。
画面を閉じる。
その瞬間、揃っていたはずの流れが、また外れる。
相手の声が少しだけ先に進む。自分の思考が、あとから追いかける。
「ねえ」
呼びかけられる。
「今の、分かってる?」
頷こうとして、遅れる。
「……聞いてる」
そう答えるが……。
「聞いてないでしょ」
すぐに返される。
少しの沈黙が落ちる。
その沈黙の長さが、測れない。
「ごめん」
相手が言う。
一歩、距離ができる。
「なんか、一緒におっても、一人みたいやわ」
言葉を返そうとする。でも、そのための時間が足りない。
ポケットの中で、またスマートフォンが震える。
取り出そうとして、止まる。
向こうの通路でも、同じ着信音が鳴った。
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