【連作掌編】『三日の会議』 第2話「完璧な仕事」|整う思考は、必ずしも味方ではない
第2話「完璧な仕事」 作:MMPP.K
画面の中の文字を追いながら、どこに矛盾があるかを探していると、一つ見つけるたびにその修正に必要な思考の時間が十分に確保されていることに気づき、その余裕を当然のものとして受け入れながら次の箇所へと進んでいく。
カーソルが点滅している。
一定の間隔で光っているはずなのに、その点滅のあいだに挟まる時間が、意識を向けた瞬間にわずかに伸びる。
――仕事。
そう考えた瞬間、思考の流れが整い、さっきまで微妙に引っかかっていた判断の遅れが消え、文字を読む速度も、考える速度も、自分にとってちょうどいい速さに揃っていく。 修正する。
一行。
また一行。
気になる箇所を見つけては直し、読み返し、別の角度から見直しても破綻がないことを確認し、そのまま次へ進む。
時間はある。
足りないという感覚はない。
むしろ、余白のほうが大きい。
「なあ、それまだ?」
背後から声がかかるが、その声が届くまでにわずかな遅れを感じながらも、こちらの思考のほうが十分に進んでいるため、振り返るタイミングを自分で選べる。
「もう終わってます」
そう答えて画面を見せると、同僚の視線がゆっくりとスクロールに追いついていく。
「……え?」
最初から最後まで確認しても、直すべき箇所は残っていない。
「今朝からやってたよな?」
頷く。
「どんだけ時間かけてんの?」
その問いに対して、かけた時間を思い返そうとすると、作業の手順は思い出せるのに、どれだけ時間が経過したのかだけが曖昧になる。
「勤務時間内です」
そう答えると、同僚は少しだけ間を置く。
保存する。
画面に更新が反映される。
その表示を見ているうちに、さっき修正したはずの箇所がもう一度目に入り、確認のために同じ行を読み直し、同じように直して、同じように保存する。
「……あれ?」
履歴を開く。
自分の名前が並んでいる。
同じファイルに、同じ修正が、ほとんど同じ時刻で重なっている。
「これ、さっきも直してなかった?」
横から声がする。
「……いえ」
答えながら、確信が持てない。
直した記憶はある。
今も直した。
その前にも、直していた気がする。
「こんなん、人がやるスピードちゃうやろ」
誰かが小さく言う。
画面の中の履歴をもう一度見る。
同じ操作が、何度も並んでいる。
それを見ていると、どこまでが一回目で、どこからが繰り返しなのか分からなくなる。
時計を見る。
まだ時間はある。
あるはずなのに、 その時間の中で、自分が何回同じことをやったのかが分からない。
カーソルが点滅している。
その光のあいだに、もう一度同じ行を読み直そうとしている自分に気づき、止めようとする前に指が動く。
もう一度、同じ行を直している。
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