moanavision絵本館|第一巻いつものせかいに、あながあいた。
ある朝、
いつもの道を歩いていた。
いつもの電柱。
いつもの犬。
いつものパン屋さん。
いつもの空。
「きょうも、いつもどおりだ。」
と思った。
そのとき、
道のすみに、
小さな穴があった。
のぞいてみた。

暗い。
もう少し、
のぞいてみた。
やっぱり暗い。
「なんにもない。」
帰ろうとしたら、
穴の中から声がした。
「そっちこそ。」

「え?」
「そっちこそ、なんにも見てない。」
ちょっと、
失礼な穴だった。
次の日。
ぼくは、
いつもの道を、
ちがう歩き方で歩いてみた。
後ろ向きに、
三歩。
横向きに、
五歩。
電柱を、
下から見た。
電柱は、
思っていたより、
高かった。

犬を、
犬だと思わずに見てみた。
ずいぶん毛深い人だった。

雲を、
雲だと思わずに見てみた。
空に忘れられた、
大きなパンみたいだった。

パン屋さんの前で、
目を閉じた。
町が、
いいにおいになった。
その日から、
穴は、
いろんなところに現れた。




昨日と同じだと思っていた、
今日。
ある日、
ぼくは穴に聞いた。
「きみは、どこにつながっているの?」
穴は言った。
「どこがいい?」
「……え?」
穴は、
何も言わなかった。
ぼくは、
ちょっとだけ、
穴のことが好きになった。
次の朝。
いつもの道を歩いた。
いつもの電柱。
いつもの犬。
いつものパン屋さん。
いつもの空。
でも、
昨日までの
「いつも」は、
どこにもなかった。
そして、
道のすみにあった穴も、
消えていた。
かわりに、
ぼくのポケットに、
小さな穴があいていた。
「……あ。」
そこから、
知らない空が見えていた。

🌙 moanavision 絵本館
FOR CURIOUS HUMANS.
こどもも。
おとなも。
まだ、どちらでもない人も。
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