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【小説】二人、江戸を翔ける! 19話目:女任侠伝⑧(最後)

■本文

 形勢は完全に度度須古組側が優勢となった。軽く蹴散らすつもりでいた須古土井組の頭は、大いに困惑する。

「くそお! どうなってるんだ! これじゃあ負け戦じゃねえか!」 

 そこへ、隣にいた若頭が耳打ちをする。

「大丈夫です、頭」

「若頭か。そう言うってことは、何か策でもあるのか?」

「ええ。実はあいつらの後ろに別動隊を送り込んでいます」

「ほ、ほんとかい!?」

 思いがけない朗報に、頭の表情がぱっと明るくなる。

「元々は、あいつらを逃がさない為の策だったのですがね。そろそろ来る…… あ! 来ました!」

 頭が目で追うと、確かに数十の松明がお京の背後から近づいているのが見えた。頭は喜色満面の笑みで叫ぶ。

「よし! 頭のお京さえ押さえれば、こちらの勝ちだあ!」

 突然現れた別動隊に、お京は驚いた。度度須古組の組衆はほとんどが戦闘に出向いており、お京の周りには豚吉曙月光しかいなかったのだ。

「ひいい! 姐さん! 大勢来るでやんすぅ!」

「しっかりしな、豚吉! 皆が戻ってくるまで、持ちこたえるんだよ!」

 お京が短刀を構えると、すうっと前に立つ人物がいた。それは、曙月光であった。

「大丈夫です。ここは私に任せてください」

「え!? この声……」

 心地よいアルトの声色、そして頭巾の後ろ側からはみ出た艶やかな黒髪。これでお京は、曙月光の正体がわかった。

(も…… もしかして、太刀音さま!?)

 曙月光、もとい太刀音は木刀を構えると、襲いかかってくる須古土井組に一人で立ち向かった。

「え、別にいたの? やばい! ……って、え?」

 別動隊に気づき、急いで戻ろうとしたは唖然とした。太刀音もまた、鬼神のごとき強さだったのだ。

 次々と襲いかかる敵の長ドスを弾き飛ばし、それと同時に相手の面、胴、小手に木刀を打ち込んで倒す。
 一つ一つの動作が早すぎて、複数人が同時にやられている錯覚すら覚えるほどであった。須古土井組の別動隊は成すすべもなく、次々と沈んでいった。

「す、すご……」

 この太刀音の武勇を遠くから見ていた凛や藤兵衛は驚き、ひさ子も感心したのか口笛を「ひゅう」と鳴らす。

 そして、太刀音の勇姿を間近で見ていたお京はというと、体の奥底が熱くなる。

(すごい…… 太刀音さま。 そのお面も、声も、そして服の色も、全部、す・て・き……♡)

 彼女の目にはもう、太刀音しか映らなかった。

「な、ななななんだ、ありゃあ!? どうなってる、若頭ぁ!?」

「わ、わわわたしだって聞きたいですよ! 度度須古組にあれほど強いのが四人もいるなんて!」

 月光五連邪阿の強さに慄いた須古土井組の頭と若頭は、責任のなすりつけを始める。

「く、くそぉ! こうなりゃ引くぞ! 若頭、おめえは殿しんがりを引き受けろぉ!」

「ええ! わ、私も逃げますよぉ!」

 若頭は頭が止める間もなく、あっという間にその場から逃げ去った。

「ああっ、あの野郎! ……俺も早く逃げねえと。間曽助まぞすけのやつはどこ行ったぁ!?」

 息子と一緒に逃げようと、頭は息子の行方を捜す。すると、組衆の一人が指をさす。

「あそこにいやすぜ、頭ぁ! 紫のやつと戦ってます!」

「なにぃ!?」

 指さされた方を頭が見ると、間曽助は桔梗月光こと、ひさ子に鞭でしばかれている真っ最中であった。

「あひぃ~~、もっと、もっと鞭をぉ~~!!」

「くっ、こいつ、なかなかやるわね!」

 間曽助は恍惚の表情を浮かべ、ひさ子はなかなか屈しない間曽助に苦戦している光景が、頭の目に映った。

「…………」

 頭は呆然となる。すると、そこへ、

 ____ビュウ! ガン!

「あげぁ!」

 紅色月光こと、凛が投げた石が頭に直撃し、崩れ落ちたのであった。
 こうして決闘は、度度須古組の圧倒的勝利で終わった。度度須古組は、この大勝利をもって大きく盛り返すことになる。

 一方、負けた須古土井組はこの決闘をきっかけに落ち目となり、今までの悪行も祟ってか次々と組衆が抜け、最後には度度須古組に吸収されることになるのであった。

 ここはお梅婆さんの家の縁側である。

「へ~、そんなことがあったのかい」

「そうなんですよ。一時はどうなるかと思いましたが、なんとかなりました」

 凛が藤兵衛、ひさ子と一緒に、度度須古組に関わる出来事をお梅婆さんに報告し終えたところだった。

「それじゃあ、度度須古組は良いヤクザ…… って言うのも変だねえ。前よりまともな奴らになったってことかい?」

「はい。カタギ衆に愛される任侠集団、っていうのを目指すみたいです」

「それなら、万事解決ってわけかい。大したもんだ」

「そ、そうですね……」

 お梅婆さんは、凛の歯切れの悪さが妙に引っかかった。

「なんか、あるのかい?」

「実は、問題が一つ、ありまして……」

 凛が言いかけた時、外から女性の声が聞こえてきた。

「お待ちになって、太刀音さま~。私と一緒に、任侠道を究めましょ~」

「む、無理です! 私には、道場がありますので~」

 声の主は太刀音とお京であった。お京が太刀音を追いかけ、太刀音は振り切ろうと走って逃げている。

「それなら、せめて内縁の関係になりましょ~」

「そ、そっちも無理です~」

 二人組はそのまま、お梅婆さんの家の前を走り過ぎていった。

「……なんだい、ありゃ?」

「どうもお京さんが太刀音さんに特別な感情を持っちゃったみたいで、追いかけ回してるんですよ……」

 凛が困ったように言うと、

「任侠道は女の道らしいですよ?」

ひさ子が付け加える。

「……まあ、惚れたはれたは、人それぞれだからね」

 お梅婆さんは適当な言葉でその場を締めると、煙管を手に取り一服を始めるのだった。

そして、藤兵衛はというと、

(あ…… 太鼓、原っぱに忘れてきた)

と、どうでもいい事を思い出すのだった。

 それから暫くの間、太刀音はお京に追いかけ回され、江戸の町で噂の的になったのだそうな。

~女任侠伝・完~ 次話へとつづく


↓この話の第一話です。


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