「ネタがない」は本当か?外部に依存しない価値ある「一次情報」の作り方
「ネタが本当に、ない……」
メディアに関わったことがあるライターや編集者なら、誰もが一度はプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、「ネタがない」壁にぶち当たったことがあるはずです。
地方創生やまちづくりに関わる発信者にとっても、これは共通の悩みでしょう。
小さな田舎町は「ネタ」が少ない?
特に、地方の小さな町における日常は基本的には平凡で、事件の少ない穏やかな日々が当たり前です。 毎年繰り返される恒例行事やおなじみの伝統文化は、発信のマンネリ化につながる可能性も。 大都市とは違い、新しいお店のオープンや閉店も、そう頻繁に起こるわけではありません。
でも、地域メディアが発信する話題の多くは、「新しいお店」や「楽しそうなイベント」などが一般的です。
そういった分かりやすい、いわゆる「エンタメ性の高いニュース」が少ない田舎町では、メディアの灯は徐々に消えてしまうしかないのでしょうか。
そんなことは、絶対にありません。
分かりやすいニュースがなくても、有意義な「一次情報」さえあれば、記事にする価値はいくらでも生まれます。そして、その「一次情報」は、編集者でもある発信者の手で自ら作り出すことができるのです。
一次情報は「探す」「集める」ネタに、限りません。
私たちが運営するウェブメディア『大字基山』も、人口1.7万人の佐賀県基山町を拠点に、これまで数多くの一次情報を生み出してきました。
例えば、あの未曾有の「コロナ禍」を地域メディアとしてどう生き抜き、どんなコンテンツを生み出していったのか。
地域から「ネタ」が姿を消した当時を振り返りながら、外部の環境に依存しない「ネタ=一次情報の作り方」のヒントを提示していきます。
コロナ禍という「極限の日常」が教えてくれたこと
多くのローカルメディアにとって、近年最大のピンチは「コロナ禍」だったと思います。
当たり前だった多くの生活活動がストップし、特に人が集まるリアルイベントはすべて中止。
外食の自粛によって、飲食店はお客さんを迎えることすらできなくなりました。ローカルの定番ネタだった「イベント」と「新店・グルメ」が、一瞬にしてこの世から消え去ったのです。
2020年4月、私たちも、対面取材は極力自粛する決断を発表しました。
文字通り「定番ネタがゼロ」になった、極限状態。
でも編集長として、私は諦めませんでした。むしろ今こそ地域のあるがままを共有し、記録しようと考えました。
「みんな、本当は『みんなどうしているのか』を知りたい」
ネタがなくなり交流が途絶えた世界の生活者は皆、「実際問題、みんなどうやって暮らしているの?」という、リアルな地域の実態を知りたがっている。私自身が、そういう不安を感じていました。
この気づきこそが、一次情報を作り出す出発点になりました。
イベントがないなら、今、この町で起きている「困りごと」を徹底的に調査すればいい。 お店が開いていないなら、店主たちの「生のリアルな声」をコンテンツにすればいい。
それがローカルメディアにしかできない、「一次情報の発掘」でした。
コロナ禍の『大字基山』独自のコンテンツ例
イベントの中止情報、公共施設の休館情報などをまとめ始めました。
読者を対象に、コロナ禍での暮らしをテーマにさまざまなオンラインアンケートを実施、結果を公表しました。
これらの多くは、どこかのプレスリリースに書かれた情報でもなければ、誰かがお膳立てしてくれたニュースでもありません。
社会がストップし、誰もが「みんなどうしているんだろう」と不安に震えていたとき、私たちが懸命に生活者の声を拾い集めたからこそ生まれた「一次情報」です。
コロナ禍の期間中は、通常より記事数こそ半減しましたが、更新がストップすることはありませんでした。
外部に依存しない「一次情報」の作り方
イベントや新店舗の開店といった「他人が作ったニュース」に依存していると、メディアの命運は外部の環境に左右されてしまいます。しかし、自分たちで一次情報を作り出す思考ができれば、ネタ切れという概念そのものが消え去ります。
分かりやすいコロナ禍での『大字基山』の事例を挙げましたが、以下の3つの視点があれば、どのメディア・発信者でも「価値ある一次情報を作れる」ようになります。
① 「困りごと」を徹底調査する
日常のなかにある「不便」「不安」「不満」に目を向けます。
地域メディアなら「冬の水道管の凍結対策、みんなの家ではどうしてる?」「地域のゴミ分別の、ここが分かりにくいんだけど実際どう分けてる?」といった生活に密着した小さな疑問をテーマに設定し、動いて調べる。具体的に、やってみる。
それだけで、立派な調査報道(一次情報)になります。
② 「声」をコンテンツ化する
関係者の主観や体験談を集める、インタビュー的アプローチです。
例えば「移住して3年経った人に聞く、この町の本当の住み心地」「定年退職後に地域のボランティアを始めた人のリアルな日常」。一人ひとりのストーリーを丁寧に編み込むことで、共感を呼ぶ世界に一つしかないドキュメンタリーが完成します。
③ 「みんなどうしてる?」を可視化する
口コミのなかに埋もれている暗黙知を、インターネットの表舞台に引っ張り出してくる「アンケート調査」。地域にとっての「当たり前」が、極めて新鮮なコンテンツへと生まれ変わります。
発信者がコンセプトや目的に基づいて視点で生み出した「一次情報」は、「独自情報」でもあります。価値ある独自情報は、ニュース性が強く、驚きを持って受け取られるもの。ただし、他社と同じ内容では意味がありません。
だからマスメディアは、速報・スクープを狙います。他社に先んじて、独自の一次情報を編集して見せることに価値があるからです。
終わりに:一次情報は、現場への「眼差し」から生まれる
発信者による、「ネタがない」という嘆き。
裏を返せば、分かりやすいエンタメニュースの基準でしか世の中や対象を見ていないという、編集者としての怠慢かもしれません。
ローカルメディアにとっての平凡な日常、事件の少ない穏やかな日々は、それ自体が実はその町が健全であるという最高の証拠です。
その穏やかな表層の文字通り「下」にある、生活者のリアルな営みや、小さな工夫、静かな知恵。そこに焦点を合わせたとき、検索ニーズに応える有意義な一次情報は無限に湧き出てきます。
メディアの役割は、派手なニュースを追いかけることだけではありません。 ローカルメディアならば、誰も言葉にしてこなかった「みんなどうしているのか」をすくい上げ、地域の共有財産にしていくことが、自らのアイデンティティにつながります。
「ネタがない」と嘆いている発信者の皆さんへ。
今こそ、あなたの目の前にある当たり前の日常を、もう一度深い眼差しで見つめ直してみてください。
世の中に求められている一次情報は、いつでも、すぐそばにある。
あなたの手で作り出すことだって、できるのですから。
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