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【企画・編集】浸透率95%の地域メディアが実践する、ファクト×感性で自分ごと化する「伝わる文脈」の作り方

はじめに:あなたの「一生懸命」は、なぜスルーされるのか

広報や情報発信のために毎日、必死に「伝えたい」言葉を書く、あなた。

SNSを更新し、ブログを書き、社内報や広報誌を作る。
構成を練り、原稿を書き、写真を撮り、深夜まで推敲を重ねる。
それなのに反応は数件の「いいね」だけ。アナリティクスを覗けば、滞在時間は数秒。

「これだけ頑張っているのに、なぜ届かないんだろう」

その虚しさは、あなたの才能のせいでも、知名度のせいでもありません。
理由はもっと現実的で、かつシンプルな可能性があります。

本記事は、佐賀県にある人口およそ1.7万人の町で、計算上は住民のほぼ全員(人口浸透率95%)が読むローカルウェブメディアを9年運営してきた経験則から見出した「情報を届ける作法」をまとめたものです。

そもそも田舎町の情報は、地味だし、世間が驚くビッグニュースはほとんどありません。だから、きらびやかな「バズる世界」とは無縁です。
でも、読者である町民のみならず、地域の無関心層や関係人口にまで「届いている」手応えと実績があります。事実、私たちが「伝わる文脈」に整えて発信したローカル記事は、時に想定を上回る反響を生み、行政やマスメディアの発信内容にさえ影響することがあります。

これからお伝えするのは、発信側が用意すべき「事実(ファクト)」と、受け手のニーズを捉える「感性」を掛け合わせ、情報を相手の人生の「自分ごと」へと変える「文脈作り」のロジック
これは、あらゆる情報発信の前段階である「企画」と「編集」の考え方です。

まずは、「発信者のエゴ」に気づくことから、始めましょう。

第1章:情報が届かない理由

1.1 情報発信という究極の「エゴ」に気づこう

広報やライターとして「これを知ってほしい」「これがお勧めだ」と思うとき、そこには純粋な善意があるはずです。誰でも、情報を届けたい相手には自分が良いと思うメリットを伝えて、おすすめポイントをこれでもかと語りたいものです。ついつい、饒舌になってしまうことでしょう。

でも受け手にとって、その善意は時として「どうでも良いこと」であり、「ノイズ」にでさえなりえます。

情報を伝えたい欲が強い私たちは、相手が求めていないタイミングで、相手の思考や時間を強制的に奪う行為をしていないでしょうか。
「知ってほしい」という気持ちの根底には、「自分たちの価値観を認めてほしい」という承認欲求が隠れていないでしょうか。

多くの人は、他者に無関心です。
その無関心かもしれない相手に「知ってほしい」と求める行為は、究極の自己中心性(エゴ)だと、発信者である私たちは立ち止まるべきです。

このエゴが1ミリでも混じった瞬間、文章には「おもねり」や「押し付け」というノイズが混じり、読者は本能的に警戒します。
読むのをやめたり、時には警戒心から聞く耳をシャットダウンしてしまいます。

1.2 広報や発信が空回りする原因

内製した企業の広報や地域のプロモーション施策がしばしば失敗するのは、自身を「客観視」できないからです。

身内の功績、開発の苦労話、新商品のスペック。
地域のおすすめスポット、個性的な住民、地域の名産品や歴史。
これらは「中の人」にとっては宝物ですが、無関係な「外の人」にとっては背景も脈絡もない断片に過ぎません。

実際に、あなたは他社や他地域のニュースや話題を、毎日のように喜んで摂取する生活を送っているでしょうか?
むしろ、朝から晩まで氾濫する情報に疲れ果ててはいないでしょうか。

情報を届けたい相手も、同じです。

このように、エゴは視界を曇らせます。
伝えたい情報に思い入れが強すぎるあまり、自分と同じ「人」である情報の受け取り手の生活が、見えなくなっているのです。

第2章:広報(PR)の再定義

2.1 広報の本質は「広聴」にある

日本では宣伝と混同されがちなPR(パブリック・リレーションズ)は、本来、組織と社会との良好な関係構築のことです。私自身は、「一人(私)」と「その他大勢」を結ぶコミュニケーション設計と、その実働と考えています。
この関係は双方向のものであり、一方的なスピーチではありません。

伝えたい情報を確実に届けるためにまずやるべきことは、キーボードを叩く前に、情報の受け取り手であってほしい人たちの声に耳を澄ますことです。

どうしたら自然に受け取ってもらえるのか、相手を思いやること。
これが、パブリック・リレーションズにおける「広聴(こうちょう)」です。

2.2 無関心層のニーズを捉える「感性」を磨こう

一方的な情報発信が「エゴ」だと気づいた時、私たちは相手の暮らしや関心に寄り添う、「感性」を持つべきです。
ここで言う「感性」とは、詩的な表現力のことではありません。情報発信者として「相手が言葉にしていないニーズを高い解像度で察知する力」のことです。
マーケティングの基本であるペルソナ設定は、届けたい相手に合わせて発信方法や文脈を変えるために必要な、「解像度の高い想定ターゲット」を決めること。ブレストや想像力で補われることが、多いと思います。

私が提案したいのは、ペルソナ設定の、その先です。
あなたが情報を伝えたい関心層や潜在顧客層だけでなく、そもそもあなたの発信に1ミリも興味がない「無関心層」の生活も徹底的に想像し、調べ、できることなら直接ヒアリングすることです。

この無関心層へのヒアリングは、何も大袈裟なことではなく、身近なところですぐにできます。

  • 家族や友人、サークル仲間との「プライベートな対話」

  • 社内メンバーや取引先との「雑談」

  • 利用するお店での「その場限りの会話」

  • 自分自身が「一人の生活者」に戻ったときに感じる不便さ、あるいは無関心

日常生活の延長にある、「おしゃべり」で十分です。口下手な人も、怯える必要はありません。普段あまりしゃべらない人の「これについてどう思う?」という問いかけほど、相手は親身になって聞いてくれることでしょう。

自分自身との問答も、有効です。
無関心な領域に対して、なぜ?どうして?どうすれば興味が湧く?と思考実験を繰り返すこと。
私はいつも「無関心な自分」に自覚的でいるようにしています。

これらを拾い上げ、無関心層さえ立体感のある人物像として理解するまでに至ったあなたの感性が、これから組み立てていく文脈作りの土台になります。

第3章:情報が「自分ごと」になる文脈設計

3.1 相手の人生を分析する「生活環境のSWOT」

さて、多くの人は、あなたの届けたい情報に"まだ"無関心です。

だから、発信者が探るべきは情報を届けたい相手の「ニーズ」であり、まだ顕在化していない「リアルな困りごと」です。人は意識していなかった自身の困りごとに初めて「解決策」が登場した時、それを「ニュース」と受け入れて一気に関心度が高まるのです。

そこで、ビジネスの世界で使われるSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)を、届けたい相手の「生活環境」に当てはめてみましょう。

  • 強み・弱み:その人の現在の状況(子育て中、独身、多忙、老後など)

  • 機会・脅威:その人を取り巻く社会情勢や環境(移住や転職、物価高、地域のイベントなど)

あなたの発信は、その人の「弱み」を補い、「脅威」から守り、「強み」を伸ばし、「機会」を最大化できる提案になっていますか?

第三者から見れば単なる「お知らせ」を、誰かの「課題解決のソリューション」に変換する。
これが「伝わる文脈」作りの核となる思考です。
この4つの視点に基づいて、あなたが伝えたい情報を盛り込みながら、届けたい相手に最適な文脈を作るのです。

3.2 事実(ファクト)に勝るクリエイティブはない

ある情報を誰かにとっての価値あるソリューションに生まれ変わらせるのは、奇抜なキャッチコピーや凝ったデザインでもありません。

もっとも読み手を説得し、安心させるのは「具体的で誠実な事実(ファクト)」です。

例えば「この公園はさまざまな遊具があって自然豊か」と書くのではなく、「この公園は年齢層に合わせた大小の遊具があって、多目的トイレにはおむつ替えシートがあり、12時以降はベンチに木陰ができて涼しい」と書く。
ニーズに合わせたファクトを追加することで、子育て世代には身近な自分ごととしてインプットされますし、憩いの場所を探している地域住民やサラリーマンには、生活の知恵としてストックされやすくなります。

商品、サービス、地域の魅力。
どれも、この公園の例と同じです。

「伝えたい情報」を「伝わる情報」にするために、相手の暮らしにフィットするファクトを違和感なく文脈に追加するという、同じことをするだけです。

読み手に刺さるだろうテーマを決め、起承転結の文脈を作り、最適なファクトを盛り込むこと、

伝わる文脈とその構成要素を決めることが、情報の受け取り手の立場に立って「企画化する」ということです。

3.3 ファクトは自分で一から作ることもできる

事実をニーズに合わせて追記していく文脈設計以前に、「創造」が行われる場合もあります。

届けたい相手にフィットする「文脈」を試行錯誤するうちに、時には「この事実(ファクト)さえあれば……」と思う事態が発生します。企画段階の会議では、ベストプランのために必要な情報案があれやこれやと、アイデアが湧いてくるものです。
そしてそれら事実が探してもなかなか出てこない、あるいは探しても世の中にまだ存在しない場合だってありえます。

  • 第三者によるリサーチ結果

  • 研究結果

  • 専門家によるコメント

  • 関係する人物、ユーザー

  • 場所の写真や様子

  • 商品

  • 関連サービス   etc.

見つからないなら、諦めますか?
いいえ、本気の情報発信者なら、できることがあります。

  • リサーチ会社に依頼する

  • リサーチ系AIに課金する

  • アンケート調査を実施する

  • 図書館に行く、専門書を取り寄せる

  • 現地や人を取材する

  • 新たに商品を作る

  • 新たにサービスを作る

  • 研究機関に依頼する   etc.

そこまでは無理……という難易度の高い解決策もありますが、予算のある大手企業なら、どれもマーケティングのため当たり前に取り組んでいることばかり。

必要な事実がまだないなら、自分で作り出せる方法を考えましょう。
特にリサーチや取材は個人でもやろうと思えばできるし、プロに依頼するハードルも低い項目です。
そして新たな事実を発見しましょう。取材現場にでしか発掘できないファクト、すなわち「一次情報」は、ニュースの卵にもなりえます。

私たちがローカルメディアとしてある幼稚園を取材した際に、その敷地面積が西日本随一の広さと分かりました。その広さを一般に伝わりやすい基準で算出してみると、「東京ドーム2個分」だと発覚したことがあります。
関係者でさえ知らなかったこのニュースは地元民に驚きを持って受け入れられ、その数年後にテレビ番組で「みずほPayPayドーム福岡」に変換されて、報道されることになりました。

徹底的な観察眼の取材とリサーチによって、読者を助ける「事実」を発掘し、時にはアンケート調査を実施して「共通意識」を見える化する。

最適な文脈作り(企画力)と、取材活動やアンケート実施による「一次情報の発掘」の積み重ねが、私たちが運営するローカルウェブメディアの「人口浸透率95%」という数字の根底にあります。

第4章:エゴを削ぎ落とす「編集」の作法

4.1 読者に「押し付け」ない勇気

文脈が決まって、いよいよライティングや編集の段階に入ります。その時、より自然に相手に「伝わる情報」を目指すなら、「3ない運動」をおすすめします。

  1. 勧めない:良いファクトを提示すれば、読者は自分で選びます。

  2. 誘わない:価値が伝われば、人は勝手に集まります。

  3. おもねらない:読者に媚びず、フラットな立場で事実を伝えます。

これらはすべて、書き手のエゴ(=何とかして読者を動かしたいという欲)を制御するための処置。ついつい、私たちは「押し付け」がちです。

ぜひ、上記3点を意識してみてください。

読み手に寄り添う「事実」に基づいた情報発信ができているなら、情報が届いた後の「行動」は読み手それぞれの判断に委ねるべきなのです。
人の購買欲を刺激するセールスライティングも、同じく書き手のエゴの抑制を提唱していると思いますが、目指している文脈とゴールは全く違います。

4.2 読者を信頼し、疲れさせないために

現代の読者は、日々の膨大な情報に「疲れ」を感じています。
長い文章、過度な装飾、回りくどい言い回し。これらはすべて読み手への負担です。
「短く、端的に、誠実に」。
相手の生活リソースを奪わないという「感性」を持って、エゴを削ぎ落としたファクトだけを配置する。その余白こそが、読み手が自分の意思で動くための「隙間」になります。

読み手を信頼して、読んだ後の思考や行動は、任せる。これは、文章やコンテンツを介して生まれる、大切な非言語的コミュニケーションです。
長く続く書き手と読み手の信頼関係は、このように見えない形で少しずつ積み上がるものだと思います。

理想は、情報源として生活者である読み手のそばに寄り添い、佇むような、書き手のスタンスです。

4.3 第三者視点を身につける工夫

なぜ自社発信よりも、メディアやインフルエンサーの言葉がユーザーに届くのか?それは彼らがユーザーと同じ視点に立ち、情報を解釈できるからです。

自分で発信するときも、この「第三者視点」をインストールしたいもの。
自身を客観視し、読者の代理人として「このファクトは本当に役立つか?」を厳しく問い直すのです。この時、余計なしがらみは不要です。

この第三者視点での発信は、自己PRと真逆の考え方なので、誰もが苦戦して当たり前です。だから、大手企業などでは信頼できるプロフェッショナルにコンサルを依頼する、任せるといった選択肢が発生するわけです。

誰でも今すぐできる対策は、一晩どころか、二晩や数日、発信内容を「寝かせる」こと。文脈を作り上げたばかりの火照った脳みそを覚まして、「第三者」として読み返すのです。
相談できる仲間がいるなら、共有して、何度もブラッシュアップを図りましょう。

現在のAIでは、第三者「らしき」視点を提示することはできるでしょうが、血肉の通った人間の複雑な感性や思考力にはまだ、及びません。
文脈と情報をどのように受け止めるのかは、実際の読み手である人間の判断次第です。

第5章:コミュニティを目指さない勇気

5.1 「インフラ」としてのメディアを目指す

あなたが発信するホームページやSNSを今すぐ、「ファンコミュニティ(身内の集まり)」にしようと焦る必要はありません。

目指すべきは、誰にとっても必要な「インフラ」のような情報発信です。 水道を使うのに誰かと仲良くなる必要がないように、あなたの発信も「気が向いた時に使われ、用が済めば離れる」ような、出入り自由な距離感でいい。 エゴを排し、フラットな事実を届ける「文脈作り」を突き詰めた先にあるのが、生活インフラのような快適で心地よい信頼関係です。

「出入り自由・予約不要・コミュニケーションの強制なし」という設計が、実は最も現代の多様性を尊重する形です。そして現代のインターネット空間なら、実現可能です。

最初からオウンドメディアを始めることが目的なら、ローカルメディアのように、ワンテーマを突き詰めた「伝わる文脈」に基づいた発信を続けること。そうすると自然発生的に「情報」を介した目に見えないコミュニティが生まれ、本格的なファンコミュニティを作りやすい土壌が整います。

5.2 受け手の多様性を尊重する

「自分たちの色に染まってほしい」というエゴを捨て、受け手の自由を尊重する。
この距離感こそが、パブリック・リレーションズにおける双方向の深い信頼を生みます。信頼関係あってこその、ファン化です。

エゴを押し付けず、多様な生活者を受け入れる「器」としてのコミュニケーション設計。それが「伝わる文脈」作りのゴールです。

おわりに:情報は、誰のものか

「なぜ、この情報は届かないのか?」
その答えは、あなたが情報をいつまでも「自分のもの」だと思っているからです。

一度でも情報を世に放てば、それはもうあなたの手元を離れ、受け手の生活の一部になります。

私たちが実践してきた「伝わる文脈」作りは、自分の手を離れた情報が、誰かの暮らしを少しだけ便利にしたり、少しだけ明るくしたりするための「準備」です。
必要だろう事実(ファクト)を揃え、感性を研ぎ澄ませて相手のニーズを捉え、エゴを削ぎ落として、そっと差し出す。

そのプロセスは、決して華やかなものではありません。分かりやすい反響も、すぐには届きません。
根気強く取り組むその先に、あなたの言葉が誰かの「自分ごと」として、優しく、そして確実に届く瞬間が訪れます。



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