【第2章 第4話】距離を置く~触れられたのに、届かない想い~
【はじめに】
この物語は、第2章 第3話「彼の様子がおかしい夜」の続きです。
▼第3話はこちら
【この話について】
「家、くる?」を断られた翌日から。
連絡が、途絶える。
既読が、つかない。
会えない日々。
「少し、距離を置きたい」
その言葉が、二人の世界を変えていく。
同じ想いを抱きながら、離れていく二人。
翌日の朝
目が覚めた。
でも、起き上がれない。体が、鉛のように重い。
昨日のことが、頭から離れない。
彼の様子がおかしかった夜。
髪を撫でる手が震えていた。
「家、くる?」と聞かれて、答えられなかった。
「ごめん」しか言えなかった。
スマホを手に取る。画面を見る。
通知は、ない。彼からの連絡は、ない。
いつもなら「おはよう」って来る。毎朝、彼から。
でも今日は、ない。
連絡、したい。
でも、何て言えばいいのかわからない。
2日目
今日も、連絡が来ない。
いつもなら、朝に「おはよう」って来る。
お昼に「お疲れ様」って来る。
夜に「今日はどうだった?」って来る。
それが、ない。
スマホを握りしめる。
LINEを開いて送ろうとして、やめる。
何度も。
なんでこんなに意気地がないんだろう。
情けない。
いつだってそうだ。
彼からの愛情に甘えてばかりだったから、
結果彼を苦しめてしまった。
わかってる。でも、怖い。
返事が来なかったら。
既読無視されたら。
もう、終わりだって言われたら。
3日目
一人で、カフェに行った。
彼と来た、あのカフェ。
店員さんが、声をかけてきた。
「あれ、お一人ですか?」
「はい」
「彼氏さんは?」
答えられない。喉が、詰まる。
「今日は、一人で」
ようやく、声が出る。
店員さんが、心配そうな顔をする。
でも、何も聞かない。
一人で飲むコーヒー。苦い。
こんなに苦かったっけ。
彼と飲んだ時は、もっと美味しかった。
カップを見つめる。
彼が座っていた席を見る。空っぽだ。
涙が、溢れそうになる。
でも、ここで泣いたら止まらなくなる。
4日目
職場の友人に、心配された。
「大丈夫?なんか元気ないよ」
「大丈夫」
嘘だ。全然、大丈夫じゃない。
「彼氏と、喧嘩でもした?」
喧嘩、じゃない。もっと、悪いことをした。
「ちょっと、すれ違ってて」
「そっか。でも、すぐ仲直りできるよ」
友人は、笑顔で言う。
でも、わからない。
仲直りできるのか。
もう、会えないんじゃないか。
スマホを見る。また、何も来ていない。
5日目の夜
スマホが震えた。
心臓が、跳ねる。
彼からだ。
手が震える。開けない。怖い。
深呼吸する。開く。
『話したいことがある』
それだけ。
胸が、苦しい。
『話したいこと』って、何。
別れ話?もう会いたくないって?
『うん』
送信する。
すぐに、返信が来る。
『明日、時間ある?』
ある。いつでも、ある。
『ある』
『じゃあ、昼に。いつもの場所で』
いつもの場所。公園のベンチ。
『わかった』
返信を送って、スマホを握りしめる。
明日。明日、何を言われるんだろう。
今夜も眠れそうにない。
6日目:昼
公園のベンチ。
彼が、先に来ていた。
「ごめん、呼び出して」
彼が、立ち上がる。
「ううん」
座る。少し、距離がある。
いつもなら、もっと近くに座るのに。
沈黙が続いた。
彼が、口を開く。
「あのさ」
心臓が、痛い。
「少し、距離を置きたい」
頭が、真っ白になる。
「え」
「ごめん」
彼の声が、遠い。
「俺、君のこと好きだけど」
「でも、辛くて」
辛い?
「触れられない。それ以上、進めない」
「君のペースでいいって思ってたけど」
「無理だった」
彼の声が、震えている。
「だから、少し、離れたい」
「どれくらい」
ようやく、声が出る。
「わからない」
わからない?
つまり、もう終わりってこと?
「別れるの?」
聞く。声が、震える。
「わからない」
また、わからない。
「俺も、整理したい」
「君も、考えてほしい」
考えるって。
ああ、だめだ。頭が働かない。
「ごめん」
彼が、立ち上がる。
「これ以上いたら、撤回しちゃうから」
そのまま、歩いていく。
振り返らない。
私は、動けない。
ベンチに座ったまま、彼の背中が見えなくなっても。
ずっと。
その夜
部屋に帰って、彼の言葉を思い出す。
距離を置く。
つまり、もう会えない。
いつまでかわからないなら。
もう連絡も来ない。
私のせいだ。
いつまでも怖がって、逃げて。
サイテーだ。
彼を、傷つけた。
でも。
会いたい。
声が、聞きたい。
触れてほしい。
もう、怖くない。
怖がってる場合じゃない。失いたくない。
でも、遅い。
ごめん。ごめんなさい。
1週間後
日常は、続く。
仕事に行く。
でも、心は空っぽ。
友人に「元気になったね」と言われる。
嘘だ。元気じゃない。ただ、慣れただけ。
夜一人になるとどうしても考えてしまうから、
お酒を飲んでやり過ごす。
そんなに強いわけじゃないのに。
全然、酔えない。
会いたい。
どれだけ気を紛らわそうとしても。
結局はこれ。
どんなに想っても、もう届かないのに。
すれ違い
会社帰り、駅前を歩いていた。
人混みの中を、ぼんやりと。
ふと、背中に視線を感じた気がした。
振り返りそうになる。
でも、やめる。きっと、気のせいだ。
彼がいるわけがない。
こんな場所に。こんな時間に。
でも。
何か、感じる。
言葉では言い表せないけど。
足を止める。振り返る。
人混み。たくさんの人。
でも、彼の姿は、ない。
当たり前だよね、気のせいだ。
そう思って、また歩き出す。
2週間後
桜並木の前を通った。
「また桜を見よう」
彼と、約束した場所。
入れない。怖い。
もし、彼がいたら。でも、いなかったら。
どっちも、辛い。
そのまま、通り過ぎる。
家に帰る。また、一人。
スマホを見る。彼からの連絡は、ない。
LINEを開く。メッセージを打つ。
『会いたい』
送信ボタンに、指を置く。
でも、押せない。
消す。
会いたい。
ただ、それだけなのに。
伝えられない。
このまま、終わるのかな。
彼のいない世界で、生きていくのかな。
想像できない。
でも、これが現実。
触れられないことで、彼を傷つけた。
距離を置かれて、初めて気づく。
失いたくない。
でも、もう遅い。
彼は、どうしているんだろう。
何を考えているんだろう。
私のこと、もう忘れたんだろうか。
会いたい。
謝りたい。
もう一度、やり直したい。
【第4話・完】
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
あの時の私は、
触れられない自分が悪い。
普通じゃない自分が悪い。
そう思いながら、自分を責めながら生きていまた。
でも距離を置いたことで、
改めて見えたものもあって。
彼の大切さ。
彼がどれだけ私を想ってくれていたのか。
自分を見つめ直すきっかけになりました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次回予告:愛しさが募る冬
距離を置いてから、季節は冬へ。
弟に、本音を打ち明ける。
「本当は、怖くないんじゃない?」
彼は、時々桜並木を訪れる。
「また桜を見よう」
約束した場所に。
クリスマス。
年末年始。
雪の降る日。
二人とも、一人だった。
でも、心は同じ。
「会いたい」
そして、春が来る。
桜が咲く。
あの日の約束。
もう一度、叶えられるのだろうか。
触れられない恋に悩む人へ。
このnoteが、あなたの心に信じる勇気を灯せたら嬉しいです。
