第3話:彼が他の女性と笑っているのを見て、嫉妬した~触れられない私が、愛を知るまで


 第2話を読む↓



嫉妬した。


醜くて、卑怯で、

自分でも信じられないくらい、

醜い感情だった。


でも、止められなかった。




仕事帰り、繁華街を歩いていた。

久しぶりに弟から連絡があって、一緒に食事を

しようと誘われた。

正直食欲もないし、断ろうかとも思ったけど

家にひとりでいたくなくて。


人混みの中を歩く。

それだけで少し気が紛れたような気がする。


誰かの笑い声。

カップルの話し声。

街の喧騒。


でも、地に足がついてないような、私は。


いったいどこにいるんだろう。




ふと、彼の声が聞こえた。


最初は、聞き間違いかと思った。


でも、もう一度聞こえた。


間違えるわけない。

あの、優しい声。




振り向いた。


彼がいた。


女性と一緒に、笑っていた。


心臓が、止まった。

周りの音も聞こえない。

何も。


「っ…」


息ができなくなった。



嫉妬。

後悔。

彼を失った悲しみ。

自分への怒り。

もう取り戻せないという絶望。

自分には資格がないという罪悪感。


いろんな感情が、

一気に押し寄せてきた。


吐き気がした。




近くの建物の陰に逃げ込んで、

しゃがみこんだ。


彼からは見えない場所。


呼吸が、うまくできない。

手が震える。


涙が、溢れてきた。


あの夜、出なかった涙が。


私が悪いのに。

私が傷つけたのに。

私が、彼を手放したのに。


それなのに、嫉妬してる。


    醜い。

    卑怯だ。

    最低だ。





彼には、幸せになる権利がある。


私みたいな、

触れることもできない女じゃなくて。


ちゃんと愛せる人と、

一緒にいる権利が。


頭では、わかってる。


でも、心が、痛い。


苦しくて、哀しくて、悔しくて。




なんとか弟との待ち合わせ場所に、着いた。


でも、駅前で彼を見てしまってから、

足が震えて、うまく歩けない。


建物の壁に寄りかかって、しゃがみこんだ。


呼吸が、うまくできない。

涙が、止まらない。




「姉ちゃん」


弟の声がした。


顔を上げると、弟が心配そうな顔で立っていた。


「どうしたんだよ?」


弟は、すぐに私の横にしゃがみこんで、

何も聞かず、ただ抱き寄せてくれた。





他人に触れられると、体が硬直する。

息ができなくなる。


数年前、家から出られなくなった頃から、

ずっとそうだった。


外の世界が怖くて。

人の視線が怖くて。

特に、男性が。


やっと外に出られるようになっても、

誰かに触れられることだけは、克服できなかった。




でも、弟は違う。


子どもの頃から、ずっと私を守ってくれた弟。

私とは正反対で、明るくて友達も多いのに

いつも私を優先してくれた。


家から出られなくなった時も、

「大丈夫だよ」と言って、そばにいてくれた弟。


唯一、触れられても怖くない存在。





私は、弟の腕の中で泣いた。


声を殺して。

誰にも聞かれないように。


30分くらい、そうしていたと思う。




「彼氏のこと?」


弟が、ぽつりと聞いた。


私は頷いた。


「好きなんだ」


「...うん」


「でも、怖いんだ」


「うん」


弟は、私の頭を撫でた。


「焦らなくていいよ。姉ちゃんのペースで」


優しい声。


彼と、同じ言葉。


また、涙が溢れた。


私は何も説明できなかった。


どう説明すればいいのか、

わからなかったから。


弟は、それでも何も聞かなかった。


ただ、そばにいてくれた。





少し落ち着いて、顔を上げた。


「ありがとう」


「いつでも言って」


弟は、優しく笑った。


「姉ちゃんは、姉ちゃんのままでいいんだよ」


その言葉が、胸に染みた。





私は、立ち上がった。


「もう大丈夫」


そう言って、笑ってみせた。


弟は、少し心配そうな顔をしたけど、

何も言わなかった。


「ごめん、今日は帰るね」


「ひとりで大丈夫?」


「うん」


手を振って、別れた。




家に帰る道。


また、彼のことを考えた。


彼は、幸せそうだった。


女性と、笑っていた。


良かった。


そう思おうとしたのに。


心が、痛かった。


                第3話・完


あとがき


嫉妬することに、

資格なんてあるんだろうか。


傷つけた私に、

嫉妬する権利なんて、

あるんだろうか。


でも、止められなかった。


まだ、好きだったから。


今でも。


そして、これからも。




その時、私は気づかなかった。


彼が、その光景を見ていたことに。


弟のことを知らない彼が。


私が、男性に抱かれて泣いているのを、

見ていたことに。





【この物語を最初から読む】

第1話「好きなのに、触れられない。彼を傷つけた夜の話」



【次回予告】

第4話「『会いたい』その連絡は、別れ話だと思った」【最終話】


翌日、彼から連絡が来た。


「会いたい」


別れ話だと思った。

でも、会わなきゃいけない。




触れられない恋に悩む人へ。

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