なぜ「スキマバイト」はインフラになれたのか?元タイミーCMO中川氏が語るグロースと顧客理解の極意
こんにちは。合同会社マルセロ 代表の駒瀬です。経営者、事業責任者に対する事業及びマーケティングの伴走コンサルティング、壁打ち、月額制顧問等のサービスを提供しています。
今や街中でそのロゴを見ない日はないほど、私たちの生活に浸透したタイミー。しかし、その急成長の裏側には、コロナ禍での絶体絶命の危機や、徹底したドミナント戦略、そして会議室を飛び出した泥臭い顧客理解がありました。
ポッドキャスト「グロースの裏側」にゲスト出演した元タイミーCMO・中川祥一氏(現・株式会社CMO 1号代表)の言葉から、スタートアップが勝つためのエッセンスを詳しく紐解きます。
1. 崖っぷちの入社:コロナ禍でのサバイバルと発見
中川氏がタイミーに入社したのは2020年3月。その直後、日本は初の緊急事態宣言に見舞われました。当時、タイミーのメイン顧客は渋谷の飲食店でしたが、店が閉まったことで売上は日に日に急落していきました。
「マーケティングをしている場合ではない」という極限状態の中、中川氏とチームはサバイバルをかけた試行錯誤を始めます。
データからの気付き: 飲食店が止まる一方で、物流倉庫での利用が伸びていることに気付きます。EC需要の爆発により、梱包やピッキングの現場で人手が猛烈に不足していたのです
桁が違う需要: 飲食店が1人を呼ぶ世界に対し、物流倉庫は一度に100人を求めるニーズがありました。このターゲットのシフトが、タイミーを危機から救い、爆発的な成長へと繋げる大きな転換点となりました
2. カテゴリー戦略:「隙間バイト」という言葉の魔法
現在では当たり前のように使われている「隙間(スキマ)バイト」という言葉。これは、テレビCMを展開するにあたり、タイミーが何者であるかを一瞬で伝えるために戦略的に開発された言葉です
PL的なテレビCM運用: 多くの企業がテレビCMを認知目的で打ちますが、当時のタイミーはCPI(インストール単価)や売上に直結させるPL的な思考で投資を行っていました
短期の成果が長期の資産になる: 「今すぐ動く」ことを徹底して追及した結果、検索量が増え、ブランドが浸透し、最終的には「隙間バイトといえばタイミー」という強力なブランド資産へと昇華していきました
3. ドミナント戦略:あえて全国を狙わない勇気
スタートアップは「人・物・金」というリソースが限られています。中川氏は、47都道府県に薄く予算を投下するのではなく、「商圏を絞る」という意思決定を行いました。
ネットワーク効果の最大化: マッチングアプリにおいて、ワーカーと企業が一定の密度で存在しなければ、サービスは成立しません。特定の注力エリアを決め、そこで物流倉庫(大きな募集)とワーカーを集中させることで、マッチング率を劇的に高めました
先行優位の確立: 一度マッチングが回る商圏が出来上がれば、後発の競合が参入しても「タイミーの方が仕事がある」という状態になり、強力な参入障壁となります
4. 顧客理解の極意:会議室から出て「1円の重み」を知る
中川氏のマーケティングの前提は、誰よりも深い顧客理解にあります。「顧客理解が足りないと、施策は必ず空ぶる」という実体験に基づき、タイミーでは組織全体で顧客と向き合う仕組みを作っていました。
月50人のインタビュー: 毎月50人近くのワーカーをオフィスに招き、直接話を聞く場を設けていました。さらにセールスへの同行や、Web商談の録画視聴を徹底し、共通言語で顧客を語れる状態を目指しました
機能を超えた意味の発見: 当初は「面接なし・すぐお金がもらえる」ことが最大の価値だと考えていました。しかし、顧客の声を聞く中で、「コロナ禍での人との繋がり(孤独の解消)」や「日常の仕事への飽きを癒やすリフレッシュ」といった、情緒的な価値が潜んでいることに気付いたのです
1円の重みを感じる: 投資した資金が誰のどのような労働によって生み出されたものかを想像する。このオーナーシップこそが、顧客理解を深める原動力になります
5. インタビューの技術:本音を引き出す仮説の扱い方
顧客の本音を引き出すためには、マーケターとしての高い技術が求められます。
仮説のオン・オフ: インタビュー前にはしっかりとした仮説を用意しますが、いざ現場ではそれを一旦忘れ、フラットにファクト(事実)を聞きに行くフェーズが重要です。誘導尋問にならないよう、対話の中に解放感を作ることがコツです
コーチングの視点: 相手は嘘をついているわけではなくても、本心を言葉にできていないことがあります。その裏側にある真実(インサイト)を探り当てる姿勢が不可欠です
6. これからのマーケターに求められる姿
AI時代においても、マーケターの役割は不変であり、かつより高度なものになると中川氏は語ります。
現場感覚とAIの共創: AIは壁打ち相手として優秀ですが、現場で得た身体感覚」がなければ、アウトプットの良し悪しを判断できません。現場に行く人こそが、AIを最もうまく使いこなせるようになります
キャリアの二極化:
事業責任者型: 経営陣の一員として、マーケティング指標を「経営のワード(売上やPL)」へ翻訳できる能力
スペシャリスト型: 一つの専門性に固執せず、周辺領域(デジタル広告+CRMなど)を掛け合わせ、変化に適応し続ける能力
7.まとめ:勝つためのパズルを解き明かす
中川氏は、事業の成長を「パズルの組み合わせ」に例えます。その時々のフェーズに合わせて、何を最も重要な指標(北極星)に置くか、そして誰がその責任を持つか。この「組み合わせの妙」こそが、タイミーを成功に導いた要因の一つでした。
「国を支えるインフラになる」という高い志を持ちつつ、泥水をすするような現場での試行錯誤を厭わない。そんな「経営者意識を持ったマーケター」の存在が、今のAI時代、不確実性の時代にこそ求められているのです。
8.駒瀬所感
本エピソードを視聴して真っ先に感じたのが、これぞ「会社経営の普遍的な成功法則」だということ。
頭でっかちにならず、外部環境の変化に柔軟に、かつ、泥臭く対応する。コロナで飲食店需要が壊滅し、代わりに倉庫・配送業の需要が爆増したら、そちらにシフトする。
マーケターとしてジョインしたが、「マーケティングをやっている場合でない」と判断しならば、率先して営業を引き受ける。役割に囚われず、自身が貢献できることを探し、主体的に働きかける。
こういう幹部に支えられた会社は、本当に強いと思います。
是非、下記の小川代表のインタビュー記事(ポッドキャスト音源もアリ)も併せてお読みください。
これを読むと、上述の「柔軟に、かつ、泥臭く」が、まさに同社のDNAであることがわかります。
人脈が全くない初期の立ち上げフェーズにおいて発注顧客を獲得する為に、求人広告を見て、自ら応募して、実際にアルバイトとして働いて信頼を得る。
ただ、毎回、自分が働く訳にいかないので、自分が信頼する代わりの人間を送り込む。こうして泥臭く、初期の顧客を獲得していった。
「会議室で描いた理路整然とした経営計画」ではなく、地道に飛び込み営業を重ね、信頼を積み重ね、仲良くなった飲食店の社長から別の社長を紹介頂く。
その結果、レインズインターナショナル創業者の西山さん、串カツ田中の貫社長といった業界の重鎮から、「飲食業界のために頑張ってくれている君たちを応援する」と出資を得るに至った。
一方で、年商1億円強の頃に、調達した20億円の内、5億円をテレビCMに突っ込むという大胆な判断も実施。「ここで一気に認知を獲得することで、競合の追随を封じる」という戦略的な判断。
これが、「スキマバイトと言えばタイミー」という不動のポジション獲得に繋がった。
記事内には、当時の事業規模が紹介されていますが、直近の数字と比較することで、この戦略が正しかったことが証明されていると思います。

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