35人学級にします。で、誰が助かるんですか?――政策が伝わらないのは、“やること”から説明するから
「新しい制度を始めます」
「研修を実施します」
「出社日を増やします」
「DXを進めます」
会社で、こんな説明を受けたことはないでしょうか。
そして、心の中でこう思ったことはないでしょうか。
「で、それ、何のためにやるんですか?」
もし思い当たるなら、今回の「35人学級」の話は、教育関係者だけの話ではありません。
なぜなら、仕事でもまったく同じことが起きているからです。
企画が通らない。
社員が制度に納得しない。
研修をやっても行動が変わらない。
上司が「ちゃんと説明した」と言っているのに、部下には意味が伝わっていない。
その原因の一つは、
「何をするか」から説明してしまうこと
にあります。
逆に言えば、
「誰が、何に困っているのか」から話せるようになるだけで、企画や説明の伝わり方は大きく変わります。
今回は、高市政権が進める「中学校の35人学級」を材料に、
施策を“命令”ではなく、“問題解決”として伝える方法
を考えてみます。
「35人学級にします」と言われても、意味が分からない
今回の制度改正では、中学校の1クラスの標準人数を、現在の40人から35人へ段階的に引き下げます。
令和8年度は中学1年生。
令和9年度は中学2年生。
令和10年度には中学3年生。
つまり、中学校でも35人学級にしていく。
ここだけ聞けば、制度の内容は分かります。
でも、私が最初に資料を見て感じたのは、
「それで、誰が助かるんですか?」
でした。
35人という数字自体には、意味がありません。
知りたいのは、
誰の、どんな困り事を解決するために35人にするのか。
です。
40人の教室では、何が起きているのか
たとえば、40人のクラスがあります。
授業についていけない生徒がいる。
友人関係で困っている生徒がいる。
学校へ来られなくなりそうな生徒がいる。
特別な支援が必要な生徒もいる。
でも教師が見なければならないのは、その一人だけではありません。
40人です。
しかも教師の仕事は授業だけではありません。
生徒指導。
保護者対応。
部活動。
会議。
事務作業。
さまざまな業務があります。
そう考えると、
「40人を35人にする」
という政策の意味が少し違って見えてきます。
つまり、
一人の教師が見る生徒数を減らし、一人ひとりへ目を向けられる余地を増やしたい。
という問題解決策なのです。

ところが、資料では「やること」から説明している
ここで、私は一つ引っかかりました。
政府資料では、
「学級編制の標準を40人から35人へ引き下げる」
という制度変更が前面に出ています。
行政文書としては正しいのでしょう。
でも、人に伝える順番として考えると、逆ではないでしょうか。
人が知りたいのは、
「何をするのか」
より先に、
「なぜ、それをする必要があるのか」
だからです。
会社に置き換えてみましょう。
突然、
「来月から1on1を月2回実施します」
と言われたらどうでしょう。
多くの人は、
「また仕事が増えるの?」
と思うでしょう。
でも、
「上司と部下の間で困り事が共有されないまま、問題が大きくなるケースが増えています」
と最初に説明されたらどうでしょう。
そのうえで、
「問題が小さいうちに相談できる機会として、1on1を月2回設けます」
と言われる。
同じ1on1です。
しかし、意味がまったく違って見えます。
人は「施策」に納得するのではない
ここが、今回もっとも仕事に持ち帰りたいところです。
人は、
施策そのものに納得するわけではありません。
その施策によって、
誰かの困り事が良くなる
と理解したときに、初めて意味を感じます。
たとえば、
「研修をやります」
ではなく、
「管理職によって部下への対応がバラバラで、社員が困っています。だから研修をやります」
「新しいシステムを導入します」
ではなく、
「毎月3時間かかっている転記作業をなくすために、新しいシステムを導入します」
「出社日を増やします」
ではなく、
「新人が相談相手を見つけられず仕事が止まっています。そこを解決するために、対面で集まる日を設けます」
こう説明されれば、少なくとも議論できます。
反対するにしても、
「その施策で、本当にその問題が解決するの?」
という議論になります。
これは健全です。
ところが困り事が見えないまま、
「これをやります」
だけが出てくると、
議論は、
「やりたい人」と「やりたくない人」
の対立になってしまいます。

「35人学級」は目的ではない
もう一つ大切なことがあります。
35人学級そのものは、目的ではありません。
目的が、
子ども一人ひとりへ目が届きやすい環境をつくること
なのだとすれば、
35人にしたあと、
「本当に目が届くようになったのか」
を確認しなければなりません。
これも仕事とまったく同じです。
たとえば、
「研修受講率100%」
だから成功。
ではありません。
研修の目的が、
「管理職の部下対応を改善すること」
だったなら、
見るべきなのは、
部下対応が改善したか
です。
「新システムを導入しました」
だから成功。
でもありません。
目的が、
「残業を減らすこと」
だったなら、
本当に残業時間が減ったのか
を見なければならない。
つまり、
施策とは、成果ではありません。
目的を達成するために試す、
一つの仮説
です。
ここを混同すると、
「研修をやった」
「システムを入れた」
「会議を開いた」
「資料を作った」
という、
“やったこと”を成果だと思う組織
になってしまいます。
仕事で使える「4つの問い」
では、自分が企画や制度を説明する側になったとき、どうすればいいのでしょうか。
私は、最低でも4つの問いが必要だと思います。
① 誰が困っている?
まず、主語を決めます。
社員なのか。
お客様なのか。
管理職なのか。
現場なのか。
「会社として必要です」
では、誰のお困り事なのかが分かりません。
② 何に困っている?
次に、お困り事を具体化します。
「生産性が低い」
では抽象的すぎます。
たとえば、
「担当者が毎月、同じ数字を3つのシステムへ手入力している」
なら、困り事が見えます。
③ どうなれば良い?
次に、目指す状態を決めます。
たとえば、
「3時間かかっている転記作業をなくし、その時間を顧客対応へ使えるようにする」
ここまで来れば、
何を良くしたいのかが分かります。
④ そのために何をする?
ここで初めて、
施策です。
「だから、システムを連携します」
となります。
つまり順番は、
施策 → 理由
ではありません。
困り事 → 目指す状態 → 施策
です。

施策は④です。
①から③がなければ、
④だけ聞いても意味は伝わりません。
「ちゃんと説明したのに伝わらない」の正体
会社で、こんな場面があります。
経営者は、
「ちゃんと説明しました」
と言う。
社員は、
「何のためにやるのか分かりません」
と言う。
どちらも嘘をついているわけではないのかもしれません。
経営側は、
What――何をするのか
を説明している。
社員側は、
Why――なぜするのか
を知りたがっている。
答えている問いが違うのです。
今回の35人学級についても似ています。
政府は、
「40人を35人にします」
と説明する。
国民は、
「それで誰が助かるの?」
を知りたい。
だから資料を読んでも、
意味が頭に入ってこない。
会議でも、企画書でも、同じです
この考え方は、政策だけの話ではありません。
企画書なら、
「AIを導入します」
から始めない。
まず、
「担当者が毎週5時間、同じ問い合わせへの回答に使っています」
から始める。
会議なら、
「新しいプロジェクトを立ち上げます」
から始めない。
まず、
「最近、お客様から〇〇という相談が増えています」
から始める。
上司への相談なら、
「人を増やしてください」
から始めない。
まず、
「この業務で納期遅延が月5件発生しています」
から始める。
すると、
手段の話が、問題解決の話に変わります。
仕事とは、「何かをやること」ではない
私は、仕事を見るとき、
誰かのお困り事を解決すること
という視点がとても大切だと思っています。
研修をすることが仕事ではありません。
会議をすることでもありません。
システムを導入することでもない。
出張することでもない。
資料を作ることでもありません。
それらは全部、
手段
です。
大事なのは、
それによって、誰の、どんな困り事が解決したのか。
35人学級も同じです。
「40人を35人にしました」
で終われば、
制度を実施しただけです。
「困っている生徒へ早く気づけるようになった」
「先生が一人ひとりと向き合えるようになった」
「生徒が安心して学べるようになった」
そこまで確認できて、初めて、
問題を解決した
と言えるのではないでしょうか。
明日から使える、一つの問い
職場で、
「新しい制度を始めます」
「DXを進めます」
「研修を実施します」
と言われたら、
一度こう問い直してみてください。
「それで、誰の、どんな困り事を解決するんですか?」
意地悪な質問ではありません。
これは、
施策を“仕事”へ戻す質問
です。
そして、自分が何かを提案するときも、
「これをやりたいです」
から始めない。
「今、誰が、何に困っています」
から始める。
それだけで、提案の伝わり方は大きく変わります。
フォローすると、ニュースが「自分の仕事」に変わります
私はこのnoteで、ニュースや会社で起きている出来事を、そのまま紹介するのではなく、
「で、私たちの仕事では何を学べるのか?」
まで変換して考えています。
政策。
企業ニュース。
記者会見。
ハラスメント。
研修。
マネジメント。
働き方。
一見すると自分とは関係なさそうな出来事でも、
「誰が困っている?」
「本当の問題は何?」
「どう説明すれば伝わる?」
という問いに変えると、自分の仕事で使える材料になります。
フォローしていただければ、
ニュースを知るだけではなく、明日の会議・企画・説明・マネジメントで使える“問い”を持ち帰れる記事
を継続してお届けします。
「何となくモヤモヤする」で終わらせず、
そのモヤモヤを、仕事で使える言葉に変えたい。
そんなときに、また読みに来ていただけたらうれしいです。
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誰の、どんな行動を変えたいのかから考える記事です。
今回の記事の「施策は目的ではない」という話と、もっとも近いテーマです。

出社か在宅かという二択ではなく、
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「手段を目的にしない」という今回の話を、働き方へ広げて考えられます。

管理職の仕事を、
「役職」「権限」「管理すること」
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から考えた記事です。
「仕事とは、誰かのお困り事を解決すること」という今回の記事の続きを、マネジメントの視点から読めます。
施策から話すと、命令に見える。
困り事から話すと、問題解決に見える。
35人学級の話から見えてきたのは、
政策だけではなく、
私たち自身の「仕事の説明の仕方」
だったのだと思います。
