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趣味は「数」より「構造」(後編)── ポートフォリオとして組む4つの軸

前編では、趣味を複数持つことの意義と、それでも「推したちが同じ週に全員負ける」問題について書きました。

そこで大事なのは、趣味の数ではなく、異なるタイプの趣味を組み合わせることなのだと思います。

では、どんな軸で組み合わせればよいのか。

今日はその具体的な考え方を整理します。



軸1:コントロールできるか、できないか

まず重要なのは、自分でコントロールできるかどうかという軸です。

より正確に言えば、
自分の行動が結果にどれくらい関与できるか
ということです。

スポーツ観戦は、コントロールできない趣味の代表です。

どれだけ応援しても、試合結果を直接左右することはできません。
もちろんファンの応援は大事ですが、多くの要因はファンの応援よりも選手のパフォーマンスであることは事実です。

こちらが早起きしても、遠征しても、グッズを買っても、試合に出るのは選手です。

だからこそ、勝ったときの喜びは大きい。
自分ではどうにもできないものが、自分の感情を一気に持ち上げてくれる。一方で、負けたときの無力感も大きい。


それに対して、ジムに行く、歩く、文章を書く、楽器を練習するといった趣味は、比較的コントロールしやすい趣味です。

やった分だけ、何かが残る感覚があります。

今日は30分歩いた。
昨日より少し長く走れた。
文章が一本形になった。
前より少し弾けるようになった。

こうした経験は、自信にもつながります。

「自分はやればできる」
「少しずつなら変えられる」
「行動すれば、何かが残る」

そうした感覚は、精神的健康にとってかなり重要です。

ただし、コントロールできる趣味だけで人生を固めると、少し作業っぽくなります。

歩数を稼ぐ。
筋トレをする。
記録をつける。
上達する。
達成する。

それは大事です。

でも、人生には、自分ではどうにもできないものに心を揺さぶられる時間も必要です。

試合終了間際の逆転ゴール。
理不尽なクラッチシュート。
相手を投了に追い込んだ絶妙な一手

こういうドラマは、コントロールできる趣味だけでは得られません。


となると、理想的なのは、両方の趣味を持つことです。

コントロールしにくい趣味は、感情の高揚と共同体への帰属感をくれる。
コントロールしやすい趣味は、自信と安定した達成感をくれる。

どちらかだけでは足りません。

コントロール外だけだと、感情が他者に人質に取られる。
コントロール内だけだと、人生が管理表のようになる。

だから、組み合わせが大事なのだと思います。


軸2:ゲインが読めるか、読めないか

次に考えたいのは、
かけた時間やお金に対して、リターンがどれくらい安定して返ってくるか
という軸です。

これは、先ほどの「コントロール」と似ていますが、少し違います。

軸1が「自分の行動が結果に関与できるか」だとすれば、
軸2は「結果がポジティブに返ってくる確率がどれくらい読めるか」です。

ジムや歩数管理、読書は、比較的リターンが読みやすい趣味です。やれば何かしら残ります。

健康になる。
知識が増える。
技術が上がる。
気分が整う。
記録が残る。

もちろん、毎回劇的な成果があるわけではありません。それでも、利回りは比較的安定しています。

一方で、スポーツ観戦は読めません。

スタジアムへ行く。
交通費を払う。
チケット代を払う。
グッズも買う。
時間も感情も使う。

そのうえで負ける。
場合によっては、楽しいどころか、帰り道にメンタル的な負債を抱えることすらあります。

合理的に考えれば、かなり危険な投資です。でも、だからこそ面白い。

予定調和ではない。
努力したから報われるわけではない。
こちらの都合など関係なく、勝ったり負けたりする。

その読めなさが、ドラマになります。
利回りの安定した趣味では得られない喜びがある。
だから、ゲインの読めない趣味をゼロにする必要はありません。
むしろ、人生にはそういう趣味も必要です。

ただし、そればかりになると危ない。

精神的健康の観点からは、リターンの読める趣味を土台に置き、その上に読めない趣味を乗せるくらいのバランスが安定するのかもしれません。

読める趣味で生活を支える。
読めない趣味で感情を動かす。

そのくらいが、ちょうどよいのかもしれません。


軸3:忙しいときにも関われるか

趣味は、忙しくなったときに真価が問われます。

余裕のある週なら、どんな趣味でもできます。

問題は、疲れている週です。
気力が落ちている週です。
仕事や家事や予定に追われている週です。

そのときにも、少しだけ関われる趣味かどうか。

スポーツ観戦は、この点で意外と優秀です。

時間がなければ結果だけ見る。
もう少し余裕があればハイライトを見る。
さらに余裕があれば全試合を見る。
現地へ行ける週はスタジアムへ行く。

関与の濃淡を柔軟に調整できます。

将棋観戦も似ています。

結果だけ見る。
棋譜を見る。
解説を読む。
動画を見る。
自分で並べる。

その週の忙しさに応じて、関わり方を変えられます。

一方で、ジムは少し難しい。
運動後のぐったり感を考えれば、かけられる負荷も変わります。

着替える。
移動する。
運動する。
帰る。

最低でも一定の時間が必要です。体のコンディションとの相談もあります。

もちろん、それが良さでもあります。
生活の中にしっかり時間を確保するからこそ、運動したという実感も得られます。

ただ、忙しい週には完全にゼロになりやすい。


その点、歩数管理は強いです。

通勤や移動に組み込めば、特別な時間を取らなくても続けられる。
「趣味」というより、生活に溶けた活動に近い。

精神的健康を支える趣味には、このスケーラビリティも重要です。

忙しいときにゼロになる趣味だけでなく、忙しくても細く続けられる趣味を持っておく。

ソーシャルゲームとは異なり、他者と競争することなく、自分の数値を地道に上げていく作業ともいえます。

これも、趣味のポートフォリオとしては大事な発想です。


軸4:知識が外に開くか、内に深まるか

最後に、その趣味で得た知識が、他の世界にも広がっていくかという軸があります。

映画は、比較的外に開きやすい趣味なのだと思います。
作品を横断的に見ていくと、監督、時代背景、社会問題、文化、文学、歴史へと広がっていきます。
趣味として楽しんでいたはずが、いつの間にか教養になっている。

読書もそうです。
美術館めぐりや旅行もそうでしょう。

「最近、どんな映画見た?」
「最近、どんな本を読んだ?」
「最近、どんな美術館に行った?」
「最近、どこに旅行した?」

毎回答えが変わりますので、経験の広がりを感じやすいのだと思います。


一方で、かなり内に深まる趣味もあります。

サッカーの戦術データ。
NBAのスタッツ分析。
筋トレの種類や効果についての知識。
将棋の戦法の定石。

これらは、その世界の中では非常に重要です。

深めれば深めるほど、世界の見え方が変わる。
外から見ればどうでもよい違いが、内側にいる人にはものすごく大事に見える。

そこに趣味の深さがあります。
ただし、その知識が外の世界でそのまま使えるとは限りません。

ある意味で淡々と同じ対象を見続けるので
「最近、〇〇についてどう?」
のような会話にはなりにくいのかもしれません。

もちろん、閉じた知識が悪いわけではありません。むしろ、趣味の楽しさは、しばしばその閉じた世界の中にあります。

その世界の中でしか通じない言葉。
その世界の中でしかわからない面白さ。
その世界の中でしか見えない微妙な差。

それは、趣味の醍醐味です。

ただ、精神的健康のポートフォリオとして考えるなら、外に開く趣味も少し持っておくとよいのかもしれません。

自分の世界が広がるからです。
その意味で、将棋は面白い位置にあります。

勝敗だけを追えば、かなり閉じた世界です。
しかし、局面をどう読むか、残り時間を見てどこで決断するか、どのリスクを取るかという視点で見ると、意思決定の構造として他の領域にも転用できます。

趣味によって得られる知識が、外に開くのか。それとも、内に深まるのか。これも、趣味を考えるうえで意外と大事な軸だと思います。


まとめ:趣味は生活のインフラ

「趣味を複数持て」は、たぶん正しい。

ただし、より正確には、性質の違う趣味を組み合わせることが重要です。

サッカー、バスケ、将棋を持っていても、すべてが「他者の勝敗に感情を預ける趣味」なら、似ている趣味のかたまりといえます。

それよりも、

観戦する趣味。
体を動かす趣味。
作る趣味。
読む趣味。
少しだけ学ぶ趣味。
人とつながる趣味。
一人で整える趣味。

そういうふうに、性質の異なる趣味を組み合わせた方がよいのかもしれません。

似たものばかり持っていても、ばらつきが小さい。
大事なのは、違う動きをするものを組み合わせることです。

心を上げてくれる趣味。
心を落ち着かせる趣味。
自分で積み上げられる趣味。
他者のドラマに乗れる趣味。
忙しくても少し関われる趣味。
長く育てる趣味。

そうしたものを、生活の中に少しずつ配置していく。

趣味は、単なる余暇ではありません。
精神的健康を支える、生活のインフラのようなものと思います。

自分の心がどこに依存しているのか。
どこで回復しているのか。
どこで高揚しているのか。
どこで安定しているのか。

それを見ながら、自分なりの趣味のポートフォリオを組んでいく。
趣味は、ただの気晴らしではありません。

だから、趣味は「数」より「構造」で選ぶ。
それが、精神的健康を支える趣味の持ち方なのだと思います。



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