『光の感染者』第23話|ぼくの見えている世界(境界で生きるということ)
光は、叫びではなく、生活の中で感染していく。
それは静かに、気づかれることもなく、
ただ、自然に。
朝。
まだ空気が冷たい時間に、一日は始まる。
静けさの中で、今日やることを頭の中に並べる。
それから、仕事へ向かう。
現場に立つと、
そこには数字や計画だけでは語れないものがある。
畑がある。
人の暮らしがある。
そして、ときどき、野生動物との境界が揺れる。
防護柵を検討する。
被害の相談を受ける。
捕獲の方法を考える。
自然と人の距離は近い。
そして、とても繊細だ。
正解が一つではない問題に向き合うたび、
「守る」とは何かを考える。
何を守り、
どこまで踏み込むのか。
答えは、その場ごとに形を変える。
仕事の中では、
人との関わりも一つの風景になる。
組織には流れがある。
その流れの中で、
自分がどこに立つのかを、
静かに問われることがある。
言葉が行き違うこともある。
意図が伝わらないこともある。
それでも物事は、
すぐに白黒がつくものではない。
時間をかけて、
少しずつ整理されていくものだと思っている。
在宅で仕事をする日もある。
外の雪や、風の音を聞きながら、
資料をまとめる。
現場とは違う静けさが、
そこにはある。
出来事を整理する。
言葉に変える。
その時間は、
自分は何を大切にしているのかを、
確かめる時間でもある。
夜になると、
世界は少し変わる。
楽器を手に取る。
昼間の役割から、
少し離れる。
音を合わせる時間は、
説明のいらない対話のようだ。
うまくいく日もある。
思うように弾けない日もある。
それでも音を重ねていくと、
人は少しずつ、
呼吸を合わせていく。
遠くにいる人と、
メッセージを交わすこともある。
価値観や文化の違いに触れる。
そのたび、
自分の常識が、静かにほどけていく。
世界は、思っているより広い。
そして、人はどこか似ている。
最近、よく思う。
人生は、
大きな出来事でできているわけではない。
小さな選択の積み重ねで、
できている。
誰かの言葉を、どう受け取るか。
自分の行動を、どこへ向けるか。
その一つひとつが、
見えている世界の色を、
少しずつ変えていく。
ぼくは、
特別な景色を見ているわけではない。
ただ、
自分に与えられた場所で、
自然と人のあいだを行き来している。
ときどき、立ち止まる。
考える。
そして、また歩き出す。
それが、
今、ぼくに見えている世界だ。
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