中小企業こそAIを使うべき理由。人手不足の会社ほど「社員の時間」を取り戻す効果は大きい
人手不足の中小企業ほどAIを使うべき理由。採用する前に見直したい「社員の時間」
先日行った『室崎敬太のAIセミナー「はじめてのGemini」』の記事を公開してから色々とお問合せが増えました。
「AIを導入したほうがいい」
そう言われても、中小企業の経営者からすると、
「まだ、うちには必要ない」
「社員が使いこなせないと思う」
「AIにお金をかける余裕がない」
「もう少し世の中に普及してからでもいいのではないか」
と感じることもあると思います。
特に、日々の売上、人材採用、資金繰り、顧客対応、現場管理まで考えなければならない中小企業にとって、AIは「重要そうではあるけれど、緊急ではないもの」に見えやすいものです。
しかし私は、むしろ逆だと考えています。
人が足りない会社ほど、AI活用を検討する意味があります。
今回はそんなお話をしていきます。
これは「AIで社員を減らしましょう」という話ではありません。
中小企業におけるAI活用は、今いる50人を、実質的に55人、60人に近い働き方ができる組織に変えていくことと考えたほうが実態に近いと思います。
重要なのは人を減らすことではなく、社員が本来使うべき仕事に時間を戻すことです。
たった1時間の削減でも、従業員50人なら月1,000時間になる
例えば、社員が毎日1時間、日報、報告書、メール、資料整理などに使っている会社があるとします。
従業員は50名。
月20日勤務と仮定すると、50名 × 1時間 × 20日= 月1,000時間です。
2026年8月31日私は神戸や大阪、名古屋、岡山などに顧客様の対応をさせていただいておりますが現在、兵庫県の地域別最低賃金は1時間1,116円です。2025年10月4日からこの金額が適用されています。
最低賃金だけで単純換算しても、1,000時間 × 1,116円= 月111万6,000円
年間では、111万6,000円 × 12か月
= 1,339万2,000円になります。
もちろん、これは「AIを導入すれば年間1,339万円の現金がそのまま残る」という意味ではありません。ここは非常に重要です。
社員が正社員であれば、1時間短縮したからといって、その分だけ翌月の給与が減るわけではありません。
この数字が表しているのは、それだけの人的資源を、現在その仕事に投入しているということです。経済学でいう「機会費用」に近い考え方だと思います。
※機会費用:あることに時間や資源を使ったために、別のことへ使えなくなった価値のことです。
つまり経営者が見るべきなのは、「AIで人件費をいくら削れるか」だけではありません。
その1,000時間を、本来どこに使えたのか。
ここを見る必要があります。
月1,000時間は、約6.25人分の労働時間になる
金額以上に重要なのが、仮に1人が月160時間働くとすると、
1,000時間 ÷ 160時間
= 6.25人分になります。
つまり50人の会社で、社員全員が毎日1時間、AIやITで短縮できる可能性のある作業をしているなら、毎月約6人分に相当する労働時間を、その作業に投入しているとも考えることができます。
「人が足りない」
「求人を出しても採用できない」
「残業が増えている」
「管理職が現場業務まで抱えている」
そんな会社ほど、一度立ち止まって考える必要があります。
本当に人そのものが足りないのでしょうか。
それとも、人間がやらなくてもいい仕事まで、人間が抱えすぎているのでしょうか。
この二つは、似ているようで経営上まったく違う問題です。
会社の中には「10分、15分の時間泥棒」が大量にある
AIで効率化できる可能性があるのは、日報だけではありません。
・メールを書く
・長いメールを読む
・会議の議事録を作る
・議事録を要約する
・過去の資料を探す
・社内規程から必要な情報を探す
・Excelの数字を集計する
・同じデータを別のシステムへ転記する
・文章を校正する
・提案書のたたき台を作る
・問い合わせ内容を分類する
・マニュアルの原案を作る
・長い資料を要約する
・文章を別の形式へ変換する
・複数資料から必要な情報を抜き出す
といった仕事があります。
一つひとつを見ると、10分、15分、20分程度です。
そのため、多くの会社では「改善すべき大きな問題」として認識されません。
しかし経営では、個人の10分ではなく、10分 × 人数 × 発生回数で考える必要があります。
50人が毎日10分ずつ使っていれば、1日500分です。
20日なら月10,000分。
約167時間になります。
一人ひとりには小さな負担でも、会社全体では決して小さくありません。
私はDXの相談を受けるとき、こうした仕事を「時間の粒」で見ることを重視しています。
大きなシステムを入れる前に、まず会社の中に散らばっている10分、15分、30分を探すのです。
仮に毎日90分を取り戻せたら、月1,500時間になる
例えば会社全体の平均として、次の時間をAIやITによって短縮できたと仮定してみます。

当然ですが、すべての会社で90分削減できるわけではありません。
職種によっても違います。
現場職と営業職、管理部門ではAIを使える仕事も違います。
ですから、この数字は効果を保証するものではなく、あくまで考え方を理解するための仮定です。
50名 × 1.5時間 × 20日
= 月1,500時間です。
最低賃金1,116円で単純換算すると、月167万4,000円。
年間では、2,008万8,000円相当の時間になります。
さらに月160時間を1人分とすれば、
1,500時間 ÷ 160時間
= 約9.4人分です。
つまり、50人企業で平均90分を取り戻せれば、約9人分に相当する労働時間を再配置できる可能性があるということです。
私は、AI活用を検討するとき、この「再配置」という言葉を非常に大切にしています。
AIの効果は「人件費削減」ではなく「時間の再配置」で考える
50人の会社で、1人あたり毎日取り戻せる時間を単純計算すると、次のようになります。

繰り返しますが、これはそのまま現金として削減できる金額ではありません。
むしろ経営者に考えてほしいのは、「戻ってきた500時間、1,000時間、1,500時間を何に使うのか」ということです。
営業活動に使う。
顧客対応を丁寧にする。
若手社員を教育する。
採用活動を改善する。
新商品の企画をする。
現場改善を考える。
経営者が判断業務に集中する。
社員が少し早く帰れるようにする。
これらもすべて、AI活用によって生まれる価値です。
特に人手不足の会社では、単なるコスト削減よりも、限られた人材を、より価値の高い仕事へ移すことのほうが重要になるケースは少なくありません。
生成AIによる時間削減は、実際の研究でも確認されている
こうした話は、単なる机上の計算だけでもありません。
2025年にNBER(全米経済研究所)から公表された研究では、66社、7,137人のナレッジワーカーを対象に、生成AIツールを業務で利用できるようにするフィールド実験が行われました。
AIを利用できるようにしたグループのうち、実際にツールを利用した約80%の従業員では、6か月間の実験後半に、メールへ費やす時間が週約2時間減少したと報告されています。
勤務時間外に働く時間も減少しました。
ここで興味深いのは、単に「文章を速く書けた」という話ではないことです。
AIによって、人間が仕事に使う時間そのものの配分が変わる可能性があるということです。
一方、この研究では、AIを個人単位で提供しただけでは、仕事全体の量や構成に大きな変化までは確認されていません。
私はここも非常に重要だと思っています。
つまり、AIを社員に配れば、会社全体が自動的に生産的になるわけではないということです。
個人の作業が速くなっても、承認フローが複雑なままなら時間は止まります。
AIで文章を作っても、最後に紙へ印刷し、押印して、別システムへ手入力していれば、本当の意味での業務改善にはなりません。
だからDXでは、AIだけを見るのではなく、業務全体を見る必要があります。
人手不足企業こそ「採用の前に業務を分解する」という選択肢を持つ
帝国データバンクの2026年7月調査では、正社員の人手不足を感じている企業は51.3%でした。
7月としては4年連続で50%を超えています。
人手不足は、すでに一部企業だけの問題ではありません。
だからこそ、人が足りない→採用するという一択ではなく、
人が足りない
↓
現在の業務を分解する
↓
やめられる仕事を探す
↓
簡単にできる仕事を探す
↓
ITに任せられる仕事を探す
↓
AIが補助できる仕事を探す
↓
それでも足りない部分を採用する
という順番も検討する価値があります。
ここで重要なのは、いきなりAIから考えないことです。
最初に「やめられないか」を考えることです。
不要な業務をAIで高速化しても、不要な業務が高速になるだけです。
これはDXで非常によく起きる失敗です。
AI導入でよくある失敗は「社員にChatGPTを配って終わる」こと
生成AIが普及してから、
「とりあえずChatGPTを契約しました」
「社員にアカウントを渡しました」
という企業も増えています。
しかし、それだけでは利用する人と利用しない人に分かれます。
一部の社員だけが便利に使い、会社全体の仕事はほとんど変わらない。
これではDXとは言えません。
「どの業務に時間がかかっているか」
「どこで社員が面倒だと感じているか」
「誰に仕事が集中しているか」
「どの作業ならAIを使ってもリスクが低いか」
「AIが間違えた場合、誰が確認するか」
まで設計することが重要です。
私はこれを業務設計と考えています。
そして業務設計では、効率だけを見るべきではありません。
社員が不安なく使えるか。
確認作業が増えすぎないか。
新しいツールを覚える心理的負担は大きくないか。
AIを利用するために、かえって入力作業が増えていないか。
情報管理上の問題はないか。
こうした「運用負荷」や「心理負荷」も含めて考える必要があります。
人を置き去りにしたDXは、最初は速く進んだように見えても、現場にはなかなか定着しません。
AIは使えば使うほどいいわけではない
私はAI活用を支援していますが、何でもAIにすればいいとは考えていません。
単純な定型処理なら、従来型のITや自動化ツールのほうが安く、正確で、環境負荷も小さい場合があります。
Excelの計算式で済むならExcelでいい。
システム連携で確実に処理できるなら、それでいい。
人が判断したほうが速く、顧客にも喜ばれる仕事なら、人がやればいい。
AIは魔法ではなく、数ある業務改善手段の一つです。
だからこそ、AIを使うことを目的にするのではなく、人の負担を減らすために必要な場所だけで使う。
私は、このくらいの距離感が中小企業には合っていると思っています。
50人を40人にするためではなく、50人のまま成長できる会社をつくる
中小企業でAIの話をすると、「人員削減ですか」と聞かれることがあります。しかし人手不足の会社では、考え方が少し違います。
50人を40人にすることが目的ではありません。
50人のまま、これまで以上の仕事に対応できる会社をつくる。
あるいは、これまで50人で残業しなければ終わらなかった仕事を、50人で無理なく終えられる会社にする。
こちらのほうが現実的です。
生産性向上という言葉は、ともすると「もっと社員を働かせること」のように受け取られます。
しかし本来は逆です。
同じ成果を出すために必要な負担を減らす。
同じ50人で、より価値の高い仕事ができるようにする。
その結果として売上や利益が伸びれば、賃上げや人材投資の余力も生まれます。
これが、人を置き去りにしないDXだと私は考えています。
AIを使う会社と使わない会社では「時間の投資先」が変わっていく
例えば、ほぼ同じ規模の会社Aと会社Bがあるとします。
社員はどちらも50人。
売上規模もほぼ同じです。
会社Aでは社員が毎日、
報告書・メール・議事録・資料検索・転記・集計に1時間30分使っています。
会社Bでは、業務を整理したうえでAIやITを適切に使い、その時間を30分まで減らせたとします。
差は1日1時間です。
その1時間を会社Bが、
営業・顧客フォロー・商品開発・社員教育・現場改善・マーケティング
新規事業に使い始めたらどうなるでしょうか。
1日では大きな差には見えません。
1週間でも劇的な違いは出ないでしょう。
しかし半年、1年、3年と積み上がれば、差は大きくなります。
会社Bが突然AIによって強くなったのではありません。
毎日少しずつ、時間の投資先を変えていった結果です。
これは「複利」に似ています。
※複利:生まれた成果をさらに次の成果につながる場所へ投資し、時間とともに効果が積み上がっていく考え方です。
AIによって30分戻る。
その30分で顧客との接点を増やす。
顧客の声から商品を改善する。
商品が改善され、売上が伸びる。
売上が伸びれば、さらに人材教育や設備へ投資できる。
この循環を作れるかどうかが重要です。
中小企業に必要なのは「AI導入」ではなく「時間の再設計」
前述通り
「ChatGPTを導入しました」
「Geminiを契約しました」
「生成AIを使えるようにしました」
それ自体は、DXの成果ではありません。
見るべきなのは、社員の時間が何時間戻ってきたのか。
そして、その時間を何に使えるようになったのか。です。
私は中小企業のDXでは、いきなり大規模なシステム導入から始める必要はないと考えています。
まず一つの部署。
一つの業務。
一つの帳票。
一つの会議。
一つの報告書。
そこから、「毎日何分かかっているか」を知り、
「本当に必要な作業なのか」を知る。
「誰が一番困っているのか」を確認する。
そして小さくAIやITを試し、現場で本当に楽になったかを見る。
うまくいけば広げる。
うまくいかなければ戻す。
このくらいの進め方で十分です。
AIを導入することよりも、現場に無理なく定着することのほうが、はるかに重要だからです。
人が足りない会社ほど、採用活動だけを見るのではなく、今いる社員の時間にも目を向けてみてください。
最後に普段のセミナーや講習で経営者の方へ質問させていただくことを共有させていただきます。
毎月1,000時間の余力が生まれたら、御社は何に使いますか。
その1,000時間を、採用で補いますか。
残業で補いますか。それとも業務そのものを見直しますか。
そして、
競合企業がその1,000時間を営業、顧客対応、商品開発、新規事業に使い始めたとき、自社は今の働き方のままでよいでしょうか。
DXは、必ずしも大きなシステム導入から始める必要はありません。
まずは自社の仕事を棚卸しし、社員の時間がどこへ消えているのかを把握する。AIを考えるのは、その後でも遅くありません。
自社だけでは「何が無駄なのか」「どこから手を付けるべきなのか」が整理しにくい場合には、外部の視点を入れて業務を一緒に分解する方法もあります。
私はDXコンサルタントとして、経営と現場の間に入りながら、AIありきではなく、業務の整理から仕組みづくり、現場への定着までを支援しています。
人を減らすDXではなく、今いる人が無理なく働き、会社が持続的に成長できるDX。
その第一歩は、新しいシステムを買うことではなく、
「私たちの会社では、人の時間を何に使うべきなのか」を考えることだと思っています。
参考資料
・兵庫労働局「兵庫県最低賃金 時間額1,116円に改正決定 ~発効日は令和7年10月4日~」2025年9月4日
・帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」2026年8月17日
・Eleanor W. Dillon, Sonia Jaffe, Nicole Immorlica, Christopher T. Stanton, “Shifting Work Patterns with Generative AI,” NBER Working Paper 33795, 2025.
いいなと思ったら応援しよう!
現在進行中の「気持ち良いDX」及び
就労支援プロジェクト、精神疾患罹患後の社会復帰事業に充てさせていただきます。