連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 12話「声」(4)
12話「声」(4)
ひとしきり嘔吐しきった後、気を失ってしまったリカルド。街の医者に連れて行きたいとゴナンはナイフに訴えたが、そういえばあの街には、リカルドがユーの民ではと疑っているらしい医者がいるのだった。
「ゴナン、大丈夫よ。他の人ならともかく、リカルドは死なないんだから」
リカルドを焚き火の近くまで運び、口周りを洗浄しながら、ナイフが優しくゴナンに話しかける。
「うん……」
「それにしても、不思議な現象だったわね……」
リカルドを寝せながらそう振り返るナイフに、ゴナンも無言で頷く。
「巨大樹そのものというより、『巨大樹の情報』がリカルドに影響を与えているわね。よくよく考えてみたら、遺跡の壁画も、巨大樹の部分が見えてなきゃオッケー、だものね」
「うん…。でも、これが、ユーの呪いを解くようなヒントに、なるのかな……」
「……」
黙り込む2人。現状では、単にリカルドが巨大樹の情報に反応するということが分かっただけで、これによって呪いを解くような何かがあるとは到底考えられない。
「……う…」
と、リカルドがうめき声を上げつつ、目を覚ました。
「…リカルド、ごめん。俺……」
「ふふっ……。まさか、毒も薬も効かない僕が、こんな目に遭うなんてね。一服盛られるって、こんな感じなんだね。貴重な経験だよ」
泣きそうな表情でリカルドにすがりつくゴナンに、冗談めかしてゴナンに微笑みかけるリカルド。
「たまにはこういう目に遭うのもいいんじゃないの? 人生経験として」
「ひどいなあ、ナイフちゃん」
「…でも、苦しい思いさせただけで、何も分からない、ということが、分かっただけだったけどね…」
そう指摘するナイフに、リカルドはふう、と息をつき、何かを考えるように目を閉じる。ゴナンとナイフは、遠くにそびえ立つ巨大樹の姿をボンヤリと眺めていた。ゴナンはぼそりと呟く。
「…頼りにしていた巨大樹だったけど、あれは、結局、何も教えてくれないな…」
* * *
翌日。
ミリア達はまだ街から帰って来ないようなので、今日も同じように2人探索、1人荷物番の割り振りで巨大鳥探しを行う。
「……順番的には私が荷物番だけど、リカルド、替わりましょうか?」
ナイフがリカルドを心配してそう申し出るが、リカルドは笑顔で首を横に振る。
「もう、大丈夫だよ。ほら、なんだかパワーに溢れている気もするしね。お茶の効果で」
そう笑って、心配そうな表情をしているゴナンにも語りかけた。
「さあ、ミリア達が戻る前に巨大鳥を見つけて、驚かせてあげようよ」
「うん…」
冴えない表情のゴナンに、リカルドは精一杯の笑顔を見せる。そしてそのまま、二手に分かれた。
* * *
(……やっぱり、リカルドの呪いを解くには、卵を目指すしかないのかな……)
馬を駆けながら、ボンヤリそう考えているゴナン。何か物事がうまく進みそうでいて、何も進展していない。そして、このいつまで続くか分からない巨大鳥探索の旅が終わってほしくないと思ってしまう自分もいる。いっとき皆と離れた期間があったからこそ、殊更にそう感じてしまっているのだ。
(……いつまでも続くはずがないって、わかってるけど……)
そう考えながらふと目線を、巡回の最初の目的地である泉に向けた。数本の木々に囲まれるように湧いている、小さな泉だ。と、そこに巨大鳥らしき影が降り行くのが見えた。
(……鳥だ…、降りた……!)
ゴナンがいる位置から泉までは少し距離がある。馬を降りたゴナンは、ひとまず狼煙玉を出し、赤と白の2本の狼煙を上げた。この距離なら、あの木々で目線が遮られて、コチには煙が気付かれにくいかもしれない。そして馬をこの場に止めて、徒歩でゆっくり近づく。
ゴナンが泉に着くと、巨大鳥はいつものように泉の水を飲んでいた。そしてコチはその脇に座って休憩しているようだ。ゴナンはそっと近寄って、声をかける。
「……あの…」
「……!」
コチははっと声の方を向いた。しかし、声の主がゴナンであることがわかると、いつもの笛を取り出すことなく、そして逃げる素振りを見せることもなく、座ったままゴナンを迎える。
「……」
「……」
しかし、コチはしゃべらない。ゴナンも何を話そうか困ってしまうが、話しかけることにした。少しでも卵につながるヒントが欲しい。
「……あ、…の。名前、コチっていうんだってね。……皆に、聞いた」
「……」
無言で頷くコチ。
「あ、俺は、ゴナン、っていうんだけど…、名前……」
「……ゴナン…」
コチはそう、確認するように名前を口にした。ゴナンはコチの隣に座る。
「……あの時は、おじいさんが、怖がらせて、ゴメン……」
「……」
「……あの後、みんなとも会えたよ。リカルドも、無事だった…。それで、この辺りにいたんだけど…」
ゴナンも他の仲間と共に卵を追っているということは、コチも把握していると思われるが、なぜかゴナンからは逃げないコチ。黙ったまま、話し続けるゴナンの方を見ている。
「……こいつ、なんか、凄いよな。いつも食べ物がある場所にばっかり、降りて」
ゴナンは巨大鳥を指さしながら、そう話題を変えた。巨大鳥は泉の水を飲み続けている。
「こいつのおかげで、俺、1人でも大丈夫だったし…」
「……」
「俺が落ち込んで何も食べたくないときなんか、俺の周りをゴンの実で埋め尽くすし、魚も投げつけてくるんだよ。面白かったな…」
「……!」
その言葉に、コチは驚く。そしてゴナンに尋ねた。

「……『この子』は、何か言ってた?」
「……えっ? いや、鳥だよ。何も話すわけないだろ。……あ、まさか、こいつ話せるのか? 鳥にしては賢いなとは思ってたけど…」
その反応を見て、コチはふう、と息をつき、首を横に振る。
「……いや、しゃべれないよ。人間とは身体のつくりが、まったく違うから」
「……?」
そのまま、まただまりこくるコチ。なんとか情報を引き出したいが、ゴナンにはそんな話術はない。そのまま自身も黙ってしまい、2人してしばし、泉の水面を眺める。
↓次の話↓
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