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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  10話「雨のウキにて」(2)


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10話 「雨のウキにて」(2)


 暗く沈んだリカルドの様子を見かねて、ナイフが明るい口調で口を挟んだ。

「まあ、ゴナンと私とで、ふん縛ってでも遺跡には連れて行くわよ。なぜか、拒否感はあっても激しく抵抗されるようなことはないしね。ともかく、あそこと同じような遺跡が他にもあるってことなのね、先生」

「…ああ、国内だけの情報だが、分かっているだけであと3箇所ほどあるようだな。巨大鳥と卵と巨大樹が同じ1枚の絵に描かれている、壁画のある遺跡だ」

「…あと、3箇所…」

「1箇所は巨大樹の街・エルダーリンドの近くだな。もう2箇所は少し距離があるが…、王都の近くと、東の国境近くだ。どこも、巨大鳥の卵信仰を描いた遺跡だろうということで、特段、重要視もされていない場所ばかりのようだ」

 そう言ってジョージは、送られてきた地図を広げる。「俺、地図を持って来る。書き写さなきゃ」とゴナンは部屋に、自分達の地図を取りに行った。その間、リカルドはやはり、ぼんやりと意識もそぞろだ。

「…氷っ子。祭の日までいるのか?」

 ゴナンを待つ間、ジョージは話題を変えた。

「…あ、はい。そのつもりです。巨大鳥次第ではありますが、多分、まだこの地域にいると思うので…」

「巨大鳥次第か、まあ、そうだな」

「それに、ゴナンに祭を楽しんで欲しいし、たぶんミリアも初めてだろうから」

「ふふっ。そうかい。あの子達のためにな」

 ジョージは優しげな表情でリカルドを見た。と、ゴナンが地図を手に戻ってきた。

「おう、ゴナン。来週、収穫祭があるぜ。楽しいぞ」

「収穫祭、お祭…」

 ゴナンの表情が少しワクワク顔になる。エドワードが教えてくれていたお祭のことだ。リカルドはゴナンに尋ねた。

「北の村でも、お祭なんかはあったの?」

「うん…。干ばつになる前はあってた。夕方から大きな火を焚いて、みんなで食べ物を持ち寄って、歌ったり踊ったり、大人は濁酒どぶろくを飲んだり…。俺は踊ったりはしなかったけど、いつもミィが嬉しそうに踊ってたし、ご飯をたくさん食べられる日だったから、楽しかった」

「僕は干ばつの村しかしらないけど、きっと、もともとは陽気な村なんだろうなあ…」

「うん。毎月、あってた」

 そのゴナンの言葉に驚くリカルド。

「へえ。結構、頻繁にあるんだね。何のお祭なんだろう?」

「よく、わかんない…。ただ騒ぎたいだけって感じだった。確か、満月のたびにあってた気がする」

「ふうん…。あの地域には、何か星や月に関わる信仰やお祝いがあるのかなあ…」

 リカルドは興味深げに相づちを打つ。

「ウキの街の収穫祭はね、みんな少しおめかしして楽しむんだ。出店がたくさん出て食べ歩きも楽しいし、音楽隊が来るからいろんな楽器の音楽が聴けるよ」

「へえ…」

無表情ながら瞳が好奇心で輝くゴナン。

「昼間から始まるんだけどね。夜も楽しいよ。この日だけはみんな夜更かしする…」

「よ、夜は、俺には早いよ!」

 と、ゴナンが急に叫んだ。その勢いに、リカルドはもちろんナイフもジョージも驚く。

「…? ゴナン、どうしたの? 祭は夜まで遊ぶものだよ。5〜6歳の子ならともかく、15歳で早いってことはないよ」

「…遊ぶって…、その…」

 ゴナンは何をどう説明していいのか困っているようだ。少し赤面している。その様子にジョージが気付いた。





「…おい、氷っ子。ゴナンの故郷はど辺境にある、前時代的な土地だといっていたな。娯楽も何もないような村だろう。あれじゃねえか? 祭っていっても、夜這いの文化が残っているのでは?」

「…夜這い…」

 それを聞いて、ゴナンの顔がさらに赤くなる。

「…ああ、なるほど…。え、お兄さん達も? みんな?」

「…結婚していない大人は、大体…。でも、アドルフ兄はたくさんは行ってなかったと、思う…」

「ああ、そうかあ…」

 なんとなく、アドルフなどがそのように嗜んでいるとは想像したくない感じではあるが、それを聞くと、あの兄弟たちが結婚していなくても『平気』であることに、多少、合点がいった。リカルドは少しだけ困ったが、安心させるようにゴナンの頭をなでる。

「…その慣習は、他の土地ではちょっと特殊だから。まあ、この街でも、なくはないかもしれないけどね。非日常の場っていうのは、出会いの場でもあるし」

「…ふうん?」

「この街では祭の夜には、ランタンを空に飛ばすんだよ。空と大地に、無事に収穫を迎えられたことの感謝を表す意味でね。とってもキレイなんだよ」

「…そう、なんだ…。祭って言っても、全然、違うんだね」

 少しホッとしたようなゴナン。勉学が進んでも、やはり辺境で暮らしていたことによる常識の差が大きいことを、リカルドは改めて実感した。そして、それもこの街でジョージの元で暮らすことで解消できることを感じ、そしてその考えを脳内から追い出すリカルド。

「…『健全な夜遊び』をゴナンに教えてあげないとね、ナイフちゃん」

「あら、そういう意味では、私は不健全代表のような存在なのだけど、大丈夫かしら」

 ナイフはふふっと笑った。


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