連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】6話「身勝手な独白」(2)
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6話 身勝手な独白(2)
翌朝。
ナイフの見張りの甲斐あってか、リカルドの夜中の徘徊を無事阻止した。
まとまった時間眠って、少しだが顔色が良くなった様子のリカルド。ナイフは安堵して、近くで買ってきた朝ご飯をテーブルに準備している。
「ほら、しっかりご飯食べて。今日は今まで行っていない住宅街を回ってみましょ? 髭もちゃんと剃ってね。みっともないわよ」
「……」
リカルドはまだ目の覚めきらない眼で、ナイフをじっとみる。
「…なんだか、ナイフちゃんにとてもお手間とご心労をかけている気がする」
「ようやく気付いていただけたようで、何よりだわ」
私は護衛じゃなかったのかしら、などとブツブツ言いつつも、テーブルに着々と食事の準備を進めるナイフ。
と、玄関のドアをノックする音が聞こえた。リカルドはバッと立ち上がり、玄関ドアへ飛ぶように駆けつける。
「……ゴナンっ……!?」
「うわ…っ」
玄関のドアの外で驚いてそう叫んでいたのは、野営道具工房の職人、タイキだった。
「…あ、タイキさん……。失礼、驚かせてしまった」
「朝早くからすみません。お届け物に伺ったんです、ほら」
そう言ってタイキは自分の後ろに声をかけた。タイキに隠れるように、タイキの娘が立っている。そしてその手には、あの寝袋があった。
「もう完成したんですか?」
「ええ、思いのほか早くできたので。ゴナン君は、まだ戻っていないんですか?」
その質問に、リカルドは暗い面持ちで頷く。タイキの娘も、少しガッカリしたようだ。
(……おや……?)
彼女のその反応を興味深く見ていると、タイキがふふっと笑った。
「この子は工房の仕事を手伝わされるのがイヤで、『もう明日からは手伝わない』って、毎日のようにケンカしていたんですよ。でも、あの日、ゴナン君が娘の仕事を褒めてくれたでしょう。それで、急に仕事に積極的になって。張り切ってこれも仕上げてしまったんです。僕もお礼が言いたかったんだけど…」
「ああ…」
タイキの娘は恥ずかしそうに頬を膨らませて、タイキの背中を叩いている。
(おやおや……?)
リカルドは優しく微笑んだ。

「……早く仕上げてくれてありがとう。嬉しいよ。お父さんが作ったのよりも、寝心地がいいかもしれないなあ。ゴナンが戻ってきたら、きっと喜ぶよ」
「……はい…」
娘はうつむいたまま小さく返事をして、ペコリとお辞儀をした。リカルドはタイキに、「じゃあ、支払いはいつものようにしますね」と伝え、書類にサインをして二人を見送る。ドアを閉め、大事そうに寝袋を抱えて戻ってくるリカルド。ナイフはその様子を冷めた顔で見ていた。
「呆れた。結局、その寝袋買ったの? 2万アストの代物」
「うん…。あの日に娘さんが作ってた方を欲しいってお願いしていたんだよ。ゴナンが作業に興味を持っていたから」
「……あなたねえ…。その超高級な寝袋をゴナンに買ってあげようとしたのが、そもそもの発端だって思ってるんでしょ? 懲りないわね」
「そうなんだけど…」
リカルドは、寝袋をデスクに大事そうに置いた。そしてうつむく。
「…でも僕はこの方法以外に、どうやってゴナンに尽くせばいいのか、分からないんだよ」
「……」
ナイフはため息をついて、自分の分のパンを食べ始める。
「…ま、そのあたりは、ゴナンにもきちんと気持ちを聞かないといけないわね。あの子もあの子で、わりと言葉足らずだから」
「うん…」
「…今日はミリアとエレーネは、少し遠くまで馬で駆けると言っていたから、宿から直接出発してるわよ。私達も、ご飯を済ませたらボチボチ出発しましょ」
「うん…」
「あーあ、もう、自分の吐くため息に溺れてしまいそうだわ」
どうにも覇気のないリカルドに、ナイフは大きなため息をついて、また一つパンを食べ始めた。
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「住宅街は流石に、聞き込みも難しいわねえ」
ナイフが歩きながら、そう口にした。午前中いっぱい住宅街を回ってみたが、日中に在宅しているのは主婦がほとんどで、なかなか外を歩く少年の目撃情報は得られない。
「この辺りで腰を据えて聞き込むなら、家族が帰宅している夜の方がいいかもしれないね」
「そうね…。午後はどうしましょうか? 草原に出るにも、もう思い当たるところは探し尽くしているのよね? 無作為に回ったって、それこそ見つかるものでもないでしょうし……」
リカルドは視線を落とす。もう6日が経っているのに、何も物事が進まない。ほのかな閉塞感が、まとわりついてきているように感じる。とにかく、ゴナンの情報が、全く何もないのだ。リカルドの脳裏に、最悪の結末が襲い来るように思い浮かぶ。
「…卵を……」
「……?」
「例の、卵を背負った男は、現れないのかな……」
「…リカルド…」
苦々しい表情のリカルド。本物かどうかもわからない卵にすがってしまうほどに、心が追い詰められてしまっている。
「……ま、そうね。お昼を食べたら、飲み屋街をうろついてみましょ。あの卵男に『釣られ』てみるのもいいかもしれないわね」
ナイフはリカルドの肩をポンポン、と叩く。彼女も心の中では、少し焦っている。
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