見出し画像

連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】6話「身勝手な独白」(3)


<<第三章 6話(2)  || 話一覧 ||  第三章 6話(4)>>

第一章 1話から読む

第三章の登場人物



6話 身勝手な独白(3)



 そのまま宿近くの食堂でお昼をすませて、飲み屋街へと向かった二人。もうほとんどの店に聞き込みを行っているので、ゴナンがこの界隈にいる可能性は低い。それでも落ち着かないリカルドは、少しの人影にも反応してゴナンではないかを確かめてしまう。端から見ると、かなり挙動不審だ。

 と、そのとき、リカルドがピタリ、と足を止めた。

「? リカルド?」

「……」

リカルドはじっと正面を睨んでいる。そこには、ポールの姿があった。この街に着いた日に会った、リカルドの故郷、ユー村の男性だ。彼はリカルドの姿を認めると、笑顔で話しかけてきた。

「お、リカルドじゃないか。まだ、この街に…」

「……! ポールさん……!」

しかし、リカルドはものすごい勢いでポールに飛びかかり胸ぐらを掴む。

「…ポールさん…。また、僕につきまとって…。お前が、ゴナンを攫ったのか。ゴナンに何かしたのかっ?」

「!?」

リカルドは力任せにポールを揺さぶり、壁に押しつける。「痛っ」とポールが顔を歪める。

「…何だって…?」

「お前がどこかに連れて行ったのか? あの子は関係ないんだ。なんであんた達は、僕を追い詰めようとするんだ。これまでも、何をしても、結果は変わらなかっただろう!」

「ちょ、ちょっと…、リカルド……!」

ポールに言葉を吐き出しながら、何度も体を壁に打ち付ける。ナイフが慌てて二人の間に入った。こんなに我を失うリカルドを、ナイフも見たことがない。




「リカルド、止めなさい! この人は何も知らなそうよ」

「……!」

ナイフがリカルドを引き離す。ポールは壁に背をもたれさせ、息を荒げている。

「……ゴナン?」

「あの日、食堂で僕の隣に座っていた男の子だよ。もうずっと、行方不明なんだ……!」

「……?」

ポールは、リカルドの隣に誰が座っていたかさえ、よく思い出せないようだ。ナイフはリカルドをなだめる。

「リカルド、ほら、この人は関係ないわよ。落ちつきなさい」

「……」

ナイフに抑えられうつむくリカルドを、壁に背を預けたままボンヤリとした目線で見るポール。

「……ああ、そうか。俺達が、お前の親父や他のユーの民にやったことを、聞いているのか…」

「……」

「まあ、そんなにひどいことはしていないと思うがな。ちょっと脅して寿命を聞き出して、死ぬときにそばに居られるようにはかって、そして死んでいくのをただ見届けていただけだ。それだけじゃないか。それでも結局、お前等が死んでもたらされた幸福の恩恵には、少しも関われなかったしな。ハイエナにすらなれないんだよ、俺等は」

自嘲気味に笑顔を浮かべ、吐き出すように話すポール。リカルドはギラリと彼を睨む。

「……そんなに睨まなくても大丈夫だよ。俺はもう分かっている。お前達につきまとったところで、幸福なんか手に入らないってな」

「……」

「でも、同じ村民なんだ、幸福のおこぼれが欲しいと思うくらい、いいだろう? だって、お前等ユーの民は、村ではいつも特別扱いで、村の財産をいくらでも自由に使えて、死んでなお尊ばれる。必ず早死になのはかわいそうだが、それまでは何もしなくても悠々と生きられるじゃないか」

ポールの口調がどんどん早口になっていく。

「ユーの民は死ぬことに意味があって、それまでどう生きるかにはさして意味がないんだからな。お前だって、仲間を集めて呑気に旅なんかして、遊んで暮らしているじゃないか」

そのポールの言葉に、リカルドは目を見開く。ナイフは「ちょっと、あなた…!」とポールを咎めようとしたが、リカルドはそれを止めた。構わずポールは話を続ける。

「……他の連中がどう考えているかは知らないが、俺は妬ましかったよ。特別なお前等がな。だから少し恩恵にあずかるくらいは許されるだろうと思っていろいろとはかりごとに身を費やしたが、それも無駄だった。そもそも、そんな虫のいい話はないんだ、『普通の人生』にはな。今はもう、ユーの民につきまとってどうこうしようなんて、少しも思っていないよ。ましてや子どもを攫うなんて、何の意味もない」

そこまで語って、ポールは壁から体を起こし、ホコリをはたいた。そして、虚空を凝視したままのリカルドに近づき、肩にポンと手をやる。

「…この街でお前に会ったのは、本当に偶然だ。工場街か鉱山へ仕事を探しに来ていたんだ。地道にコツコツ、働かないといけない身だからな」

「……」

「今はもう俺は、哀れなユーの民に同情をしているだけの、田舎のくたびれたおじさんさ。ただ、お前の親父さんや他のユーの民にやった所業については詫びるよ。まあ、みんな死んでしまっているし、お前に伝えても仕方が無いけどな」

 そう言ってポールは、リカルドとは目を合わせないまま、その場を立ち去った。虚空を睨んだまま、その場を動けないリカルド。ナイフは声をかける。

「……リカルド…、大丈夫?」

「……」

 リカルドの心の一番弱い部分を、ポールはえぐっていった。なんとも間の悪い…、と、ナイフは立ち去るポールの後ろ姿を睨む。同情している、詫びたいと口では言いながらも、結局は自分が自分に許されるためだけの言葉を投げつけて去って行く、なんとも自分勝手な男だ。

「…特別扱い、か……」

ようやく、リカルドが言葉を発した。

「リカルド、あんな言い分、気にしてはダメよ」

「……そんな風に見られているっていうのは、思いもしなかったな。妬むなんて。こんな、呪われている人間の、何を…?」

はは、と乾いた笑い声をこぼして、いつもの冷たい微笑みに戻るリカルド。

「何者にもなれず、それが自分のせいだとも気付いていない男ね。狭量で何の取り柄もない人間の大きな独り言よ。耳が汚れるわ。忘れましょう」

「…違うよ…。あれが、彼の正義なんだ。そして、普通の人はみんな、そう考えるってことだよ…」

「リカルド…」

リカルドは、マントが地面につくのも意に介さず、座り込んで膝をギュッと抱え、顔を埋めた。

「…ゴナン…、どこに行ったんだ…。ゴナン……」


↓次の話↓



#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト


いいなと思ったら応援しよう!