連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】6話「身勝手な独白」(4)
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6話 身勝手な独白(4)
ちょうど日が暮れかける頃。
巨大鳥が立ち寄りそうな水場探しから宿に戻ってきたミリアとエレーネ。表で馬をつないでいるとき、遠くからナイフが歩いて戻ってきた。その背中には、リカルドが背負われている。夕日を背に、筋骨隆々とした女装の男性が、真っ黒ずくめの装いをした背の高い男性を背負って歩く姿は異様に目立ち、往来の人々もチラチラと二人を見ていた。

「え! どうしたの? まさか、誰かに襲われた?」
ミリアとエレーネは慌てて駆け寄る。ナイフはふう、と息をついて、安心させるように微笑んだ。
「いえ、そうではないわ、大丈夫よ。…もう、どうにもこうにも慰めきれない事柄が起こって、リカルドが荒れちゃって…。知り合いのお店に駆け込んで、早い時間から強制的にお酒を飲ませてたのよ。ただ、ちょっと量が過ぎたみたい」
「荒れた……?」
エレーネが心配げにリカルドの顔を覗き込む。ナイフにぐったりもたれかかったまま、何か陽気にブツブツ呟いているが、エレーネの顔を見るとニッコリ微笑んだ。
「…ああ、エレーネ、ミリアも。もう、僕はきっと鳥なんて見つけられないから、君らは君らで動いた方がいいよ。ふふふっ。とっくにゴナンにも愛想を尽かされてるしね、もう、滑稽だよ、ひどいね、はははっ」
「リカルド?」
エレーネが困ったように声を掛ける。ナイフがふう、とため息をつく。
「普段はどれだけ飲んでもちょっと機嫌が良くなる程度だから、ここまでひどく酔うのは私も初めて見るのよ。飲ませたのは私だけど、ちょっと面倒くさいことになったわ」
「そう…」
「拠点まで連れて行くのも面倒くさいから、今日は私の部屋の空きベッドに寝せるわね。ちょっと手伝ってもらえないかしら」
ナイフはそう二人に依頼をして、宿に入っていく。都合良くナイフは二人部屋を一人で借りていたため、使っていない方のベッドにリカルドを投げ入れる。
「ナイフちゃんー……、ひどいなあ…、ふふふっ」
ナイフの荒い扱いに楽しそうに応えるリカルド。ナイフは少し苛つきながら、リカルドからマントを剥ぎ取る。
「…笑い上戸…、なのかしら?」
「さっきまではわんわん泣いていたけどね」
リカルドのマントをハンガーに掛けながら分析するエレーネに、ナイフは付け加える。ミリアは心配そうに、ベッドのリカルドに寄り添った。
「…リカルド…?」
「…ふふっ、ミリア。君が運がないというのは、本当かもね。だって、僕なんかを旅の連れに選んでしまって……。こんな人間、何の役にも立たないよ、最悪だよ、はははっ。生きてる意味なんかないんだよ、本当、こんな人間…、ふふ、ふふふっ」
「……?」
ミリアは切羽詰まった表情で、ナイフに迫った。
「ねえ、ナイフちゃん。リカルドは大丈夫? 何か毒を盛られたのではないの? 精神を攪乱させるような、正気を失わせるような…。こんな様子、とてもおかしいわ。早く解毒をしたほうがよいのではないかしら? 命に関わるかもしれない…!」
「え? ミリア。あなた、何を言ってるの?」
真剣にそう訴えるミリアに戸惑うナイフ。その様子を見て、エレーネは気付いた。
「……ミリア…。あなた、お酒に酔っている人を見たことはないの?」
「え? これがそうなの?」
ミリアは心底驚いている。その様子にナイフもまた、驚いた。
「…お城には酔っ払いはいないの…? パーティなんかで、羽目を外すお貴族様などはいないのかしら?」
「少し雰囲気が変わる方はいるけど、ここまでひどいことになってしまう方は、わたくしは見たことがないわ。本当に大丈夫なの?」
真剣な表情を崩さないミリアに、ナイフは吹き出す。
「ええ、とてもひどいことになってしまっているけど、寝ればまた元通りよ。明日は二日酔いでしょうけどね、ふふっ」
やはり何か浮世離れしているミリアに少し癒やされるナイフ。そして、やっぱりこの旅は、このメンツが揃っていることに救われているような気がする。
「…まあ、今日のリカルドの姿は、強烈かもしれないけど、忘れてあげてね。今後ひどい酔っ払いをもし見かけることがあった場合も、その醜態はきちんと忘れてあげるのよ」
「ええ、そうね。わかったわ」
素直にミリアは頷き、エレーネが隣で笑いをこらえていた。
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