連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 8話「狼煙を上げる」(4)
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8話 「狼煙を上げる」(4)
お昼ご飯を済ませた後、ミリアとエレーネ以外の4人は街のマーケットへと買い出しに来ていた。幸い、建材店でビクリ石の粉も取り扱いがあったため、赤煙と白煙、2種類の煙玉を作れそうだ。
「鳥を見つけたら白と赤の2本。撤収の合図は白2本、そして、それ以外の非常時や危険が起こって手助けが欲しい際は赤1本でどうだろう」
ディルムッドがそう提案する。
「そうだね。赤玉は非常時に素早く着火発煙ができるよう、ちょっとした火薬も混ぜておいたほうがいいかな。少し取り扱いが危なくなるけど…」
「火薬の分量を間違えなければ大丈夫だろう。あとは、ミリア様が触れられなければ…」
「……」
ディルムッドも、ミリアのことはそういう認識なのか、と興味深く聞くリカルド。
「あとは、着火用の火打ち棒…。ああ、ツマルタで性能がいいのをたくさん買っておけばよかった。僕の分はあるんだけどね。こするだけですぐにたくさんの火花が起こるんだ。すごいんだよ。一瞬で火が付くんだ」
リカルドはゴナンにそう自慢していたが、ふと動きを止めた。目の前には、到着時に揉めた宿屋の主人がいた。食材の買い出しに来ているようだ。向こうもこちら側に気付く。リカルドは微笑みで近づき、頭を下げた。
「…その節はどうも、お騒がせして…」
「いや、こちらこそ。強い応対になって申し訳なかった。…その子も、無事、治ったようだな」
ここは大人同士、遺恨を残さず大人の対応で謝罪する。ゴナンもペコリと頭を下げた。
「ええ、結局、流行病でも何でもありませんでしたから。あの日、申し上げていたとおり」
いや、多少こちらが大人げないようだ。宿屋の主人はふっとと苦笑いを浮かべた。

「何せ田舎なもんでね、外から来るものには必要以上に警戒してしまうんだ、勘弁してくれ。今も、帝国人が泊まりに来ていてね。この街にそんな人が来るのは珍しいから、うちだけじゃなく近所も戦々恐々としているところさ」
「帝国人?」
4人はその報告に、宿の主人に詰め寄った。
「いつから? 何人で? どんな人?」
「え…、昨晩からだ。男性のお一人様だよ。長期滞在したいという申し出で、ひとまず半月は泊まりたいそうだ。身長は大きめで、品のある雰囲気だ。貴族かもしれねえな」
「1人…。半月も…?」
4人は顔を見合わせる。ツマルタの連中は軍に拘束されているはずだが、まだ仲間が多くいるようだった。もしかしてミリアを追ってきたのだろうか? もしくは、巨大鳥がこの辺りに来ると同じように予測したのか…?
「…どうする?」
ナイフは小声でディルムッドに尋ねる。
「…この前の輩の仲間かもしれないが、1人というのが気に掛かるし、品のある雰囲気というのも、奴らとは馴染まない気がする。ひとまず、顔を見たい」
「そうだね…。ねえ、ご主人、その人は今は宿にいる? ちょっと、どういう人かをコッソリ見たいんだけど」
リカルドはご主人に、冷たい微笑みを浮かべながら尋ねた。主人はまた、その圧に少したじろぎながらも答える。
「ああ、今は散歩だかなんだかに出かけているよ」
「…じゃあ、その人が戻るまで食堂に居させて欲しいんだけど。ああ、もちろんお茶くらい注文するから」
「構わないよ。しかし、揉め事は勘弁してほしいがな…」
少し眉をひそめる主人に、リカルドはただ、微笑みだけを返した。
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そうして、宿の食堂で4人、お茶を飲んでいる。いや、ゴナンは牛乳である。
「ゴナン、牛乳ばかりで飽きないのか? たまには違うものを飲んでもいいのでは? 牛乳を飲んだからといって、必ず体が大きくなるとは限らないぞ」
ディルムッドはゴナンにそう尋ねる。しかし、ゴナンはじっと手元の牛乳を見つめた。
「…うん…。でも…、少しでも体が大きくなる確率をあげたい…。ディルみたいになりたいから…」
「確率、ふふっ。まあ、いいじゃないの。『よく食べよく飲みよく寝る』は、健やかな成長の一番の要素よ」
ナイフがゴナンに優しく微笑む。そうやって他愛もない会話をしていたら…。
宿屋の主人が「ンンッ」と咳払いをして、目配せをしてきた。件の帝国人が戻ってきたようだ。
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