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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  1話「“大丈夫”」(4)


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1話「“大丈夫”」(4)


 「…リカルド…! 何があった…!」

 すでに夕方の頃、クラウスマン邸に運び込まれたリカルド。夫妻が真っ青になりながら出迎え、ディルムッドとナイフによって抱えられた、血まみれのリカルドに駆け寄る。リカルドは気を失ったままだ。

「…帝国男達の襲撃に遭い、ゴナンと鳥の少女を守ろうとして、胸を一突きにされていた。ジョージ殿…、リカルドは、おそらく、もう…」

 そう、苦悶の表情で伝えるディルムッド。しかしジョージはナイフと目を合わせる。ナイフは軽く頷いた。

「……ひとまず、マリアーナの治療室に連れて行こう。ナイフちゃん、『治療』を手伝ってくれ。……他の者は邪魔になるから、部屋の外で待ってな」

「あ…、はい…」

 そのまま治療室へ向かおうとすると、廊下にもう1人、人影があることにナイフは気付いた。

「…あ、エドくん…」

「……そ、その人…、リカルド、さん…。胸を刺されたって…!」

 エドワードが、血まみれの姿に怯えながら声をかけて来た。ゴナンが探索から戻ってくるのを楽しみに待っていたのだ。



「…大丈夫…。ひどく見えるけど、心配ないから…」

「ゴナンを守ってって…。ゴナン、ゴナンは…? 戻ってないんですか…?」

「……!」

 エドワードのその問いに、ナイフは即答できない。少し言葉を選んで、答える。

「…エドくん…、ゴナンは、ちょっと事件に遭って、連れ去られてしまったの…。でも、多分、命は無事だから…」

「え…、連れ去られ…」

「必ず、ここに戻すから。少し時間は、かかるかもしれないけど…」

「……!」

 エドワードは何も言葉を返せない。その手には、ゴナンが知りたがっていた上昇気流についての書物があった。ジョージがゴナンのためにセレクトし、エドワードに一緒に勉強するようにと渡していたものだ。その本を見て、ジョージも辛い表情になる。

「…ひとまず、氷っ子の治療だ…。エド、今日はもう、帰りなさい」

「…はい…」

 エドワードは泣きそうな表情で、ようやく一言だけ答えた。

*  *  *

 「リカルド、あなたのこのお高いお洋服、裂くわよ」

マリアーナの治療室にリカルドを運び込む。ベッドに寝せ、上下とも服を切り裂いて脱がせた。服は血でじっとりと重く、全身のあらゆる場所に斬撃の傷がある。自分の身を守ることを度外視してゴナンや少女をかばった様子が、目に浮かぶような受傷具合だ。

「…だから、剣の鍛錬をしておきなさいって言ったのよ」

 そう、苦々しく呟き、最もひどい胸の傷に目を遣ったが…。

「……」

 ジョージとマリアーナも息を飲む。剣で背中まで貫かれていたはずの傷だが、すでに血は止まり、傷口が盛り上がって塞がれつつある。他の傷も同様だ。少しずつだが治っていっているのが見える。

「…心臓を貫かれたと言っていたな…。『死なない』と話にだけは聞いていたが、実際に目にするとすさまじいものだな…。一体、どうなっているんだ……」

「ええ…。でも、さすがにダメージは大きそうだわ」

 リカルドは昏倒しており、時折、苦しそうにうめく。傷の痛み、というよりも、いつもの「発作」に似た症状だ。

「ゴナンが連れ去られたってのは?」

 身体の血を拭き上げると、現状、3人にできることは何もない。ジョージはナイフに状況を尋ねた。

「ええ…、正確には巨大鳥にゴナンを乗せて襲撃から逃がしたらしいんだけど。で、鳥がもうこの地域には戻ってこないらしくって」

「なに…? 鳥に乗って飛んでいったって…」

「行き先はわからないの?」

「ええ、鳥の仲間の人達と対峙はできたんだけど、教えてくれなかったの。私達が卵を追っているって知ってるからだと思うけど」

 そう伝えて、苦しむリカルドを見るナイフ。

「…ただ、このウキで鳥を待ち伏せできたように、次の行き先を予想できるはずよ、リカルドなら」

「そうだな。今はそれしか手がないか。どのくらいで回復するかな、こいつは」

「わからないわね…。前に、ここまでひどくはないけど大怪我を負った場面に遭遇したことがあるわ。体を何ヵ所か骨折して。その時も1週間くらいは寝込んでいたから、もう少しかかるかもしれないわね…」

 昔、ナイフは、リカルドが自らの命を消すために、馬車の前に飛び出すという愚行を目の当たりにしたことがある。その時よりも今の方が、症状はひどく見える。

「…あのときは、この発作のような症状もなかった気がするわ…。体が猛烈に傷を治そうとしているのかしら…」

「そうね…、そのようにも、見えるわね…」

 マリアーナが辛そうな表情でリカルドを見つめる。彼女はよく効く痛み止めをいくらでも処方できるが、リカルドにはまるで効かない。無力感に苛まれるばかりだ。

「…ナイフちゃん。リカルドは私たちが見ているよ。文字通り『見る』だけではあるが…。何か変化があったら知らせに行くから、ひとまずあなたも休みなさい。食事も取ってないだろう」

「…ええ、そうね、先生。ありがとう…。お言葉に甘えるわ」

 ナイフは頭を下げ、もう一度リカルドを見て、治療室を出て行った。



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