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連載小説「オボステルラ」 【第三章】7話「大きな男」(5)


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第三章の登場人物



7話 大きな男(5)



「……?」

 ドズは少し不可解に感じていた。

 あの少年のような青年を紹介されて、数時間が経った。最初は、持ち場だと指示されていた岩壁の端で石を拾っていたが、1時間ほど経つと、少しこちら側に移ってきたようだった。

 そして1時間経つと、また近づいてきている気がする。少しずつ、少しずつ近づき……。そして…、しまいにはドズの持ち場付近で石を拾い始めていた。

「……」

ドズが動きを止めてゴナンの方を向くと、ゴナンもドズを見ていた。目線が合って慌てたゴナンは、下を向き石をせっせと拾う。サボっている様子はない。むしろ、他の者よりも一生懸命動いている印象だ。特に障りはないので、そのままドズも作業を継続する。

が…。

「……?」

 視線を感じてまた振り向くと、今度はさっきよりも近くでゴナンがドズを見ている。手は動かしているが…。

「……何か?」
「……あ、いえ……」

 ゴナンはそう呟いてうつむき、またせっせと石を拾い始める。ドズは首を傾げる。ここで働く者達は皆、ドズを恐れて、用事がなければ近寄ってくることはないし、ドズからも必要以上に他の者と接触することはない。ただ、毎日、無心になって自身の限界まで体を動かせればそれでいいのだ。

「?」

と、また視線を感じる。見ると、ゴナンが先ほどよりもさらに近くで、ドズを見ている。



「……あまり近づくと、危ないぞ……」

「あ! はい……。ごめんなさい…」

そうゴナンはペコリと頭を下げて、少しだけ離れて石を拾い運び続ける。

(……?)

 よくわからないが、邪魔になるわけでもないし、自分の掘る石を多く運んでもらえるのはありがたい。石を割る量は他の者の数倍なのに、いつもはドズを恐れて、彼の作業中はなかなかこちらへ拾いに来ないからだ。そのまま、その日の作業が終わるまで、ゴナンはドズの持ち場で石を拾い続けた。

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 夜になり、坑夫達に食事が配られる。ここでの食事は朝晩の2回だそうだ。

硬いパン1個に、くずのような野菜切れ。

今日、ゴナンと一緒にここに運ばれてきた男は、「これだけかよ…」とうなだれる。しかし、北の村での生活を経てきたゴナンにとっては、1日に2回もパンが出るなんて贅沢だ。ストネの街に着いてからは豊かな食事が続いていたから数日は辛いかもしれないが、『元に戻る』だけだ、すぐに慣れる。パクパクとおいしそうに食べて、「ごちそうさま」と器を下げた。

 坑夫の休憩所は、せり出した大きな岩の下にあいた隙間の空間。両壁のない洞窟のような場所だ。発光石も与えられず、夜は月明かり、星明かりで動くしかない。

「ほら、お前等のベッドだ」

そういって、鉱山の私兵が大量の藁をどさっと置いた。他の男達はぐったりと不平を呟いたが、ゴナンはテキパキと自分の分の藁を取った。

夜目がきくので、洞の空間の中で落ちつきやすそうな場所を探す。隅っこの程よい空間を見つけて藁を敷き込んで、一旦横になってみた。少し夜空も見えて、居心地がいい。

(よし…。寝床、できた……。こんなに藁をもらえて、よかったな)

昨日まで寝ていたベッドや寝袋と比べるとあまりにも粗末な環境だが、ゴナンには全く問題ない。きっと熟睡できるだろう。

が、寝袋のことを思い出し、攫われる当日のリカルドとのやり取りを思い出すと、心がざわざわした。

(……!)

ゴナンは洞から出てぺたんと座り込み、南の彼方星を見上げる。辛いときにはあの赤い星を見るのが、ずっと小さい頃からの習慣だ。

 藁の寝床も、貧相な食事も、1日じゅうずっと石を運び続けることも、きっと耐えられる。でも、昨晩のリカルドの背中の温もりを、一緒に眠っていたベッドの温かさを思い出すと、胸がギュッと苦しくなる。1日しか経っていないのに、遠い昔のようだ。

(……もう、リカルドにも会えないのかな…)

ゴナンはじっと、彼方星を見つめていた。



 そしてそんなゴナンの様子を、少し離れた場所から見つめていたのがドズだ。

彼は坑夫達とは距離をとっており、雨の日以外は洞の中では休まず、いつも外で星空を見ながら眠っている。

(……今日来たばかりなのに、すでに、ここでの暮らし方に慣れているようだ。寝場所の位置取りも寝床作りも上手い。仕事もよく働いていたし…。不思議だな…)

18歳だといっていたが、どう見てもまだ少年だ。なぜ、ここにいるのだろう。

 と、そのゴナンがまた、チラッとこちらを見た。目が合ってビクッとなったが、驚いただけで恐れている様子はない。他の者達は、ドズとは目を合わせるのすら怖がるというのに…。

 ゴナンはペコリとお辞儀をして、洞の寝床へと戻っていった。



↓次の話↓



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