連載小説「オボステルラ」 【第三章】8話「石を運ぶ」(1)
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8話 石を運ぶ(1)
ゴナンが鉱山に連れてこられて3日が経った。
朝早くに朝食が出され、すぐに作業が始まる。途中、休憩が数回あるが、そのときにしか水は飲めない。少しでもサボる気配を見せると私兵達に制裁を受けるので、皆大人しく働いている。そして日が暮れるまで働き、夜になって晩御飯。しばしの自由時間の後に就寝。ひたすら、この繰り返しだ。
ドズは朝イチで坑内を歩き回り、各所に作業の流れや配置を指示役にアドバイスすると、後は奥の岩壁へと行って一心不乱に岩を砕き続ける。石の仕分けの分業やトロッコとレールによる石の排出の設備などのアイデアを出したのも、ドズらしい。彼がここで働き始めた約半年前から、この鉱山の収量がかなり上がったという。
ちなみに、この間、ゴナンと一緒に来た男の内の一人がいなくなった。夜間に岩山を超えての脱出を試みたが、すぐに私兵に見つかり『処分』されたのだ。ゴナンと同じ日に連れてこられた残りの3人で、その男の遺体を埋める作業をさせられた。震える手で、死んでしまった名も知らぬ男に土をかけたゴナン。元の顔が分からない程に腫れ上がり、変形していた。ますます、これまでいた世界から遙か遠くに来てしまったことを実感していた。
この日、1度目の休憩時間。
今日は外が暑く、坑の中にも熱気がこもっている。私兵が持ってきた樽の水に、皆が一斉に群がった。ゴナンも水を飲みたかったが、皆の勢いに押されて樽に近づけず、はじき飛ばされる。
…と、倒れそうになったゴナンの体を、ドズが大きな手で支えた。そして他の者を体で押しのけながら樽に近づくと、柄杓で水をすくい、ゴナンに差し出す。
「…あ…ありがとう、ございます……」
「……」
水を飲んで柄杓を返す。ドズは何も言わず、続いて自分も1杯水を飲み、すぐに持ち場の方へと戻っていく。ゴナンはその後ろ姿をじっと見ている。
「……お前、あの男の近くにいて、よく平気だな…」
坑夫の一人が声をかけて来た。壮年の男性が多い中で、珍しく若めの男だ。30代前半くらいに見える。
「……別に、……大丈夫です…、けど…」
「何人も人を殺ってるギャングだぜ。一人だけでかいツルハシも持っているし。何かご機嫌を損ねたら、すぐ頭でも割られそうで怖かねえか? なんであいつだけ、鎖で繋がず野放しなんだろうな」
「……」
ゴナンは不思議そうな顔でその男を見るが、そのまま何も話さない。言葉少なで大人しいゴナンに間が持たなくなったのか、その男はすぐに離れていった。
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すぐに休憩時間が終わり、皆、持ち場へと戻っていく。相変わらずゴナンは、自分の最初の持ち場から、ジリジリとドズの方に近づいていく。そして最終的には、ドズの足元で仕事をし、時折ドズを見ている。この3日、いつも同じなのだ。
「おい」
ドズは、近づいてきたゴナンに声を掛けた。ゴナンは驚いて、ざるに入れていた石を落としてしまう。
「……はい」
そうやってドズを見上げる目は、やはり恐れの光を宿してはいない。度胸がある子なのだろうか?
「何か、わ、俺に用か?」
「……え…、と……」
少しうつむき、口ごもるゴナン。
「……いつも俺の方を見ているようだが…」
「……」
ゴナンは、おずおずとドズを見上げる。
「あ、あの…、質問を、したいんですが……」
「……何だ?」
応じるドズに、ゴナンは少し嬉しそうに目線を向ける。
「……あの、か……」
「?」
「…体、どうやったら、そんなに大きくできる……、んです…、か……?」
「……」
ふっ、とドズは思わず笑みを漏らした。ずっとそれを聞くために、そばにいたのだろうか。
「…あの…、俺。体大きく、鍛えたくて……。俺、小っちゃいし、細いから、あなたのように…、なりたいなって…」
そう言ってドズを見るゴナンは、表情はあまり変わらないものの、琥珀色の瞳は憧れの色に満ちている。ドズは、伸ばしっぱなしの茶色の髪のすき間から、錆色の瞳でゴナンを見つめる。
「……お前は俺が怖くないのか?」
「えっ?」
その質問に、ゴナンはキョトンとした。妙な反応だ。
「…いえ…。あなたは、怖い人には、見えない…、ので……」
「……?」
ここにいる誰もがドズを恐れているが、ゴナンにはどうしても、皆が言うほど非道で怖い人間には見えなかった。あの管理棟にいるグレイや、この坑内で見張りとして目を光らせている私兵達は、怖い。だが、ドズのボサボサの長い髪の間から垣間見える瞳は、眼光は鋭くとも、ゴナンには優しげで温かく感じられた。
ドズは、呆気にとられたようにゴナンを見る。
「ここに来て、そんなことは初めて言われた」
「…そう、ですか……?」
「だが、そう見えてしまうとしたら、俺はやはり、まだ許されないということだ…」
「?」
そうしてドズは、ゴナンの質問には答えず、岩を割る作業へと戻っていった。ゴナンは少しだけしょんぼりしつつ、そのまま、岩を割るドズの躍動する筋肉をキラキラした目で見ながら、石を集める作業に励んだ。
↓次の話↓
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