連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 8話「狼煙を上げる」(6)
<<第四章 8話(5) || 話一覧 || 第四章 9話(1)>>
第一章 1話から読む
8話 「狼煙を上げる」(6)
まったく怪しい素振りを見せないゲオルクだが、リカルドは試しに、声を掛けてみた。
「あなたは、卵は、探しているのかな?」
「卵? まあ、好物ではあるが…。もしや、この街の名産品なのか? 美味であれば、食してみたいが…」
その反応にまったく澱みがない。リカルドはさらに続ける。
「ああ、鳥がね、巨大な…」
「デカいニワトリなのか? その肉は食べられないのか?」
「…」
やはり、チラリとも反応しない。リカルドはいつもの薄く冷たい微笑みを浮かべた。
「あ、巨大というのは言いすぎだったな。クックーという、ニワトリより大きな鶏がいて、それは肉が美味なんだ。少し食べ応えがあって、うま味が強くて、オススメだよ。帝国ではあまり見かけなかったお肉だったように思うよ。僕は帝国もよく旅しているから」
「ほお、そうか。良いことを聞いたな。今日の晩飯はそれにしよう」
「…ゲオルク殿、呼び止めてしまい申し訳なかった。また、連絡する」
「ああ、待ってるぜ」
そう笑って席を立つゲオルク。ニッコリと棘もアクもない笑顔で挨拶をして去って行く。
「…どう見た? ナイフちゃん…」
笑顔でゲオルクを見送りながら、リカルドはナイフに確認する。
「そうね…。相手が百戦錬磨の軍人だってことを抜きにしても、彼が口にしたこと以上の含みは感じなかったけれども…」
「私も同じ印象だ。卵を追っている連中とは無関係のような気がする」
ディルムッドも同意し、リカルドも頷く。しかし、ゴナンは不安そうに3人に尋ねた。
「…そんなに安心してて大丈夫? 本当は悪い奴なんじゃないの? あんなことを言ってて、結局、ミリアを攫いにきたりするんじゃない? 帝国人なんでしょ?」
「…ん?」
ゴナンが初対面の人をいきなりそんな風に言うのは珍しい気がする。そういえば、席でゲオルクが話している間もずっと、憮然とした表情だった。リカルドはどういうことか少し考えたが、ああ、と納得した。
「…ゴナン、確かに君は今まで帝国人から嫌な目にばかり遭わされてきたから、エルラン帝国の印象がすごく悪いのかもしれないけど、かの国もとてもいい国なんだよ。国民の気質も国の雰囲気も王国とはまったく違うけど、その無骨さが逆に魅力だしね。違うのは当たり前なんだよ。なにせ違う国だから」
「……」
「…よく知らないまま、印象だけで悪し様に言ってしまうのは、愚かなことだよ。今度ゆっくり話してみると良いよ。それで本当に悪い奴や嫌な奴だと思ったら、まあ、仕方ないけどね。ふふ」
「うん…」
素直に頷くゴナンに、リカルドはニコリと笑って頭をなでる。と、ゴナンがナイフに尋ねた。
「…あの人が言ってた、ミラニアの戦士って?」
「ゴナンには教えていなかったわね。私はミラニアという地域の出身で、そこには独自に発展した体術を身に付ける戦士の一族がいるのよ。私もその一人。戦乱中は、一族で軍に味方したりしていたの」
「へえ…。ミラニアの戦士、かっこいいな…」
ゴナンは目を輝かせる。15歳の胸に刺さる呼び名のようだ。ディルムッドはふふ、と笑った。
「ゴナンも鍛錬を重ね強くなれば、その名が轟くだろう。ゴナンの故郷は、なんだったかな…?」
「…北の村」
「じゃあ、北の村の戦士か。いや、北の村の剣士? 北の剣士…」
「……」
どうにもゴナンにはピンと来ていないようだ。なんとも言えない表情になった。
========================
屋敷に戻った後、庭を借りて狼煙玉づくりに勤しんだ一行。
マリアーナも手伝い、ビクリ石や火薬の適切な量などをアドバイスしてくれた。ミリアの件で一時落ち込んでいたが、すっかり元気を取り戻し、皆も安心しつつも申し訳なく感じている。そして、そのミリアも興味深そうに狼煙玉作りを見学しているが、なんとか手伝わせないようにリカルドとディルムッドとで腐心していた。
「さあ、ゴナン。練習だよ。赤玉の方。火をつけてみて」
「うん」
ワクワク顔のゴナン、リカルドから火打ち棒を受け取る。
直径15cmほどに丸めた狼煙玉を地面に置き、リカルド自慢の『すごい火打ち棒』をこすって火花を落とす。火薬を纏わせた紙で包んでおり、ボッと着火すると、中の藁を通してボーカイの葉が燃え始め、すぐに赤い煙がもくもくと立ち起こった。
「うわ、すごい…!」
想像以上に煙の量が多く、思わず後ずさるゴナン。

「あらあら、いい感じね。色もこれだけ赤が出れば、大丈夫ね」
「しかも、結構、長時間、煙が起こりますね。一度に2、3個燃やす必要があるかと思っていたけど、この感じなら…」
リカルドも満足の出来のようだ。目を輝かせて煙を見上げるゴナンに、マリアーナがにこやかに教える。
「黒い煙の玉も作れるのだけど、材料の収集と準備に少し手間がかかるのよ」
「黒…? でも、色がたくさんあったら、合図の種類も増やせる、…んですよね? 材料、俺、集めます」
「あら、そう?」
意気高く申し出るゴナンに、いたずらめいた笑顔を見せるマリアーナ。
「ビッグベアの糞がたらふく必要なのだけど。しかもそれをしっかり乾燥させないと」
「…あ、糞…」
リカルドも横でクスクスと笑っている。
「まあ、今回は2色でも十分だよ。ビッグベアはこの地域には生息していないしね。さ、試作もうまくいったから、狼煙玉をたくさん作ろう」
そうして庭で皆、輪になって、狼煙玉づくりに勤しんだ。小器用に作り上げるゴナン、無難に作るリカルドとエレーネ、どうしても玉が大きくなってしまうディルムッド、なぜかきらびやかな飾りを付けたがるナイフ、そして、自分も作りたいがなかなか触らせてもらえないミリア…。
工作教室さながらの作業に、ゴナンだけでなく大人たちも、むしろ大人たちの方が、妙に楽しそうに集中していた。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
