連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 5話「凪の日に想う」(6)
<<第四章 5話(5) || 話一覧 || 第四章 6話(1)>>
第一章 1話から読む
5話 「凪の日に想う」(6)
庭の一角から、素振りの音が聞こえる。
見ると、ディルムッドの指導の元、ゴナンが木剣を振っているようだ。
(…よかった。流石に、いきなりそんな激しい鍛錬はしないわね。ディルも軍や騎士団で後輩や部下を指導することもあったでしょうから)
鍛錬の様子を見てホッとしたナイフ。ディルムッドはゴナンのフォームをチェックしながら回数をカウントしている。
「…よし、3000! 3001、3002…」
「…はあっ?! ちょ、ちょっと!」
素振りの回数がとんでもなかった。ナイフは慌てて止めに入る。
「ちょっと、ディル! ゴナンは病み上がりよ。いきなり素振り3000回超えなんて…!」
ナイフはゴナンの腕を押さえて素振りを止めさせる。しかし、ゴナンはまだ続けようとナイフに訴えた。
「…ハァ、ハァ…。ナイフちゃん。俺、大丈夫。こういうのは、疲れてきてからが大事なんだって、ディルが」

しかし、そこまで話したところで、ゴナンはドサリと倒れてしまった。
「あっ、ゴナン!」
リカルドが慌ててゴナンの元へと駆け寄る。ナイフは腕を組んでディルを咎めた。
「ほらご覧なさい、ディル!」
「も、申し訳ない…。ゴナンがあまりにも飲み込みが早く、しかも打てば響くというか、根性もありしっかりと食らいついてくるので、ついつい…」
「ついついって…」
やはりストイック同士、混ぜるな危険であった。エレーネがクスクスとこっそり笑いながら、ゴナンに飲ませるための水を取りに一旦、屋敷へと戻る。
「しかし、倒れるまで自分を追い込むなんて、常人にはなかなかできることではない。ゴナンは伸びるぞ」
「それはまあ、私もそう思うけどね…」
リカルドがゴナンのバンダナを外し、体をゆっくり横たえて、パタパタとあおいでいる。ゴナンはすぐに気がついたようだ。その様子を見ながらナイフは嘆息した。武を極めるには、このように限界を打ち破るような鍛錬も時には必要だ。そしてその域に至るまでには、壮絶な苦しみや自分との戦いがあるはずなのだが、鍛錬の初日で、これだとは…。
「…ディル。ゴナンはど根性少年だけど、恐ろしく自分の身を顧みない所もあるから、きちんと見てあげてね。自分で自分の限界が分からないタイプよ、多分…」
「…ああ、そのようだな…。気をつけよう」
と、エレーネが水を持って来る。リカルドがゴナンの上半身を起こして体を支え、エレーネがゆっくり水を飲ませた。
「…大丈夫? ゴナン」
心配そうに声をかけるエレーネ。すこしボンヤリとしていたゴナンだが、水を飲ませてくれたのがエレーネであることに気づき、ハッと覚醒する。
「…あ、はい。とても美味しい、です…」
「えっ?」
思わずリカルドとナイフは吹き出した。
===========================
ゴナンを客室のベッドへと運んで寝かせ、その寝顔を見つめているリカルド。病気で寝込んでいるときと違って、達成感に満ちた清々しさが感じられる、健やかな眠りだ。
(……楽しそうだな…。やっぱりゴナンには、こういう生活の方が合っているのかもしれない…)
溢れる好奇心に応える知識や学びを与えてくれる先生に、様々な世界へ誘ってくれる書物、ゴナンの体調を見てくれる薬師、彼の少年らしさを引きだしてくれる快活な友人、争いとは無縁の平和な土地、そして飢え知らずの豊かで美味しい食べ物と水…。全てが、揃っている。
(ゴナンは鳥と卵探しが一番だと言ってはいたけど、それは、あの何もない小さな世界しか知らなかったときの話だ。彼の人生にとっては、巨大鳥や卵の伝承なんて、本当はさして意味をもたらすものではないんだ)
そう頭では理解していても、リカルドはそれ以上、思考を進めたくはない。それが自分のワガママだと分かっていても。
と、「んん…」とゴナンが寝言を言って寝返りを打った。そしてベッドの隅の方へと体を丸める。無意識のうちに、リカルドが寝るスペースを空ける習慣が身についてしまっている。その姿を見てリカルドは首を横に振った。もう、このことを考えるのをやめよう。
「……」
リカルドは、ベッドの隅に動いたゴナンを、じっと真剣な表情で見ている。
数分後。
「ねえ、リカルド。ゴナンを休ませる前に、体の筋をしっかり伸ばす運動をさせて。そうしないと、疲れが溜まって筋を痛めちゃうかもしれないから」
そう言いながらゴナンとリカルドの客室に入ってきたナイフ。そして目の前の光景に、呆れる。ゴナンが空けたベッドのスペースにリカルドが潜り込み、一緒に昼寝をしようとしていたのだ。ナイフは苛立った表情でリカルドの頭をはたいた。
「いた」
「…ちょっと、なんでそうなるのよ!」
「だって、ゴナンの隣が心地良さそうだったから…」
「休ませるなら、ゴナンを一人でゆっくり寝かせてあげなさいってば」
そう言ってリカルドをベッドから引きずり出すナイフ。そんな騒動を部屋の外から見かけたエレーネは、ふふっと微笑んだ。
外では小鳥がチュンチュンとさえずっている。天気は晴天。昼を過ぎて、少しだけ傾き始めた日差しがあちこちの窓から差し込み、屋内をまばゆく照らしている。ゴナンは2人の騒動に一瞬だけ目を覚ましたが、またウトウトとまどろみ、眠りに入っていく。
「…なんだか、平和ね…」
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
