連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(1)
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6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(1)
それから、穏やかな日々がしばし続いた。
リカルドはエレーネとともに、馬であらかじめ水場の下見に回っていた。たまにナイフも同行。ゴナンはといえば、青空教室での勉強やディルムッドとの鍛錬、マリアーナから薬草のことを学んだり(ゴナンが薬草の見分けが上手なことに、マリアーナはいたく驚いていた)、そして書斎での読書など、ほとんどの時間を街で過ごし、いろいろと忙しそうだ。
そして、エドワードや他の少年達も、ゴナンと遊びにやってくる。最初こそ少しつれない対応だったゴナンだが、とにかく人懐っこく明るくてよくしゃべるエドワードがものすごい勢いで距離を縮め、ゴナンの心を開いていった。じきに、「お邪魔しまーす」のエドワードの声に、ゴナンは嬉しそうに瞳を輝かせるようになった。リカルドは少し寂しそうにしつつも、充実した日々を過ごすゴナンを温かく見守っている。
ミリアも、友達になった女の子達とおしゃべりをしたり、『あなユラ』を読んだり。そうこうしているうちに1週間がのどかに過ぎていった。
そんなある日の朝食の時間。
「…ゴナン、ちょっと食欲がないんじゃない?」
リカルドはゴナンの様子に気づき、声をかけた。頷くゴナンの額に手を当てる。
「…ああ、やっぱり、熱が出ている」
「え?」
ナイフが驚きの声を上げる。ディルムッドも心配そうにゴナンを見つめた。
「今朝の鍛錬も少し元気がないように感じたのだ。もしかしたら無理をさせてしまったのが障っているのだろうか」
「俺は大丈夫だよ」
ゴナンは例によって強がるが、やはり少し顔色が悪い。リカルドはゴナンの脈を取る。
「でも、熱は以前ほどひどくはないようだね。咳もゼイゼイ息も出ていないし…。お腹が痛かったりはしない?」
「うん、大丈夫」
「そろそろ、また何か症状が出るのかなと思っていたんだ」
「?」
そういうリカルドに、ナイフが不思議そうに尋ねる。
「どういうこと? 何か原因がわかったの?」
「いや、原因ってほどではないんだけど…。ゴナンは新しい環境に着く度に、その場所の『街の空気』の影響を受けてしまって体調を崩すんじゃないかと思ってね」
「街の空気…」
そう呟くゴナンに、リカルドは頷く。
「ストネは人の多い賑やかな街で、すごく高熱が出ただろう。ツマルタや鉱山はほこりっぽい場所だったから、熱に加えて咳が出たりゼイゼイ息になったりしたのかなって」
「で、このウキの街でも?」
「うん。この街は自然豊かでのどかで人口は多くないし、きっと空気も綺麗だから、そんなにひどい体調不良にはなっていないのかもしれない。でもやっぱり多少は影響を受けちゃっている感じかなと」
「あらあら、なるほどねえ」
リカルドの話にマリアーナが同意する。
「そういうことがあるって聞いたことはあるわ。ただ、ちょっとくしゃみや咳が出たり、肌がかゆくなったりする程度で、ゴナンさんみたいに高熱が出るようなひどい症状になったような話ではなかったけれど」
そう言って、「熱冷ましを準備してくるわね」と席を立つマリアーナ。
「さあ、ゴナン。熱は高くないけど、今日は念のため休んでおこう」
「大丈夫なのに…」
渋々といった顔をするゴナン。今日もエドワード達が遊びに来るかもしれないからだ。畑の手伝いがあるはずのエドワードだが、青空学校がない日でも毎日のようにゴナンを訪ねてくるようになっていた。
「ダメだよ。もしかしたら今から高熱になるかもしれないし、こじらせちゃったら大変だからね」
「うん…」
「今日は僕も屋敷にいるから。薬を飲んでゆっくり休んで、ね」
そう言いなだめるリカルドに、ゴナンは素直に頷く。食事の片付けを他の皆に任せ、個室へと向かった。
と…。
「お邪魔します! ゴナン、来たぜ!」
と、玄関から元気のいい声が聞こえてくる。エドワードだ。ジョージがため息交じりにエドワードに声をかけた。
「朝から騒々しいなあ。こんな早い時間に来るなんて。畑の手伝いはどうした?」
「だって、早くゴナンと遊びたくて。ウサギを獲るところを見せてもらう約束をしていたんです。あ、ゴナン、食事は終わった? もう出られるか?」
「エド。あ、ええと…」
エドワードの誘いに、ゴナンは言葉を詰まらせる。その様子にエドワードは感づいたようだ。
「あれ、何か元気がないな? 大丈夫か?」
「うん。でも、薬を飲めば、大丈夫…」
「そうか、じゃ、薬飲んだら行こうぜ」
そう言ってゴナンの腕を取るエドワード。しかし、リカルドがダイニングから出てきて2人を止める。
「ゴナン、ダメだよ。熱が出ているんだから、今日は安静にしていないと。エドワードくん、ごめんね」
「でも、ゴナンは大丈夫だって…」
ゴナンと遊びたくてたまらないエドワードは、リカルドに食い下がる。リカルドは冷たい微笑みを浮かべた。
「…エドワードくん。ゴナンはあまり体が丈夫ではなくてね。熱はそんなには高くないけど、大事をとって休ませたいんだ。申し訳ないけど…」
「…」

少し不満そうな表情を浮かべるエドワード。ジョージがため息をつきながら、そんな少年の態度を諫める。
「エド。聞き分けが悪いぞ。ゴナンを大切に思うなら、今日は諦めなさい」
「…はい…。申し訳ございませんでした…。ゴナン、ごめんな。またな」
「…うん…。来てくれたのに、ごめん…」
「また明日来るよ! 元気になってたら、遊ぼうぜ!」
そう元気に約束をして、エドワードは帰っていった。少し寂しそうにその後ろ姿を見送るゴナンに、リカルドが申し訳なさそうに声をかける。
「ごめんね、ゴナン。でも…」
「…大丈夫。分かってる。それに、明日って約束してくれたから…」
「…そうだね。今日はしっかり休んで、早く治そう」
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