連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 6話「巨大樹の街」(6)
6話「巨大樹の街」(6)
翌日より、ゴナンはこの野営地からエルダーリンドの中心街に通っては、宿屋街を中心にウロウロとした。リカルドがこの街に着いたら、まずは宿を探すだろうと予想してのことだ。
宿屋を巡っては、黒髪のリカルドという男性が泊まっていないかを聞いて回り、ついでに働かせてほしいとも頼み込んでみたが、やはりゴナンの風貌を見て眉をひそめられ、断られる。リカルドが買い物好きだからと土産店も回ったが、同じ結果だった。
(……服もベストも、水でしっかり洗ったのにな…。ミリアの刺繍がある服だから、きちんとオシャレなものなのに…)
取り急ぎ、手持ちの金で必要最低限の日用品は買えそうだ。石けんやハブラシ(今までは木の枝をほぐしたもので磨いていた)など、衛生面を整えられるものを中心に雑貨店で購入する。干し肉類を入れられる通気性の良い袋も買った。やはり普通の街で買うよりも割高ではあったが、仕方が無い。
道中、土産物屋が並ぶ一角に、食べ歩きの屋台があるのを見つける。焼きたての香ばしい香りを放つパンが売られており、ゴナンは穀物の魅力にあがらえずに1つ買ってしまった。やはり高い。一番安い黒パタ粉のパンでも1個50アストもする。
(……でも、おいしい…)
成長期、炭水化物はたまらない。ゴナンはパクパクとあっという間に食べてしまった。しかし、50アストを一瞬で溶かしてしまった気持ちになり、罪悪感が残る。

(……なんとかして、お金を少しでも稼がないと…。しかも、この街にいながら…)
違う街に行けば、やりようもあるのかもしれないが、ここでリカルドを待つことが当面の目的だ。まだ、働かせてほしいとお願いに行っていないお店を探すか…、などとしばし思案したが、ふと、思いついたことがあった。
(……そうだ…。ダメ元で……、やってみよう……)
* * *
その翌日。
「…こんにちは……」
ゴナンが訪れたのは、最初に干し肉を売ろうとした食材屋だった。細身の壮年の店主が声をかけてくる。
「……あれ、君、まだこの街にいたの? 巨大樹を見に来たってんなら、この街は1泊で十分だろう?」
「はい、あの…、買い取ってほしいものがあって……」
そう言って、ゴナンは頑張って大人っぽい自信ありげな表情をつくる。顔も全身も石けんできちんと洗ってきた。上衣もベストもズボンもバンダナだって、石けんでしっかり洗った。十分に乾く前に着てきたので、少ししっとりとはしているが、前よりはこぎれいに見えるはずだ。少しでもオシャレに見えるようにと、ミリアの刺繍がある左腕側を少し前に向けるように立ってみる。
店主は、その不格好な刺繍をなぜか見せつけてくるゴナンに戸惑いながらも、呆れたような表情を見せた。
「君も懲りないなあ。だからさ…」
「あ、あの…、これ……」
そう言ってゴナンが差し出したのは、一羽のウサギだった。しかもまだ、しめる前。ウサギはバタバタと暴れている。
「?」
「あ…、あの…、肉が、衛生面とか、古くないか、心配だとおっしゃっていたので、この、生きたままなら、ちゃんとした新鮮な肉だって、安心していただけるかなって…」
「……」
「これ、罠猟で獲っている、ので、生きたままで、お肉も内臓も痛んでいないので、ス、ストレス?もかかっていなくて、美味しいかと……」
ゴナンは一生懸命、自分が獲った獲物の魅力を説明する。その話を聞き、じっとウサギを見て考える店主。
「……あの…」
「……50アストだな、1羽」
「……!」
「しかし、しめてさばくのは手間だな…。うちはいつも処理済みのを仕入れているんだ」
少し面倒くさそうにする店主。ゴナンは背筋を伸ばして、申し出る。
「あ、俺……、さばけます。キレイに」
「……」
疑いの目でゴナンを見る店主。しかしふう、と息をついた。
「…じゃあ、俺の前でさばいて見せて。ひどい有様になったら買い取らずに持って帰ってもらうからな」
「…はい、あの…」
「?」
「……上手にさばけたら、その、作業料も…」
そう、おずおずと店主を見るゴナン。店主はもう一度息をついた。
「……分かったよ。キレイにさばけたら、プラス10アストだ」
「……!」
ゴナンは嬉しそうな光を瞳に宿し、店の奥の厨房へと足を運ぶ。そして店主の前で、ナイフを使ってさばき始めた。手際よく血抜きし皮を剥ぎ、キレイに内臓を外していく。
「…あの…、手足は外しますか? 丸のままに、しますか…?」
「あ、ああ…。ひとまず丸のままで頼むよ。得意先に丸焼きが名物のレストランがあるんだ」
それを聞いて、そのまま洗浄して、肉を見せるゴナン。
「あの…、どうでしょうか…?」
「……上手なもんだな。十分だよ」
「……!」
ゴナンが嬉しそうな表情をしたのを見て、店主は少しだけ表情を崩した。そして、ゴナンが持つナイフを見る。
「…なかなかいいナイフを持ってるじゃないか」
「……あ、はい……」
「よこしな」
そう言って店主はゴナンからナイフを取り上げ、店の裏口から外に出た。
(しまった、盗られた……?)
ゴナンは慌てて追いかける。
「それは、大事なナイフで…! それに、盗られてしまうと、野宿もできなくなる…」
「ん?」
しかし店主は、裏の水場でナイフを研石で研いでいた。
「あ……」
「これ、随分長く研いでないんじゃないか? 刃がガタガタだったぞ。この状態で、よくあんなにキレイにさばけたな…」
ひとしきり研いで「よし」とチェックして、ゴナンにナイフを返す店主。
「これでもっと作業しやすくなるよ」
「……、ありがとうございます。……あの、俺、もっとウサギ、獲ってきます…!」
ゴナンは嬉しそうにそう申し出て、飛び出そうとする。この少年がどうやら狩りが得意で、この調子だと獲れる限り持ち込みそうだと感づいた店主は、慌てて声をかけた。
「…待て、君! ウサギは1日3羽までだ! それ以上あると、持て余してしまうから!」
ゴナンは無言で頷いて、足取り軽く店を飛び出した。
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