連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 6話「巨大樹の街」(5)
6話「巨大樹の街」(5)
街の方に戻り、寝られそうな場所を探すゴナン。
テントを持っていないので、できれば夜露を避けられるよう、屋根がある所で寝たかった。ストネでそうしたように、建物の裏手の軒が長い場所を探す。やがて、通りの裏手の奥まった暗い場所で、うってつけの軒下を見つけた。
(よし…。今日は早めに休んで、明日また、働ける場所を探してみよう……)
もう日が落ちて、夕方から夜へと移りつつある時間帯だった。干し肉を一個食べると、腰袋を枕にして毛皮にくるまり、横になる。今日は天気が良く月も明るいが、建物の角度が悪くて彼方星は見えない。ゴナンの目に月光はまぶしすぎて、そのまま目を閉じて眠りに入った…。
……が、1時間も経たないころ。
「おい、ここで何やってるんだ!」
男性の声でゴナンは飛び起きた。見ると、エプロンを身につけたふくよかな壮年の男性が立っている。ここは、この男の店の裏口あたりのようだ。
ゴナンは慌てて立ち上がる。
「すみません…。あ…の…。俺、泊まるところがなくて…。ここで一晩、寝させてもらえませんか…?」
「はあ?」
「もし、宿代が必要なら…、あの、少しなら、お金を、払うので…。この場所を、貸してもらえれば…」
男性はゴナンの装いをジロリと見る。袖に不細工な繕いと不格好な刺繍のある服が目に留まる。まともな服を買えないような小汚い雰囲気。首を横に振った。
「勘弁してくれよ、うちは飲食店なんだ。裏口とはいえ薄汚い小僧が眠っているのを見られたら、客に逃げられちまう」
「…あの、ひっそりと…、おとなしく、してますので……」
「ダメだ! 出て行ってくれ! 営業妨害だ!」
男性はしっしと虫でも払うような仕草をする。仕方なくゴナンはシュンとして荷物をまとめて、その場を離れた。
「…他の店に同じようにお願いしても、無駄だからな。この街は貴族も多く来られるんだ。お前みたいなのが居着いて貴族に避けられたら、商売の邪魔だからな!」
「……」
そう言われて、ゴナンはペコリと頭を下げて、その場を立ち去る。目が覚めきらず、まだ少し頭がボンヤリとしている。
(追い出されちゃった……)
肩を落としとぼとぼと、あてもなく歩くゴナン。ストネの街で同じような状況になったとき、ゴナンを拾ってすぐにご飯をお腹いっぱい食べさせてくれて、あんなに気持ちのいいベッドに寝せてくれたナイフを思い出し、泣きそうな気持ちになっていた。
(でも、よく考えたら、あそこもお店の一部だから、仕方ないな…。勝手に入った俺が悪かったんだ……)
うなだれすぎて、地面を見ながら歩く格好になっているゴナン。
(馬車で来る途中、街の外れに、森があった気がする。そこで野宿をしよう。水が飲める場所が、あるといいけど…)
* * *
もうすっかり夜。ルチカがくれた発光石の照明を照らしながら、エルダーリンドの中心地を離れて南に30分程歩いた場所に、運良く湧き水の小さな泉があった。そこは、森というほどではないが、数本の木が生えており、なんとか落ち着けそうだ。
人通りは全くなさそうだが、誰かの土地ではないかを慎重に確認して、ここで野営をすることに決めたゴナン。落ち枝を拾って小さな焚き火を作り、小鍋に水を注いで温めて、口にした。また、夜は寒さが厳しくなってきている。今から枝葉でテントを作る余裕はないので、なるべく葉が茂っている木の下に陣取り、羽織った毛皮でギュッと体を包む。
(大丈夫…、ひとまずこの街でできることを考えよう。リカルドが来るまで。大丈夫、俺は大丈夫……)
ぐっと顔を上げて、そして彼方星を探すゴナン。他の星々よりも激しく光る赤い光を見つけると、少し心が落ち着く。と、ふと、その反対側にある遠くの大きな影に、目を遣った。
そこでは皓々とした月を背負って、巨大樹が大きな枝を無遠慮に広げている。影絵のように冥い色でそびえ立つその姿が、物言わぬ巨大な屍のように見えて、ゴナンはゾクリとした。

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