連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 9話「どちらが先か」(2)
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9話 「どちらが先か」(2)
リカルドとゴナンの持ち場エリアには、馬で10分程で着いた。ひとまず一番大きな泉のほとりで馬を降りる。周辺には背の低い草花がたくさん生え、蝶が舞っている、見通しの良い場所だ。頬をなぜる風も気持ちいい。
「ここを拠点にして周辺を回ろうか」
と、リカルドは、少し楽しそうにしながら敷き布に折りたたみ椅子やテーブルを置いて、お茶なぞを出している。
「…なんだか、リカルドの荷物が多いなあとは思ってたけど…」
「『拠点』づくりは大事だよ。だって、どうせなら楽しく待ちたいじゃないか。ほら、エレーネがお茶を淹れてくれたんだよ。火を焚いても良いけど、さすがにね」
水筒に木のカップまで並べ始めるリカルド。ゴナンとのピクニック気分だ。むしろ、このまま野営までできそうな勢いである。流石のゴナンも少し呆れている。
「こんなに、のんびりしていいの?」
「まあ…、流石に今日はまだ来ないよ。ちょっと早いような気もするから」
「ふうん?」
馬を繋いだゴナンは、リカルドに誘われるまま椅子に座る。そして、エレーネのお茶を美味しそうに口にした。
「あれ、弓矢を持ってきているんだね?」
リカルドが、ゴナンの持ち物を見て気付いた。
「うん、時間があったら、弓を引く練習をしようと思って。まだ矢は全然まっすぐ飛ばないから射てないけど。でも、投げ縄の練習の方が先みたいだな」
「ああ、でも、獲物を射る練習をしてみるのも良いかもしれないね。リコルルは獲ったことある? あ、でもあんなに小さい生き物は、流石に弓矢は無理か」
「リコルルって、見たことない…」
「あ、そうか。あれは、北の村付近は生息地ではないからね」
リカルドは周囲をキョロキョロ見回し、ボーカイの木が生えていないかを探したが、この付近にはなさそうだ。
「ボーカイの木の近くに巣をつくる習性がある小動物でね。見た目は…、こう小さくて、尾が少し長くて…。ああ、説明が難しいな。屋敷に戻ったら書斎で図鑑を探そうか。木の実や草を食べるからか、お肉の風味も少し実の感じがするんだ。とっても美味しいんだよ」
「へえ。食べてみたいな」
「この前行った、あの、あそこの近くはボーカイが生えていたね。あの…」
「…遺跡…?」
「うん、そう…」
遺跡の話題になると、リカルドの表情がまた少しボンヤリとした。ナイフから、リカルドのおかしな様子は壁画の「大樹」がネックのようだと教えてもらっているゴナン。
「…大丈夫?」
「…うん…」
リカルドは散っていきそうになる意識をなんとか留めるように、ぐっと目を閉じる。
「…ゴナン…。僕のこの、変な感じがね、その、原因のモチーフが何かは、ハッキリしているだろう?」
「うん」
「…僕はこれがね、ユーの呪いと何か関わりがあるんじゃないかと、思っているんだ…」
「……!」
ゴナンは、目を閉じたまま話すリカルドの表情をじっと見守る。
「巨大鳥の研究はさておいて、もしかしたら、僕の願いを叶えるにはこっちの方を追う方が近道かもしれない。そうなると、エルダーリンドの街が鍵になる気がするんだけど…。あの、あれが、あるから…」
「…巨大樹…」
「…」
リカルドはさらに目をぐっと閉じて、唇を噛む。脳が巨大樹のことを考えることすら拒否しようとしているのだ。
「…俺は、リカルドについて行くよ。目的地がどうなっても」
「ありがとう…。でも、ゴナンは鳥を追った方がいいのかもしれない。…僕と一緒に来たら、君の望みは叶わなくなってしまうから…」
「…」
「…いや、そもそも、鳥なんか追う必要はない。君はきっと、ウキの街で過ごした方が、幸せに生きて行けるんじゃないかと、僕は思うんだけど…」
「……」
「…ゴナン、どうだろう…」
「…」
「…ゴナン?」
ゴナンからの反応がない。不思議に思い目を開くと、隣の椅子にゴナンの姿はなかった。見回すと、少し離れた場所で空を見ている。リカルドは、自分の今の話がゴナンに聞こえていなかったことに、少し安堵した。
「ゴナン、どうしたの?」
「…リカルド…。白と赤の、2本の煙…」
「えっ?」

リカルドは慌てて立ち上がった。白と赤の2本は「巨大鳥が見つかった」合図だ。方向的にはナイフの持ち場である。
「…まさか、もう来るとは! いや、予想がピッタリ合っていたということで喜ぶべきなんだけど、せめてゴナンとゆっくりピクニックする時間は欲しかったなあ…」
そうこぼしながら、馬へと向かうリカルド。
「リカルド、片付けは?」
「後で良いよ。とにかく、急ごう!」
急ぎ馬を解き、乗馬して、2本の煙の方へと向かっていった。
* * *
「ナイフちゃん…!」
煙のふもとにナイフの姿があった。リカルドとゴナンは念のため、馬を歩かせて静かに近づくが、周辺に鳥の姿は見えない。
「ああ、来たのね。ゴメンナサイ、すぐ飛んで行っちゃったわ」
そう肩をすくめるナイフ。と、すぐにディルムッドも馬でやってくる。
「最初の泉に向かっていたらね、いきなりいたのよ、巨大鳥。地上で見ると、本当に大きくてビックリしたわ」
馬を降りた3人に状況を説明するナイフ。
「で、少し離れたところで馬を降りて、狼煙を上げて、そしてそおっと近づいたんだけど、ちょうど水を飲み終わったタイミングだったみたいで、すぐに飛び立っちゃって。でも、鳥の背に女の子が乗っているのも見たわ。卵男と同じ柄の服を着てたわね」
「…!」
3人は顔を見合わせる。
「まさか、今日、いきなり出会えるとはな。リカルドの予想の精度の高さは、恐ろしいほどだな…」
「お褒めにあずかり光栄だけど、正直、先生からのヒントがなければ行き詰まっていたからね」
感心するディルムッドにそう微笑むリカルド。
「でも、もしかしたらこの周辺の水場を回るかもしれないね。よし、もう一度散って…」
リカルドが今後の計画を立てようとしたときである。
ビュン、と空で風を切る音がしたかと思えば、4人の前に空から何かが舞い降りてきた。巨大鳥…、ではなく、これは…。
「…ルチカ…!」
「あれ? なんでここにいるの?」
それは、機械の翼で空から降りてきた、白に近い銀髪の華奢な美青年・ルチカであった。
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