連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 9話「どちらが先か」(3)
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9話 「どちらが先か」(3)
ルチカはゴーグル越しに、色素の薄い灰青の瞳で4人の姿を見て、少し不機嫌な顔になる。
「人為的な煙が見えたから何だろうと思ってきたら、まさか皆サマだったとはね」
「ルチカ…。君は鳥を追いかけてきたの? というか、やっぱり、空を飛べるんだね。帝国のオルステッド村に行っていた?」
「『やっぱり』?」
尋ねながらもリカルドは、ルチカが装備している機械をワクワクと見る。背中には、底に2本の円筒がついた大きな箱のようなものを背負っている。翼部分は今は折りたたまれているようだ。
重いのか、ルチカはその機械を背中から外すと一旦地面に置いた。伸びる棒を取り出して、機械に引き寄せられるかのように目を輝かせて近づいてくるリカルドを牽制する。
「そちらこそ、もしかして巨大鳥を待ち伏せ? なんで鳥がこの場所に来るって分かったの? なんで私が飛べることを知ってたの? しかも帝国にいたことまで知ってた? ミリアさん、の普通の影武者さん、だったっけ?は、いないの? エレーネさんもいないけど、この付近にいるの? この地域に街はある?」
「え、と…、まず、質問が多いよ」
早口で尋ねてくるルチカに、リカルドはひとまず落ち着かせるようなポーズをとる。そして、最初の質問が何だったかを思い出そうとしたリカルドの脇から、ディルムッドがものすごい勢いでルチカに襲いかかった。
「…ちっ!」
ルチカを拘束しようと動いたディルムッドだったが、ルチカは反応し棒を伸ばして、ディルムッドの手を捌く。その勢いで一瞬前のめりになったディルムッドの顎を、ルチカは蹴り上げた。
「…!」
非力なはずのルチカの蹴りによって、ディルムッドの体が後ろに飛ぶ。そのままドスンと倒れたが、受け身をとっているようだ。

「ちょっと、ディル。あなた、あの細っこい子に、何、蹴り飛ばされてるのよ」
「ああ、すまない…。余りにも的確に急所を狙われた…」
ディルムッドはすぐに起き上がる。自分とさして体格が変わらないルチカがディルムッドを蹴り飛ばす、その様子をゴナンは信じられない面持ちで眺めている。とはいえ、蹴り飛ばされたというより、喉仏を狙ってきた蹴りのダメージを軽減するため後ろに飛んだようだ。しかしルチカの身のこなしも蹴り技も常人の技ではない。
「ほんと、えげつないわね、いつも。ケンカ慣れしすぎ」
「だから、体格の不利は技術で補ってるんだってば、ナイフちゃん」
ルチカは厳しい表情のままでナイフに視線を遣る。そしてディルムッドに棒を突きつけた。
「ていうか、ディルさん、いきなりすぎない? まあ私も、やられなくてもやる気だったケドさ」
「私は、貴様を捕らえなければならないと思っている」
「はあ?」
相変わらず真っ正面から宣言しながら、ルチカにぎっと殺気を向けるディルムッド。ルチカは煽るような表情で首を傾げた。
「私は騎士様に捕らえられないといけないようなことは、何もやらかしてませんケド。あ、この前、ミリアさんの普通の影武者さん?を攫おうとしたこと? あれは未遂だったんだから、いいじゃん」
「…貴様は、なぜあのような武器を作り、携え、使っているのだ!」
「武器?」
「…あの、アーロン殿下とキールの命を奪ったものと、よく似た武器だ」
「……ああ。これのこと?」
そう言ってルチカは、袋から例の武器を取り出す。さっと警戒する一同。ゴナンはその武器をじっと見る。
「…訊かれたから出しただけじゃん、撃ちやしないよ」
「貴様は殿下の友人だと思っていたのに、どのような神経でそれを扱っているのだ。そもそも、城に出入りしていたのも、もっと他の目的があったのでは。あの襲撃事件に、貴様も関わりがあるのではないか?」
「はあ?」
ディルムッドの詰問に、眉をひそめるルチカ。しかし、ふう、と息をついて答える。
「…別の目的は、あるにはあったよ」
「やはり…!」
ディルムッドは再び動き、ルチカを捕らえようと襲いかかった。しかしルチカはさっと身をかがめると、棒でディルムッドの脛を打ち、さらに膝を横から突いた。少しよろけ、動きが止まるディルムッド。ルチカは少しだけ距離を取る。
「ディルさん、頭に血が上りすぎだって」
「…私も同じ意見よ、ディル。ちょっと落ち着いて」
ナイフもディルムッドを諫める。「…申し訳ない」と自分を抑えるように一瞬、目を閉じ息を吐くディルムッド。
「目的って言っても、機械士の仕事で呼ばれたついでに、巨大鳥や卵の情報が王城に隠されてないかなって思ってた程度だけど。でも、おとぎ話以上の話をする人はいなかったし、さすがに書庫や王様の書斎なんかには忍び込めなかったから、ちゃんと全部は調べられてはないけどね」
「…以前からずっと、鳥を探しているの?」
ナイフがルチカに尋ねるが、ルチカは冷めた目で一瞥する。
「…それを教える義理はないんだけど、ナイフちゃん」
「答えろ、ルチカ。どういう思いで、お前はその武器を」
「…あのねえ! ディルさん、私のこの空気砲のほうが『先』なの!」
詰め寄るディルムッドの言葉に被せるように、ルチカは大声でいらだたしげに答えた。
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