連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 9話「不自然な自然」(5)
9話「不自然な自然」(5)
食後、ゴナンとリカルドが泊まる部屋に集まった面々。ついでにと、ゴナンはミリアの痺れを治すべく左手をさすってあげている。少し伏し目がちにゴナンの『治療』を受けるミリア。
そうしながら、ゴナンはあの遺跡そばで巨大鳥に乗ってから、ラギオン宅の近くの泉で別れ、再度、少女が乗った巨大鳥が来たときのことなどを説明をする。例によって、自分がひどく落ち込んだことや溺れかけたこと、熱を出したことやラギオンから理不尽な扱いを受けたことなど、心配をかけそうなことは話さないが。
「……寒くなると、巨大鳥が動けなくなる……?」
少女コチがゴナンにポロリと漏らしたらしいその言葉に、リカルドは反応した。
「…ということは、冬の間は巣ごもりをするのか? どこかに冬眠をするのか、それとも故郷に帰ってしまうのか……?」
「コビナ衆国の気候は、ア王国とあまり変わらないわよね? 鳥の故郷が衆国だと仮定すればだけど……」
エレーネが付け加える。リカルドは腕を組んで考える。
「そうだね…。奥地の未知の地域はわからないけど。いずれにしろ、今、この地域から衆国に戻ろうと飛び立つにしても、気流に乗ったとしても冬の到来には間に合わない…。ということは、この国のどこかに留まるのかな…。それなら、僕らにとって大きなチャンスではあるけど…」
そうして、ベッドの上に腰掛ける隣のゴナンをじっと見る。
「…その、ゴナンが乗っている間は『汚されていなかった』という、なんとも意味ありげな表現も気になるね。ミリアが乗っている間も汚れなかったということだよね。どういう意味だろう…」
「コチもシマキも未成年のようだし、もしかしたら、子どもなら乗れる、ということなのかもしれないな」
ディルムッドが分析する。
「そうね。もしくはまだ、処…、っと…」
「……」
ナイフは口を押さえる。
「…失礼。その、まだ、清い身体であるとかも、関係があったりして」
含み笑いする大人たち。リカルドは面白そうな表情で、妙に饒舌になる。
「まあ、そういう神話が残る国もあるよね。清い乙女しか出会えない、ツノの生えた馬がいるとかね。その論理でいくと、僕が乗ったらドロッドロに汚れてしまうのかもしれないなあ、巨大鳥は」
「まあ、お大尽が何のご自慢かしら? お金かけて娼館巡りしてるだけの分際のくせに」
「ナイフ、リカルド…」
青少年2人を置いてけぼりにした会話を、朝っぱらから喜々として続ける2人に、ディルムッドがおほんと咳払いをする。

「………失礼。一瞬、『フローラ』のカウンターで飲んでいる心地になっていたようだ…。それはともかく、彼らが巨大鳥の行き先を徹底して明かさないということは、きっと鳥の行く先に卵が繋がっているということだ。その、冬の『動けなくなる』時期を、できれば狙いたいね」
「ひとまずは、もう少ししたら現れるはずの、例の壁画の遺跡周辺で待ち伏せね」
「ゴナン、今日はウサギは獲りにいかなくていいの? 食材屋さんがとても褒めてくれていたじゃないか」
エレーネが遺跡の件を出した途端、またリカルドが話題を変えた。ふう、とため息をつくナイフ。
「…そうだった。この変な挙動の解明もしたいんだったわね。リカルドは巨大樹には行けたのかしら? ゴナン」
尋ねられてゴナンは、ミリアの左手をさする手を少し止めて、首を横に振る。
「いや…。一昨日、一緒に行こうとしたんだけど、途中で歩けなくなって、それでも無理やり目を瞑らせて引っ張っていって、巨大樹が見える場所で目を開いたんだけど、その途端に倒れて、気を失っちゃって…」
「……!」
「…樹はちゃんと見たはずなのに、どんな姿だったか、記憶に残ってないって…」
「そうなのね。相当に深刻ね…」
ナイフは、またボンヤリとした表情になっているリカルドを心配そうに見た。と、ディルムッドがそんなリカルドに声をかける。
「時間が経ったとはいえ、リカルドはまだ、傷の痛みが残っているのでは? その影響もあるのではないだろうか?」
「……あっ!」
リカルドとナイフは声を揃える。すっかり「ケガがひどいフリ」をすべきなのを忘れていたのだ。ナイフに至っては、全力の鉄拳を2発も見舞ってしまっていた。リカルドは急に前屈みになる。
「……あ、いたたた。そうそう。ああ、痛いなあ……」
「……」
少し不思議そうにリカルドを見るディルムッドとミリア、エレーネ。ナイフが慌てて話題を変える。
「さ、そういうわけで、リカルドは無理して巨大樹に近づけない方が良さそうだし、私達で樹を見に行きましょ。せっかくだから、有料ゾーンに入って樹に触ってみましょうよ」
そうして、ゴナンに未だ手をさすられているミリアに顔を向ける。
「ね、ミリアも樹を間近で見たいでしょう? お兄さんも来たっていってたじゃない?」
「ええ、そうね。ゴナンも行くかしら?」
「うん…」
正直、樹に触れるためだけに1200アストも支払うのは気が進まなかったが、ミリアがとても行きたそうにしているのを見ると、断れなかった。頷いたゴナンを見て、ミリアは嬉しそうにする。
「楽しみだわ、とてもとても大きな樹」
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
