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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  9話「不自然な自然」(6)


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9話「不自然な自然」(6)


 そうして、リカルド以外の5人で巨大樹に向かっている。ミリアは土産店や飲食店など、観光地ならではのお店が珍しいらしく、キョロキョロと見回しながら歩いている。ゴナンは慌てて声をかけた。

「ミリア、あんまりフラフラ歩くと危ないよ。前を見ないと、人にぶつかっちゃう」

「あら、ありがとう。ゴナン」

「貴族にぶつかったら、蹴られちゃうから。気をつけて」

「……!」

 ゴナンが何気なく言ったその言葉に、一同がはっとゴナンを見る。

「ゴナン。貴族にぶつかって、蹴られたのか?」

 ディルムッドが険しい顔で尋ねてくる。

「……あ、うん…。でも、俺も、よく見てなくて…。シシャク?の護衛の人の前に出ちゃって、こけちゃって、道を塞いだっていわれて、それで……」

「蹴られたって、どの程度?」

 ナイフも心配して尋ねてくる。ゴナンは下を向き答えない。ゴナンが答えたがらないということは、結構、手ひどくやられたということだろう。ディルムッドはちっと舌打ちをして、言い捨てる。

「どこぞのなにがし家かは知らぬが、子爵風情が、随分とお偉い態度を取るものだ…」

「……ディル…?」

「……と、すまない。今の言葉は、その子爵殿と同じ行いだったな」

 ディルムッドの迫力に、少し怖じ気づくゴナン。

「……それで、道は貴族の人優先だから、気をつけないとって、街の人に、教えてもらった…」

 そう呟くように話すゴナンに、ミリアがピッと背筋を伸ばして答えた。

「まあ、ゴナン。そんなことはないわ。この道はおおやけの道よ。公道は平たく、身分の差異なく使えるものだわ」

 しかし、ナイフがそのミリアの言葉を止めた。

「ミリア。あなたがそう思っていたとしても、世の中の貴族サマのほとんどは、そうは思っていないのよ。その子爵の行いは極端だけど、大なり小なりそういう態度は取られるし、私達も当然のように道をさっと空けるのよ」

「……」

「あなたは身分を明かせば、お空を見上げるほどふんぞり返ってていいし、そこらにいる子爵様なんて10歩下がって地べたにひれ伏すほどのお人だけど、今は世を忍んでいる普通のミリアさんよ。現実を見て、対応してね」

 そう言われて、ミリアは目を伏せた。

「……ええ、そうね。ナイフちゃんの言うとおりだわ。これは、世を知らないわたくしのきれいごと……」

 そううつむくミリアに、ナイフは慰めの言葉はかけられない。代わりにエレーネが、無言でミリアの肩に手を遣った。しかしミリアはすぐに顔を上げ、ナイフのエメラルド色の瞳を真っすぐ見る。

「……わたくしも、貴族にぶつかったら、きちんと蹴られるわ」

「ミリア。そういうことではないわ」

 ナイフは肩をすくめてクスッと笑った。そんな皆の様子を見ながら、ゴナンは考える。

(……こういう風に仲良くしてくれるけど、本当なら……、ミリアもディルも、エレーネさんも……、俺は話すこともできないような人なんだろうな……。俺、そんなことも、知らなかったんだ……)

 そんなゴナンの心情を読んでか、ディルムッドはゴナンの頭を撫でる。

「ゴナン。貴族を代表して私が詫びる。お前は理不尽な目に遭ったのだ。よく堪えたな」

「……」

「しかし、その子爵殿。軍で我が輩下に加わるのならば、しっかりと訓練して心根をたたき直してやるというのに…」

 ディルムッドが物騒な表情でそう口にし、ゴナンは少し震えた。

*  *  *

 そうこうしている内に巨大樹の柵の場所へ来た。入場料を払い、ついにゴナンも樹の間近へと進む。

「すごい、大きいわ。なんというか、とても大きいわ…!」

 ミリアは感激の余り語彙を失っている。上を見上げすぎて倒れてしまいそうだ。「ミリア、ひっくり返るわよ」とエレーネがクスクス笑いながらミリアを支えている。



 ひとまず、他の観光客がやっているのと同じように、巨大樹に触れてみる一行。といっても、ひとまず触れるのは根の部分である。根も恐ろしく広範囲に伸びており、そしてディルムッドの背を超えるほどの高さがあるのだ。はしごで根の上に登って、ようやく幹に触れることができる。

「……なんだか、すごいパワーを感じるような、気がするような……」

「そうですね…。すごいパワーを感じるような気が、するような、しないような……」

 ミリアとディルムッドが素直な感想を口にする。

「アーロンでん…、兄君も同じような感想を口にされていたように記憶しております」

「まあ、そうなのね。でも、あの風聞紙には『王太子殿下はとても感激していた』と書いてあったようだけど」

「まあ……、記事とは、そのようになるものですよ」

 そんな2人に倣って、巨大樹にゴナンも触れてみる。普段、身近にある木々よりも木肌は荒く、そして乾いて感じられる。まるで大きく虚ろな抜け殻に触れているかのようで、またゴナンは怖気を感じてしまっていた。頭上の枝を見上げると、青々とした大きな葉がわさわさと生えてはいるが…。

「どうしたの、ゴナン」

 あまり楽しそうではないゴナンに、ナイフが尋ねる。

「うん……、なんか、この樹、元気ないなって思ってて……。ガイドさんに聞いたら、最近枯れかけてきているらしいんだって」

「まあ、そうなの? 元気そうに見えるけどね。寿命かしらね。まあ、この木も相当なおじいさんだものね。ああ、おばあさんかもしれないわね」

 そう聞いて、ナイフは改めて葉っぱを見上げる。

「だったら、洞に入れるのも今のうちかもしれないわね。行きましょっか」

「えっ、でも400アストもかかるんだよ、もったいないよ」

「ふふっ。たまには私におごらせて。リカルドばかりずるいと思ってたのよ、いつも。それに、何かリカルドに関わるヒントがあったりするかもしれないしね」

「でも……」

 いつものように遠慮するゴナンに、ナイフはウインクする。

「あなたの快気祝いよ。こういうものは素直に受け取るものよ、ゴナン」

「うん……、ありがとう……」

 そううつむくゴナン。最初にこの街に来たときとあまりにも自分を取り巻く状況が違って、この街の景色がまるで違う風に見えていた。つい数日前まではなんだか、薄暗い負の空気を感じていたのに。

(……あんな目に遭ったのは、俺が、巨大鳥に乗ってたからかな…、それで、俺に、不幸が……)

そう考えてゴナンは首を横に振る。そのような考え方は良くない気がする。きっとこの街でゴナンに起こった出来事は、そういうことではない。

(……仲間って……、本当に、ありがたいな…。けど、俺、甘え過ぎちゃいけない気がする…。リカルドにも……)

 洞へ入る手続きをしている皆を眺めながら、ゴナンはそんなことをボンヤリと考えている。
 



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